仮想化の課題を解決する~「Cisco UCS」と「Data Center 3.0」構想の価値


 急速に普及したx86サーバーは言うまでもなく、最近ではデスクトップの仮想化も急速に成熟しつつあるし、データセンターの主要構成要素でもあるストレージやネットワークに関しても、仮想化によってリソース使用量を最適化する取り組みが広がりつつある。しかし、残念ながら既存の仮想化技術はまだサーバー/ストレージ/ネットワークといった個々の要素ごとに独立して実装されている段階だ。

 このため、仮想化の導入によって得られるメリットは多々ある一方で、システムの複雑性が増してしまい、運用管理の負担が重くなってしまうという課題もある。市場においては、IAサーバーの仮想化の「ブーム」的な状況が一段落し、先進的なユーザーの間で仮想化のメリットとデメリットを冷静に判断する動きが目立ち始めてきたところだ。

 シスコシステムズ(シスコ)では、統合・仮想化したシステムをつなぐネットワークの最適化を行い、パフォーマンスや運用効率などを最大限に高めた次世代対応型データセンター「Data Center 3.0」を提唱。9月28日には、その延長線上にある「Cisco Data Center Business Advantage(DCBA)」を発表したほか、製品としても、データセンター向けスイッチ「Cisco Nexus」、サーバー製品を含めた統合ソリューション「Cisco UCS(Unified Computing System)」などを多数リリースし、データセンターにおける諸問題の解決に、積極的に取り組んできた。

 今回は、こうしたシスコの取り組みにスポットをあてて、その特徴を紹介する。

 

ネットワークをプラットフォームにするシスコの戦略

データセンター仮想化の現状

 シスコの仮想化への取り組みは、“Data Center 3.0”といったコンセプトからも分かるとおり、個々の要素技術にとらわれてしまうことなく、データセンターのインフラ全体を視野に入れた統合的な取り組みとなっている点に特徴がある。Data Center 3.0でシスコはまず技術面から「統合化」「仮想化」「自動化」「ユーティリティ」「マーケット」の順で実装が行われていくと考えている。統合化によって「場所からの解放」が実現し、仮想化によって「ハードウェアからの解放」が実現、さらに自動化によって「プロビジョニングからの解放」が実現する。

 また、技術面では、統合化のためにまず「データセンターネットワーク」が必要となり、仮想化のために「ユニファイドファブリック」が必要となった。現時点で到達している自動化のために必要となったのが、「ユニファイドコンピューティング」である。

 シスコにとって“Unified”(統合化)とは、同社がこれまで一貫して取り組んできた進化の歴史そのものだとも言える。例えば、10年前にはさまざまなネットワークを“TCP/IP”に統合し、2000年にはIPネットワークと電話網を統合して“Converged Network”を実現している。

 続いて、2009年にはFCoE(Fibre Channel over Ethernet)によってEthernetとFC-SANの統合が実現し、2010年にはコンピューティングとネットワーキングの統合としてCisco UCSが製品化された。こうして、ネットワークにさまざまな機能要素を統合し、ネットワークをプラットフォームに進化させていく(Network as a Platform)ことこそが、同社が長年にわたって取り組み続けてきた最大のテーマなのである。


Data Center 3.0の進化の過程Data Center 3.0が目指す理想像と、その価値

 従来のコンピューティング中心の視点からはネットワークは「周辺機器」と位置づけられることになるため、コンピューティングとネットワーキングの統合は「異なる要素を無理やりくっつける」取り組みに見えてしまうかもしれないが、これは間違いだ。シスコのUCSへの取り組みは、現在の個別要素ごとに独立に実装されてきた仮想化技術をユーザーが自力で組み合わせてシステム化する際に直面するさまざまな課題を解決し、統合されたプラットフォームとして利用することを可能にするための技術なのである。

 

Cisco UCSが解決する課題

サーバー仮想化で陥りがちな落とし穴

 現在のサーバー仮想化技術では、対象となる物理サーバーは基本的に1カ所に集約されていることを前提としている。しかし、今後仮想化の利用が普及し、クラウド環境にまで発展していくことを考えると、単一拠点に集約された物理サーバーだけを対象とした仮想化では不十分で、サイト間でも自在にVMを移動し、マルチサイト間でワークロードを最適化する必要もある。ネットワークとサーバーを統合することで、データセンター間でVMのモビリティが実現可能になる。

 仮想化を導入したユーザーが現在直面している課題として、「統合後のサーバーに大量のケーブルが集中する」「仮想サーバーの移動にネットワークポリシーが追従できない」といった問題がある。これらは、サーバーとネットワークを別々に仮想化しようとするから生じる問題だと言えるだろう。現在のIAサーバーではマルチコアの強力なプロセッサが使えるため、プロセッサの処理能力だけに注目して処理を統合していくと仮想サーバーの数が意外に多くなり、多数のケーブルが集中することになる。

サーバー管理者とネットワーク管理者の境界があいまいになるという問題に対しても、Cisco UCSでは解決策を用意している

 また複数の仮想サーバーを1台の物理サーバー上に集約すると、物理サーバーの内部に仮想的なネットワークが作り出されることになるが、これをサーバーの機能と考えるのかネットワークと考えるのかで担当が分かれることになる。

