マニア心をくすぐる小型サーバー「ProLiant MicroServer」のハードウェアを徹底分析
先日発表された日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)のコンパクトなサーバー「HP ProLiant MicroServer」(以下、MicroServer)は、企業だけでなく、個人ユーザーにとってもマニア心をくすぐるサーバーだ。なんといっても、最小構成で3万5700円という価格が魅力になっているが、実は、低価格だが作りはきちんとしており、非常に活用のしがいのあるサーバーに仕上がっている。
クラウド Watchでは、このサーバーの特徴を、数回にわたってレポートする。
■非常に小ぶりなサーバー、大型ファンの採用で動作音も静か
MicroServerのフロントパネル。 (1)電源スイッチ (2)USBポート×4 (3)DVDドライブ (4)フロントパネルの錠と鍵 |
まずは、外側を見てみよう。
大きさとしては、21×26×26.7cmと非常に小ぶりだ。マスクメロンを入れる箱よりも一回りぐらい大きいと思えばいい。この大きさなら、書類棚に入れたり、デスクの隅においたりしても、邪魔にならないだろう。
マザーボードの取り外しや光学ドライブの取り付けには、ねじ回しは一切必要ない。本体に取り付けられたバネ式のネジを手で回すだけでOK。ネジは、マザーボードやケースに付いているので、ケースからマザーボードを外しても、ネジをなくすことはない。
ファンは、バックパネルに12cmの大型ファンが1つだけ。マザーボードにも、HDDケースにもファンは付いていない。CPUやチップセットなどが低消費電力なので、これでも大丈夫なのだろう。バックパネルのファンは、ちょうどHDDケースの裏にあるため、発熱の多いHDDを効率よく冷却する。
何よりもうれしいのは、大型のファンを採用することで、騒音レベルを21.4デシベルにまで下げ、静音化を実現している。21.4デシベルといっても、数字だけではピンとこないが、日本HPでは「そよ風で木の葉がふれあうぐらいの音」と説明している。実際に音は静かで、ハイエンドのデスクトップPCでも、これ以上に音のうるさいPCは数多くある。サーバーで、これだけの静けさを実現している点には驚く。
フロントパネルはシンプルな作りだが、少し気になるのがLEDだ。電源オン時にHPのロゴを後ろから照らしており、オフィスにおいて24時間動作するとなると、青のLEDが明るすぎる印象がある。LEDの照度をコントロールできれば、うれしかったのだが。
電源は200Wで、冗長化やホットプラグには対応していない。
MicroServerのバックパネル。 (1)12cmの大型ファン (2)PCI Express x16(左)、PCI Express x1(右) (3)eSATAポート (4)LANポート (5)USBポート×2 (6)VGAコネクタ |
■CPUやチップセットは?
続いて、MicroServerを構成しているパーツを見ていこう。
MicroServerのフロントパネルを開けたところ。最小構成3万5700円と個人でも買えるサーバーで、低価格だが、作りはキチンとしている |
AMDのサイトで公開されている、Athlon II NEOを使ったモバイル向けプラットフォームのブロック図。MicroServerもこのブロック図とほとんど同じ構成だ |
MicroServerでは、AMDのAthlon II NEO N36L(1.3GHz、デュアルコア)というCPUを採用している。CPUコアは2個備えているが、低消費電力、低発熱が特徴で、ブランドからも、主にモバイル向けのCPUと推定される。
ただしクロックは低いものの、64ビットサポート、仮想化サポートなど、ハイエンドのCPUと全く変わらない性能を持っている。
メモリは、ECC付きのDDR3 800MHzを使用し、メモリスロットは、2スロット(DIMM)が用意された。このため、4GBを2枚挿せば、最大8GBのメモリ容量が実現可能だ。
なお、本体に添付されているメモリは、DDR3 1333MHzが使われていた。これは、メモリの入手性などを勘案した結果だろう。ECC付きのDDR3 1333MHzメモリは、Mac Proでも採用されているため、秋葉原などの小売点でも比較的入手しやすい。
チップセットには、RS785EとSB820Mが使われている。両チップともモバイル用のチップなので、低消費電力かつ低発熱となっている。
ノースブリッジのRS785Eは、AMDのRadeon HD4200グラフィックコアを内蔵している。このグラフィックコアには、UVD(Unified Video Decoder) 2.01が搭載されている。UVDは、GPU内部に搭載されたメディアプロセッサで、UVDを利用することで、MPEG2、H.264/MPEG4などの負荷のかかるビデオ再生などの処理をGPU側で処理することができるようになる(CPU側の負荷が少ない)。
サウスブリッジのSB820Mは、HDDインターフェイス、USBインターフェイス、オーディオ機能などを備え、SATAは3Gbps接続に対応。RAID 0/1をサポートしている。
なお、Athlon II NEO N36Lのスペックを確認すると、ECCなしのDDR3もサポートしているし、サウスブリッジのSB820Mも本来、SATA 3.0(6Gbps)をサポートしている。これらは、MicroServerでも利用できる可能性はあるが、日本HPではいずれもサポートしていないので、その点には注意したい。
■MicroServerのハードウェアは?
