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AR/VRコンテンツの作成を低価格で――、クラウド経由での操作も可能なパナソニック コネクトのリモートカメラ

 パナソニック コネクト株式会社が販売するリモートカメラは、遠隔地から簡単に操作することが可能な、プロフェッショナル(放送など)用、業務用、文教用のカメラになる。形状が同じ固定カメラとしては、いわゆる監視・防犯用カメラがあるが、そちらは比較的解像度が低く、長時間録画などを重視しているのに対して、リモートカメラは4Kなどの高解像度となり、ハイエンドモデルでは放送用のカメラに匹敵するような画質を実現している。

 そうしたリモートカメラだが、例えばスタジアムの高所、自動車レースのサーキットのような、敷地が巨大で人間がいなくても撮影したい場所、多くの部屋で並列的に分科会が行われるようなカンファレンスでの自動撮影など、リモートで操作できるという特徴を活用した利用方法のほか、トラッキングデータを出力できる特長を生かして、VTuberと人間が同時に演奏するようなARコンテンツの作成といった、意外な利用方法も可能になっている。

パナソニック コネクト株式会社 メディアエンターテインメント事業部プロAV商品企画部 カメラシステム企画課 エキスパート宮地宗徳氏(左)、パナソニック コネクト株式会社 メディアエンターテインメント事業部プロAV商品企画部 カメラシステム企画課 エキスパート野崎康平氏(右)

放送用にも使えるような高画質なカメラが固定になってリモートで操作するのがリモートカメラ

 一昔前は、カメラと言えば放送用のムービー用カメラ、あるいは一眼レフ、コンパクトカメラのような、運動会やイベントといった「ハレの日」を撮影するものが一般的だった。しかし、00年代に携帯電話(今で言うところのフィーチャーフォン)にカメラが実装されるようになって以降、今や誰もが、カメラを常時持って歩くのが当たり前になりつつある。特に、最新のスマートフォンのカメラは高画質化が進んでおり、ヘタすると一昔前のプロ用のカメラよりも高画質・高品質な静止画や動画を撮影できるようになっている。

 そうしたカメラの中でも、今回紹介するリモートカメラは独特の位置づけのカメラとなる。リモートカメラは、簡単に言ってしまえば、どこかに固定しておくカメラで、最大の特徴は、遠隔地からリモートコントロールでカメラの画角やズームなどを操作して撮影できるカメラということになる。

 外見を見ると、最近街頭などに設置されていることが多い監視・防犯カメラによく似ているので、それと見間違えるかもしれない。しかし、監視・防犯用のカメラは、解像度(撮影できる画像の大きさ、大きければ大きいほど高解像度になる)が放送用などに比べると低めで、データ量などを抑えて長時間撮影できることに注力している。また、基本的には人間が操作するのではなく、固定したらその場所で同じ画角で撮影する。その点が、高解像度で高品質な画像や動画を撮影する目的のリモートカメラとは異なっている。

 誤解を恐れずに言えば、防犯・監視用のカメラは映っていれば良く、とにかく長時間安定して録画できることが重視される。それに対してリモートカメラは、放送や配信などに利用する動画を撮影する目的のため、高解像度で高品質な動画を撮影するカメラということだ。

 では、テレビ局のカメラマンが使っているカメラと何が違うのかと言えば、そうしたカメラは人間が物理的に触って操作する(例えば、カメラの向きを変える、左右に振る、ズームするなど)のに対して、リモートカメラではカメラ自体をどこかに固定して、それを人間がリモートコントローラーを利用して操作するという仕組みになっている。

 例えば、野球場の人間が行けないような高所に固定して設置しておき、それをリモコンで操作して撮影する、あるいは、直接カメラマンは入れないけれど、リモート操作できるカメラを選手のベンチなどに置き、臨場感のある放送を視聴者に届ける――といった使い方が想定される。また、自動車レースのサーキットのような面積が巨大な会場で、コストの問題からカメラクルーを置けない場合に、リモートカメラをサーキットのあちこちに置いておくことで、低コストでレースの中継を可能にする、そうした使い方も1つの事例になる。

リモートカメラのハイエンドモデルAW-UE160、4K/60pで撮影した画像をIP伝送などで出力が可能、クラウド経由で操作も

パナソニック コネクトのリモートカメラ AW-UE160(右)と、リモートカメラコントローラーAW-RP150GJ(左)

 そうしたリモートカメラの市場でトップシェアなのがパナソニック コネクトだ。パナソニック コネクトは、放送局用のプロフェッショナルカメラを長期間提供してきた歴史があり、多くの放送局などで実際に導入されて利用されている。パナソニックのリモートカメラは、そうした放送局用のカメラをリモート操作できるようにしたものと考えておくと、わかりやすいだろう。

