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データセンターの持続可能性:議論はユースケース主導で

 現在進行中のエネルギー危機よりだいぶ前から、データセンターは、その消費電力の高さによって批判を受けてきました。その議論の多くは、二酸化炭素(CO2)排出量とそれに伴う地球気候への悪影響を中心に展開されています。

 環境に対する責任と持続可能性への取り組みは、現代のESG(企業、社会、ガバナンス)プログラムの重要な要素であり、環境に配慮した持続可能なITを考える際、ワールドワイドでクラウド ストレージのプロバイダーにも注目が集まっています。クラウドの人気が高まっていることもさることながら、データセンターのエネルギー消費が急増していることが否めないからです。データセンターのエネルギー消費は、世界の温室効果ガス排出量の約1%を占めています。しかしながら、現在のところ代替手段はなく、コンピューティングに関してもストレージに関しても稼働率を非常に高くできることを考えれば、データセンターこそ、持続可能かつエネルギー効率の高い方法で、デジタル化を推進するための最良のソリューションなのです。

データセンターとその利用

 クラウドでインフラ サービスを提供する場合、効率的で持続可能なデータセンターの運用が欠かせません。変動するエネルギーコストは、運用に大きな影響を与える可能性があります。そのため、データセンターの稼働率とそれに伴うエネルギー消費量を適切にバランスさせることが必要不可欠です。最新のデータセンターでは、コンピューティングとストレージリソースの稼働率の向上が期待できます。つまり、一定量のコンピューティングとストレージパワーによる処理量が増加します。これがなぜ重要なのかを理解するために、データセンターの経済的な基礎をおさらいしましょう。

 個人ユーザーが自身のPCに新しいハードディスク ドライブをインストールする場合、ストレージ容量をフルに使うかどうかに関わらず、一定の費用が生じます。同じ人がクラウドプロバイダーからストレージ容量を借り、データセンター経由でハードディスクを操作する場合でも、データはこのハードディスクに保存されることになりますが、費用はハードディスクの使用量に依存し、ハードウェア自体の価値は関係ありません。データセンターの運営者にとっては、ハードディスク上の未使用のストレージスペースはすべて、原則として顧客にレンタルできるスペースなのです。つまり、容量をできるだけフルに使うという、明確なインセンティブがあるのです。

 データ処理にも、同じルールが適用されます。データセンターのオペレーターは、プロセッサのエネルギーと時間の無駄をできるだけ少なくして、稼働率を最大化したいと考えています。

高い稼働率と持続可能性

 高い稼働率が、より持続可能なオペレーションをもたらす理由は、いくつかあります。よくある過ちは、ハードディスクの利用可能な記憶容量が、完全には使用されていない状態です。ハードディスクは、たとえ完全に利用されていなくても、基本的に全エネルギーを消費するため、効率性に関する問題を引き起こします。「空き」ストレージスペースに分配されたエネルギーはほぼ無駄になるわけです。稼働率の高いデータセンターでは、空きスペースの消費電力を最小限に抑えられますから、エネルギーの無駄を減らすことができるのです。

 しかし、データ ストレージそのものは、エネルギー需要の大部分を占める処理と演算に比べれば、エネルギー消費量ははるかに少ないのです。企業がこれらの処理をクラウドで行うことで、コンピューティングとストレージの稼働率が高まれば消費電力は間違いなく削減されます。また、大容量ドライブの導入は、持続可能なカーボンフットプリントにとって重要なポイントです。ドライブの容量を増やすごとに、ストレージ1テラバイトあたりのCO2排出量が大幅に減るからです。

電子廃棄物(E-waste)

稼働率が高ければ、ほかの条件がすべて同じ場合、データセンターが必要とするプロセッサやハードドライブの数が、前述のPCよりも少なくなるはずです。その結果データセンターは、使用済み段階で廃棄しなければならないデバイスの数を減らすことができます。同時に、データセンターのスケールメリットは、電子廃棄物をより効率的に処理できることを意味します。これにより、リサイクルと責任ある廃棄の両方が改善されます。

エネルギー性能向上のためのイノベーションの可能性

ストレージとコンピューティング リソースの統合・標準化は、デジタル化の原動力ですが、これにより廃棄物やエネルギー消費を削減するイノベーションを、より迅速にデータセンターに利用できるようになっています。例えば、液冷CPUはエネルギー消費を最大56%削減できますが、データセンターはこの技術の大規模展開に理想的な標準化環境を提供します。仮に、データセンターがコストと無駄を効果的に削減できるのであれば、単に価格が安いという理由で、エネルギーと資源の消費量を急増させてしまう危険性はあるでしょうか?

良い第一歩

 今年2月に発表された、パブリック クラウド ストレージに関する調査「2023年Global Cloud Storage Index」(Wasabiが委託し、英国の市場調査企業Vanson Bourne社が実施)によると、APAC (アジア太平洋地域)の企業は環境フットプリントへの関心を高めており、データをクラウドに移行する場合、調査対象者の43%が、インフラストラクチャーやサービスプロバイダーの取り組み、カーボンフットプリント計算などの組み込みツールといった観点からの「持続可能性」を重視するとしています。しかし、ITにおける持続可能性は複雑なテーマであることは確かです。

 では、この複雑さを軽減し、焦点を絞った対策を実施するために、企業には何ができるのでしょうか?自社のカーボンフットプリントを確実に測定することは、論理的かつ責任ある第一歩と言えます。消費量の明確な指標を確認することで、企業は長期的に、CO2排出量をより適切に管理・削減・相殺するための戦略を立てることができます。

データセンターの未来

 データセンターは、効率的で費用対効果の高いサービス提供方法であることが、長い時間をかけて証明されてきました。また、ライブドキュメントでの共同作業や、ボタンひとつで何万時間も楽しめるエンターテインメント、集中的な科学データ処理など、メモリや計算負荷の高いユースケースの実現も可能です。データセンターは、デジタルサービスを提供するための最良の手段です。エネルギー消費、持続可能性、電子廃棄物に関する議論において、データセンターは批判の的になるべきではありません。むしろ、データセンターで実行されるアプリケーションにもっと焦点を当て、必要な量の電力やその他の資源を消費するうえで、どのようなユースケースが最も正当化できるかが問われるべきです。問題は、インフラが存在するかどうかではなく、それがどのように使われるかなのです。