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ジョンソンコントロールズ、旺盛な需要に対応しデータセンター事業の拡大に注力
2025年1月6日 06:00
ジョンソンコントロールズ株式会社は、2025年度の事業戦略について説明。データセンター事業の拡大に注力する方針を打ち出した。
ジョンソンコントロールズの吉田浩社長は、「データセンター事業の売上高は前年比2~3割増となっている。2025年も引き続き、2~3割増で推移すると予想している。人員配置でも優先させ、旺盛なデータセンター需要に対応していく」と語った。
また、「高成長・高需要市場へのフォーカス」、「業界の人手不足対策」、「脱炭素化の支援」の3点を、2025年の重点方針に掲げ、データセンターや半導体工場、EVバッテリー工場などの高成長市場への展開を中心に、事業成長を加速する。
「現在、日本における売上構成では、最も規模が大きい一般オフィスビルに続いて、データセンターが2番目の規模になっている。日本法人にとって重要な事業に成長しており、しばらく成長が続くと想定している」と位置づけた。
高成長・高需要市場へのフォーカス:データセンター事業への取り組みを拡大
ひとつめの「高成長・高需要市場へのフォーカス」では、データセンター事業への取り組みを挙げた。外資系データセンターの新設や増設への投資規模が年々拡大しており、海外で実績を持つジョンソンコントロールズの信頼性を生かして、国内におけるデータセンター事業の拡大に弾みをつける。
「新規参入の外資系データセンター事業者も増えており、本社との連携を強化することで、早い段階から情報を獲得し、日本における技術的なアドバイスをすることができる。受注獲得でも優位に商談を進めることができる」とする。
クラウドサービス拠点としてのハイパースケールデータセンターの増設、AIサーバーの需要拡大などによるデータセンターの高度化にも対応していくことになるという。また、地方都市においては、半導体工場やEVバッテリー工場の建設などにも対応していくとした。
データセンター事業の拡大に向けた一手が、2024年12月に、茨城県坂東市に開設した坂東HAVCサービスセンターである。
圏央道の坂東インターチェンジの近くに立地し、印西や青梅、相模原など、首都圏のデータセンター集積エリアへのアクセスがよく、HVAC製品の納品の迅速化や、サービス向上を実現するのが狙いだ。
床面積は1200平方メートルで、約50台の空調機が保管でき、大型チラー配送用トレーラーを2台同時に収容できる。中国や欧州から航路で輸入している冷凍機や空調機の予備パーツを、首都圏に常時在庫することで、部品交換や修繕を迅速化するほか、空調機の気密調整なども行い、品質の安定化も図る。
「日本のメーカーと差がつかないようなサービス体制を整えた」と自信をみせた。
データセンターでは、GPUを活用したサーバーの導入にあわせて液冷化が進み、サーバールーム全体を冷却する必要がなくなるなど、チラーに対する要求にも変化がある。だが、「いかなる冷却方式に対しても、制御が重要であることに変わりはない。水冷チラーから空冷チラーへと回帰する動きがあったり、液冷サーバーの増加によって冷却方法が変化したりということが起きても、ジョンソンコントロールズが得意とする自動制御の部分は、制御する対象が変わるものの、ビジネスは大きな影響を受けないと考えている。お客さまの要求を理解し、最適なシステム提案を行うことができる強みを生かす」と語る。
業界の人手不足対策:熟練から若手への技術継承、デジタル技術の活用による効率化など
2つめの「業界の人手不足対策」では、熟練から若手への技術継承のほか、AIやデジタル技術の活用による効率化、品質向上に取り組む考えを示した。2024年11月には、同社初の生成AIアプリケーションを取り入れた「OpenBlue Enterprise Manager」の機能拡張を発表。さらに、OpenBlue RDRによるリモート点検の活用を推進するとともに、リモート点検の対象となる保守メニューを拡張することで、顧客の生産性向上に貢献していくという。さらに、保守サービスメニューの拡充や、ビルオートメーションシステムのMetasysによる実機研修施設の拡張にも取り組むという。
「人材の採用は積極化しているが、旺盛な需要を賄えるのに必要な人員を確保することは基本的には難しいと考えている。デジタル化の推進とともに、海外人材の活用などにも取り組む」とした。
脱炭素化の支援:小・中規模建築物の省エネ基準の引き上げなど
3つめの「脱炭素化の支援」では、炭素の排出量の4割が建物に起因していることに着目。国内における小規模および中規模建築物の省エネ基準の引き上げや、有価証券報告書へのサスティナビリティ関連事項開示義務化などをとらえた提案を進める。