 ただ、パナソニック コネクトのリモートカメラの用途はそうしたプロフェッショナル用カメラの置きかえになるハイエンドモデルだけでなく、スタンダードモデル、エントリーモデルといった、機能を抑えて低価格にした製品も用意されており、そのような製品は業務向け(企業向け)、文教向けと位置づけられ、業務の内容に応じて選択できる。

 このような、多数のラインアップを持つリモートカメラの中で最上位モデルとなるのが、AW-UE160というモデルになる。

 AW-UE160は1型(1インチ)のCMOSセンサーを採用し、最大で4K/60pの解像度をサポート、光学ズームは最大20倍、画角は75.1度と広角までをサポートできることが大きな特徴となる。映像出力はHDMI、12G-SDI、3G-SDI×2、IP、SFP+(光トランシーバー、SFP+のモジュールを利用することで10GbEの光ファイバーなどに対応できる)がサポートされている。

 また、放送の現場で一般的に使われ始めているIP伝送規格NDIに標準で対応しておりNDIに対応したスイッチャーを活用できる。加えて、IP伝送の場合に安定して動画を転送する業界標準の最新規格「SMPTE ST 2110」に、リモートカメラとして初めて対応するなどの特徴を備えている。

カメラの背面には、さまざまな入出力ポートが用意されている。SFP+も用意されており、10GbEの光ファイバーによる伝送も可能

 また、パナソニック コネクトが提供するクラウドサービス「KAIROSクラウド」との連携に対応しており、PCなどにインストールしたリモート制御ソフトウエア「PTZコントロールセンター」を利用することで、カメラを現地でなくてもリモート制御し、かつ映像を5Gモバイルルーター経由で、クラウド経由での伝送が可能になる。

 そうしたAW-UE160は、台座に回転するアームがついており、その先に光学手ぶれ補正(OIS)機能を搭載したカメラがついている。左右方向にはアーム自体が回転し、上下方向にはカメラが回転することで、さまざまな方向の映像が撮れるようになっている。その操作は、リモートコントローラーを利用して操作できる。

リモートカメラ AW-UE160、台座部分からでているアームが左右方向に回転、カメラモジュール自体が前後方向に回転することでさまざまな方向の映像を撮影できる。また、カメラモジュールは光学20倍ズームになっており、広角からズームまで焦点距離を変更できる
カメラモジュール部分
レンズ、光学20倍ズームになっておりOIS(光学手ぶれ補正機能)搭載
カメラが動作しているときはLEDのランプがついて撮影中であることがわかるようになっている

 専用のリモートコントローラーとなる「リモートカメラコントローラー(AW-RP150GJ)」では、ジョイスティックやボタンを利用して操作できる。

 例えば、カメラの方向はジョイスティックを利用して上下左右へとカメラの方向を変更可能だ。このカメラの動きは非常に高速で、ビュンビュン動いている。もちろん、撮影の現場でこういう動きをさせることが必要だと言うことではなく、こんな動きをさせられるほど高いレスポンスと速度を実現しているということだ。

リモートカメラコントローラーAW-RP150GJとリモートカメラ AW-UE160を接続しているところ。このように何らかのネットワークで接続してリモート操作を行う
リモートカメラコントローラー(AW-RP150GJ)
リモートカメラコントローラーの背面パネル
ジョイスティックでカメラを上下左右に動かせる。

ハイエンドモデルではSoCだけでなく処理をオフロードするためのFPGAを搭載している

 台座部分にはカメラの制御、そしてキャプチャーした映像を後処理するための基板が入っている。パナソニック コネクト株式会社 メディアエンターテインメント事業部プロAV商品企画部 カメラシステム企画課 エキスパート宮地宗徳氏は「カメラの横に基板とモーターが入っており、それがカメラの上下方向を制御する。そして本体の台座部分には基板とモーターが入っており、モーターがアームを左右に振るのを制御している。台座部分の基板は3段構造になっており、その基板が映像信号を処理して動画に変換して出力する形になる」とその構造を説明する。

 宮地氏によれば、基板が3枚構造になっているのは、冷却を効率よく行うためだという。というのも、その台座は三脚にくくりつけたり、高所などでは直接設置場所に置かれたりする。そうした場合でも効率よく冷却を行うために、3枚の基板を3段にして入れるという形になっているそうだ。

 さらに、その台座部分の基板には2つの画像処理のエンジンが搭載されているという。1つはパナソニックが開発して搭載している映像処理専用のSoCだ。パナソニックのSoCには、Armプロセッサ、色彩補正や傷補正、3Dノイズリダクションなどの処理エンジンが内蔵されており、撮影した映像のディテール処理やエッジを効かせるような処理を行う仕組みになっている。

 宮地氏によれば、エントリーモデルも含めてパナソニック コネクトのリモートカメラにはこのSoCが標準で搭載されており、撮影した映像を処理して高画質化を行いながら、外部に出力できる形式に変換して出力する形になるが、そうした外部への伝送もこのSoCが対応している。