 ライブ・マイグレーションなどで仮想サーバーを移動するとセキュリティ設定などのネットワークポリシーが追従できないという問題は、サーバーとネットワークが独立に仮想化されたことから生じる問題の典型例とも言えるだろう。ネットワークポリシーはネットワーク側でスイッチの特定のポートに対して適用されたりするので、接続先となるポートが変更されるような移動には追従できない。仮想サーバーが自在に動き回る仮想化時代には、ネットワーク側でもそうした状況を前提とした機能の実装が強く求められることになる。

 こうした問題に対してCisco UCSでは、「Cisco VN-Link」によって透過的な解決策を提供している。仮想化ソフトウェアがハイパーバイザ上に構築したサーバー内部の仮想ネットワーク・スイッチも従来の物理的なネットワーク・スイッチと同様に設定/管理ができ、仮想サーバーごとにどのようなポリシーが適用されているかも可視化される。さらに、仮想化ソフトウェアと密接な連携が実現されているため、物理サーバーの境界を越えて仮想サーバーが移動した場合でも、ポリシーが正しく追従し、移動先でも従来と全く同じポリシーに基づいた運用が可能になる。


VN-Linkでは、仮想サーバーが移動しても、ネットワークの設定やセキュリティポリシーが正しく追従することから、移動先でも従来と同じポリシーでの運用を継続可能だ

 Cisco VN-Linkに対応した初の製品としてリリースされた「Cisco Nexus 1000V」は、VMwareが実装する仮想スイッチの機能をシスコのネットワーク・スイッチで置き換えるような形で利用できる仮想スイッチ製品であり、VMwareとCiscoの密接なパートナーシップによって初めて実現できたものだ。

VMwareの仮想スイッチを置き換える「Cisco Nexus 1000V」では、VN-Linkなどの機能がサポートされている

 Cisco UCSでは、従来は物理ハードウェアからの分離を実現したサーバー仮想化技術からさらに一歩先に進み、クラウド時代の新アーキテクチャとして「ネットワークにとけ込むコンピュータ」を実現した。これによって、仮想化されたサーバーの機能が、「仮想CPU+仮想メモリ+OS」といったレベルに加えてさらに「アドレスやパラメータ」「LAN/SANといったネットワーク接続形態」「ポリシー」といった種々の要素もすべて仮想化され、ハードウェアから独立に扱うことができるまでに進化している。


Cisco UCSは、コンピュータとネットワーク、仮想化が融合した新たなプラットフォーム「NWに溶け込むComputer」としてデザインされているCisco UCS

 ネットワーク接続はFCoEに対応した10Gbps Ethernetに集約されたことでケーブリングもシンプルになり、トラフィックの種類によらない一元的な管理が実現している。さらに、プロセッサの処理能力向上によって不足しがちなメモリに対する対策も独自技術に基づいて実装され、一般的なIAサーバーに比べて約2.7倍にも達する48 DIMMスロット/384GBという大容量メモリが利用可能だ。


I/Oの統合により、シンプルなケーブリングを実現ケーブルは、従来のサーバーの1/10以下に抑えられているという

 

UCSに触れる「Cisco UCSファースト・タッチ」

 Cisco UCSはネットワークとサーバーの統合的な仮想化を従来以上のレベルに進化させた、業界でも最先端の取り組みだ。そのため、実際にUCSを利用してシステムを構築するには、従来のようなネットワークとサーバーを独立に構成して組み合わせるようなアプローチではなく、システム・インテグレーションの側でも進化に応じた設計手法を採らないとその真価を発揮させるのが難しくなる。

 また、「百聞は一見にしかず」などとも言うとおり、進化の度合いが大きければ大きいだけ、それがどのようなユーザーメリットにつながっているのか、説明を聞いただけでは実感として分かりにくく、具体的なシステムの動作状況を見ないと、という面があるのも確かだ。

 そうしたユーザーの声に応えて、シスコとUCS販売パートナーは共同で、「Cisco UCSファースト・タッチ」という取り組みを開始した。これは、オンラインのプレゼンテーションと実機デモを組み合わせたもので、より具体性を伴ったシステム・イメージを確認できるように構成される。

 まずはUCSの基本的な機能を確認するところから始まるが、これまでのシステム・イメージを根本から変えてしまうようなUCSの機能を具体的に見ていくことで、ユーザー側でも新しいITインフラのイメージがつかめ、さらにユーザー個々の状況に合わせてどう使っていけば最大限のメリットを引き出せるのか、あるべき将来像を思い浮かべるためにも有益だろう。

 さらに、UCSファースト・タッチは画一的な内容で提供されるものではなく、パートナー各社がそれぞれ独自の構成で実施する「生きた」デモが特徴となる。つまり、パートナーごとの得意分野やそれぞれの経験や実績を踏まえたノウハウなど、パートナー各社と自社のシステム要件の「相性」を確認するための好機ともなる。しかも、東京のみならず、名古屋、大阪、福岡でも開催されるため、地方であっても、比較的参加がしやすい。

 UCSは、従来にない革新的な設計を盛り込んだ最先端のシステムであり、事実上市場に競合製品が存在しない唯一無二の存在となっている。このため、既存製品と比較することでアドバンテージが即座に理解できる、というほど分かりやすいものでもないのは確かだ。そうしたUCSの具体的な姿を確認し、次世代のITインフラを手に入れるための第一歩として、まずはUCSファースト・タッチに参加してみてはいかがだろうか。

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