また、データセンター向け高効率空冷式チラーの国内導入を新たに提案する考えを明らかにし、2024年から参入準備を進めてきた水冷式チラーとともに、チラー事業の拡大を図る。さらに、OpenBlue Enterprise Managerの導入強化によるサスティナビリティレポーティングの支援、クラウドベースのMetasysの国内導入の推進なども行う。
「2025年にグローバルで発表予定の空冷式チラーを日本でも発売したい。日本での発売に遅れがないように、高圧ガスの認定取得にも取り組む。また、チラーに関する技術者を社外からも採用し、HVAC推進本部にリソースを集中している。今後、チラーのビジネスを拡大していく予定であり、動きが速いデータセンター事業者の要望に応えられるように、チラーの品ぞろえをそろえていく必要がある」などと述べた。
2024年は高成長市場の案件にフォーカスし高い成長率を維持
一方、2024年の国内ビジネスの状況についても振り返り、「高成長市場の案件にフォーカスしたことで、高い成長率を維持した。特に、データセンター向け制御システムが好調であり、外資系企業のデータセンターの建設ラッシュが、当社の業績に貢献している」と語った。
同社では、2023年10月に、独立組織でとしてデータセンターソリューション事業部を設置し、各支店に分散していたデータセンター関連事業の社員を集約。東京本社のほかに、横浜と印西、大阪にオフィスを開設し、データセンターの集積エリアに近い場所からサポートできるようにしている。システムエンジニアリングや施工体制も、データセンター事業向けに最適化。顧客のコスト要求と二重化による信頼性確保のバランスを維持した形で、個別提案を実施していることを強調した。
「データセンターは、一般的なビルとは施工体制が異なる。サーバールームが10室ある場合には、最初は2、3室を受注し、それを稼働させながら、次の受注を獲得していくことになる。最初の建設で学んだことを、次の建設に有効活用しており、それにあわせた施工体制を敷いている。また、この仕組みを利用することで、学んだことをパートナーと共有しながら、建設することができ、最適な人数のエンジニアで対応が図れたり、エンジニアリングの標準化を図ったりすることで、同じ陣容でも施工能力の幅を広げることができる。独立したデータセンターソリューション事業部を設置した狙いもそこにある」と述べた。
また、2024年には、データセンターの高温化に対応した大型水冷式チラー「YORK YZシリーズ」の国内販売を開始する体制を新たに整えた。「外資系データセンターでは、グローバルで共通のチラーを選定するケースが多い。グローバルでの実績と、国内における施工体制を持っている当社の強みが生かせる領域になる。YORK YZシリーズは、メンテナンスコストを含めると競争力がある製品になる」とした。
また、「データセンターの新築案件は緊急性が高く、工期が短いという特徴があり、一般的なオフィスビル建設の工期が長期化するのとは対照的である。データセンターの案件で緊急性が高い案件があり、増員が必要になった場合には、他部門から人材を流動的に配置するということもオプションのひとつに考えている」とした。
一方、データセンター事業以外では、製造業の国内生産回帰や、商業施設とオフィスを融合した大規模施設の整備が進展する一方で、工期の長期化や延期、人材不足といった課題が生まれていることを指摘した。また、ジョンソンコントロールズでは、住宅および小規模商業施設向けHVAC事業をボッシュに売却することを発表しており、「これまではビル空調を中心とした戦略を推進していたが、空調だけでなく、セキュリティや防火システムなどを含めたビルシステムやデジタルソリューションを、商業ビルや産業設備向けに提供することに注力する」との方針を示した。
同社では、2024年7月に、最新版となる「MetasysビルオートメーションシステムRelease 13.0」の国内出荷を開始。クラウドサービスとして提供しているほか、直観的なUIを新たに採用し、長年の経験がない管理者でも、ビル管理業務をスムーズに行えるようにしたという。また、2024年からは、保守サービスにデジタル技術を活用した「OpenBlueRDR(Remote Diagnostics and Reporting)」を、国内で本格展開。リモート診断を通じたレポーティングによる作業負荷の軽減、不具合検知による安定稼働の支援を行っている。
さらに、リソースの最適化では、新規の大型プロジェクトが増加していることにあわせて、リソースを全国規模で最適配置できるマトリクス組織体制を導入。インドに日本市場に専任で対応するエンジニアを配置したり、業務の標準化および集中化を進めたりしているという。社員全員のPCに生成AIを導入するとともに研修を実施。事務業務の効率性改善に活用していることも明らかにした。