 しかしAW-UE160のようなハイエンドモデルの場合、そうしたSoCに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を搭載している。FPGAは、簡単に言ってしまうと、プログラマブル可能な論理回路ということになり、ソフトウエアを利用してさまざまな回路構成を行うことで、GPUのように使ったりもできるし、CPUのように使ったりもできる。

台座部分にメインの基板が3枚入っている、そこに独自開発のSoCとFPGAが入っている

 宮地氏によればパナソニック コネクトはこのFPGAをカメラ信号からの色変換、フォーマット変換などを行うようになっており、解像度や画質が上がったときに処理が追い付かない場合をカバーする仕組みになっている。

 「SoCだけでタスク処理や映像系の処理をより詳細に行うと、性能的にはギリギリになってしまう。その結果後処理が追い付かないなくなる恐れがある。そこで、AW-UE160のようなハイエンドモデルではFPGAを搭載し、SoCからの処理をオフロードすることで、余裕を持たせている」(宮地氏)とのことで、放送用の機材として内部回路の処理が追い付かずリアルタイム処理が行えなくなるなどの事態を防ぐために、こうした構造にしているのだと説明した。

トラッキングデータ出力機能を活用して、低コストでリアルとAR/VRを混在させたコンテンツの作成も可能

 リモートカメラのもう1つのユニークな機能は、AR/VRの活用ができるようになっていることだ。具体的にはRS422を利用したカメラのトラッキングデータを出力するプロトコルになる「Free-D」に対応している。

VTuberのシンガーとほかのバンドメンバーのARコンテンツ、リモートカメラのFree-Dによるトラッキングデータ同期機能を活用して実現されている。

 パナソニック コネクト株式会社 メディアエンターテインメント事業部プロAV商品企画部 カメラシステム企画課 エキスパート野崎康平氏は「リモートカメラがどのように動いたのか(上下、左右、ズーム、焦点、アイリス)といったデータをARやVRのシステムに渡せる。AR/VR側のシステムがそれを受けて、AR/VR側の映像とマージして出力することが可能になる」と、リモートカメラの情報をAR/VRにわたすことで、AR/VRコンテンツとリアルで撮影した映像を合成することが可能になるのだと説明した。

 それが具体的にどのように使えるかというと、例えばAR/VRのコンサートで、ボーカルはVTuberであるけれど、バンドのほかのメンバーはリアル――などというコンテンツを制作できる。

株式会社mikaiによるARライブイベント撮影システム(写真提供:パナソニック コネクト)

 また最近、企業のプレゼンテーションなどで増えている、スピーカーの後ろにプレゼンテーションの画面を合成するといったコンテンツにも対応可能だ。

 このほか、スポーツの中継などで、例えばサッカーボールの軌跡などのデジタル表示をマージして放送する例なども増えているが、ボルダリングジャパンカップのネット中継では、解説の助けになるようなデジタル表示を映像に合成して放送した。これにも、リモートカメラとFree-DによるAR/VRシステムが使われたという。

アーケ株式会社が構築したAR文字合成システム。ボルダリングジャパンカップの中継で、解説用の数字を合成する機能を実現するカメラとしてパナソニック コネクトのリモートカメラが利用されている(写真提供:パナソニック コネクト)、動画でも確認できる

 野崎氏によれば「1000万円クラスの大規模なトラッキングカメラを利用しなくても作成できる」との通りで、このFree-D対応は、スタンダードモデルのAW-UE80(77万円・税別)以上のモデルでサポートされており、100万円もしないカメラでトラッキングができるというのは、そうした用途に使いたいというユーザーにとっては、高いコストパフォーマンスを実現しているといえる。

 また、米国で行われたあるカンファレンスの事例では、ブレークアウトセッションの動画撮影・配信をリモートカメラによって行ったという。米国のカンファレンスなどでは午前中に基調講演で一般的な講演が行われ、午後に分科会で詳細が説明されるのが通例だ。

 基調講演には多くの聴衆が参加するし、コストをかけることも可能であるため、人間が直接制御するプロ用のカメラで収録・配信が行われるのが一般的である。しかし、分科会では多くの会場で同時並行的に行われるため、すべてのセッションを収録しようとすると、その会場分のカメラとカメラマンが必要になる。

 こうした際に、リモートカメラに用意されている自動追尾機能を利用して、スピーカーを常に自動で追いかけるように設定しておくと、ほぼ無人(実際にはコントロールルームからのオペレーターによる監視が必要)で、そうした分科会を撮影することが可能になる。前述のカンファレンスの場合、60強の会場を8人のオペレーターだけで収録や配信が行えたという。

 このように、リモートカメラはプロ用機材に負けないようなハードウエアを持っており、それを遠隔地から操作できるというのが最大の特徴だ。今後、ネット配信をより高画質に、かつ少ない人員で行いたい場合、AR/VRとの合成コンテンツをローコストに作りたい場合はもちろんこと、放送の現場などでも活用が想定されるだけに、リモートカメラの動向は今後とも要注目だ。