MicroServerは、SATA接続のHDDと光学ドライブ、eSATA接続のドライブをサポートしている。HDDベイには4台まで内蔵可能で、2TBドライブを4台入れれば、最大8TBの容量が実現する。
HDDベイは、マウンタを利用する仕組みで、HDDをマウンタに入れて、スロットに挿すだけで、自動的に電源やSATAインターフェイスに接続できる。狭い本体に手を突っ込んでケーブルを配線する、といった手間がかからないように工夫されているわけだ。
また、HDDをフレームに固定するためには、専用のネジとねじ回しが必要になる。このネジとねじ回しは、MicroServerのフロントパネルの裏に用意されている。これなら、ネジもねじ回しもなくさなくてもいい。さすがに、サーバー向けのProLiantの名称が付いている製品だ。安くても、きちんとしている。
HDDは、縦置きで4台入る。HDDはHDDマウンタに入れて、差し込むだけで接続できる | HDDを引き抜いたところ |
HDDは、右のHDDマウンタに専用ネジで留められる | MicroServerのフロントパネルの裏。 (1)光学ドライブ、HDDを固定するための専用ねじ回し (2)HDDを固定する専用ネジ |
光学ドライブも特殊なモノではなく、ふつうのSATA接続のドライブだ。このため、秋葉原などでドライブを買ってきてインストールすることもできるが、できれば奥行きの短めのドライブを購入したほうがいいだろう。奥行きが長いものでも入れることはできるが、後ろのケーブルの取り回しがやりにくいため、奥行きの短い光学ドライブがベストだからだ。
ちなみに、最小構成では光学ドライブは搭載されていないため、ユーザーが5インチベイに、HDDを増設して使用することもできる。
光学ドライブを接続するには、バックパネルのネジを緩め、上カバーをスライドさせる | 上ケースを外したところ。光学ドライブは、奥行きの短いモノが便利 | 下の止め具を押して、光学ドライブを引き出す |
■充実したインターフェイス、PCI Express x16も搭載
USBポートは、フロントに4ポート、バックに2ポート用意されている(すべてUSB 2.0)。さらに、マザーボードに直付けで、USBポートが1つ用意されている。日本HPではテープ用としているが、この内蔵USBポートをうまく使えば、ESXiなどのハイパーバイザー、LinuxなどをUSBメモリからブートすることも可能かもしれない。
Ethernetには、サーバー向けの「オンボードNC107i PCI Express Gigabit サーバーアダプター」(以下、NC107i)をマザーボード上に用意している。NC107iは、ブロードコムのEthernetチップを使用している。サーバーという用途を考えると、ネットワークは非常に重要。このことからも、安くても、きちんとしたサーバーを提供するという日本HPの姿勢がよくわかる。
グラフィックは、ノースブリッジのRS785Eに内蔵されている「Radeon HD 4200」が使われている。解像度は最大1920×1200ドット、1677万色と、デスクトップPCに使われるグラフィックカードと遜色(そんしょく)ない。ただ、グラフィックメモリはメインメモリを使用する(UMA)ため、メインメモリから128MB分が使われる。最近では、「SidePort Memory」という仕組みで、RS785Eに128MBのグラフィックス用ローカルメモリをするやり方もある。それほどコストがアップするとは思えないので、できれば、メインメモリを使用しない仕組みにしてほしかった。
拡張カードスロットとしては、PCI Express x16とPCI Express x1が1本ずつ、計2本用意されている。2本の拡張カードとも、ハーフハイト(高さ半分)/ハーフレングス(長さ半分)しか入らない。このため、通常の拡張カードを挿そうとすると、ケースに入らないことも起きるから注意が必要だ。
また、PCI Express x16は、25Wまでのカードしかサポートしていない。さすがに、電源が200Wということを考えれば、最近のデスクトップ用ビデオカードのように、補助電源が必要になるビデオカードは使用できないと考えるべきだろう。
なお、MicroServerのオプションとして販売されているリモートアクセスカードは、PCI Express x1スロットを使うようになる。このため、リモートアクセスカードを使った場合は、拡張スロットとしてはPCI Express×16 1本しかなくなる点にも、注意が必要だ。
このほか、MicroServer本体内部には、セキュリティなどを補助するTPMモジュールを接続することもできる。ProLiant純正のTPMモジュールを使うため、5000円かかる。
HPでは、動作保証するOSとしては、Windows ServerおよびRed Hat Linuxとしている。しかし、Windows 7などのデスクトップOS、ESXi、XenServerなどハイパーバイザーなども動かすことはできる。保証外のOSを動かすときには、日本HPの保証がなくなるため注意が必要だ。もちろん、ドライバなど動作に必要なソフトは、ユーザー自身で集めてくる必要がある。
次回は、実際にOSをインストールして、どのくらいのパフォーマンスがあるかベンチマークを行ってみる。