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最新版SAP HANA SP9は「マルチテナント」と「階層化」でシンプル化を加速

大本修嗣

 SAPジャパン株式会社は2日、SAP HANAの最新版「SP9」を提供開始した。

 SAP HANAは、2010年末に産声を上げたインメモリ製品。当初は“インメモリデータベース”として誕生したが、OLTP/OLAP統合処理、カスタムアプリ量産、SAP Business Warehouse/SAP Business SuiteのHANA上での動作対応などを経て、「情報系と基幹系のワークロードを単一基盤で実行する“リアルタイムビッグデータ処理基盤”」(ソリューション&イノベーション統括本部 リアルタイムプラットフォーム部長の大本修嗣)へと成長を遂げた。利用企業は全世界で4300社以上、日本におけるSAP HANAビジネスの売上成長率は180%増と業績も上々という。

SAP HANAの概況
特長一覧。白地・太字の部分が新機能

 新版では、新たに「マルチテナント機能」を搭載した。単一ハードウェア・OS上に複数のデータベースを展開し、それぞれ異なるスキーマでアプリケーションを実行可能にするものだ。「たとえば、SAP HANAを分析プラットフォームとして利用し、SAP Business WarehouseやSAP Business Suiteを別の物理システム上で稼働している場合、単一システム上のマルチテナントデータベースとして統合できる」(SAPジャパン)。

 こうしたアプリケーションごとに別の物理システム上で稼働しているケースは、実は多いらしい。今までも複数スキーマ構成としては、単一のデータベース上で複数のスキーマを構成することはできたが、この場合、データベースは共通化されているため、スキーマごとの保守運用管理は困難だった。

 また、ハイパーバイザーを利用すれば、単一のハードウェア上に複数のOSを走らせ、その上でマルチテナントデータベースを実現することはできたが、この場合、OSごとにインストレーションやメンテナンスが必要となり、仮想化ソフトも別途用意しなければならない。

 今回の「マルチテナント機能」は、SAP HANA上でネイティブにマルチテナントデータベース構成を可能にすることで、本当の意味での物理マシン統合を実現。「Run Simple」を標榜する同社にとっても、「SAP HANAをもう一歩先へ進める重要な機能」(同氏)となる。

マルチテナント機能の概要
複数スキーマを構成する場合の今までとの違い

 ただ、SAP HANAの複数のインメモリ処理を1台の物理マシンに統合すると、懸念されるのが必要メモリ量の増加だ。対策として「ダイナミックデータティアリング」という新機能も実装した。データをアクセス頻度に応じて「Hot」「Worm」に分けて、相対的に頻度の低い「Worm」をHDDに転送する――いわゆるストレージ階層化を実現するものである。

 「現在は、どのデータをHotとWormとするかは明示的に指定しておく必要があるが、将来的に動的な階層化を実現させる」(同氏)という。これら2つの機能で、「より本質的なシンプル化とTCO削減を実現する」としている。

ダイナミックデータティアリング機能の概要

 そのほか、従来は別製品でまかなわれていたデータ変換、データクレンジング、ストリームデータのリアルタイム分析をSAP HANAにネイティブ実装。それぞれ「Smart Data Integration」「Smart Data Quality」「Smart Data Streaming」の名称で提供する。

 また、ビッグデータ/IoT分野に向けても2つの新機能を実装。1つは「Hadoop統合機能の拡張」で、SAP HANAのHadoop対応ユーザー定義関数(UDF)によってSAP HANAがMapReduceにアクセスすることで、Hadoop内のジョブを直接実行できるようにした。

 「今まではHadoopからデータを取り込むことまではできたが、新機能でジョブ実行まで可能となる。つまり、Hadoopとデータストアとしての連携だけでなく、処理レベルでの連携を実現した」(同氏)とのこと。

 もう1つは、IoTなどでの利用を想定したネイティブな「系列データ機能」。センサーデータなど時間軸で入ってくるデータを、SQLで表現しやすい系列定義(背が高くて細いテーブル)に変換してくれる。

系列データ機能の概要

 SAPジャパンでは「Run Simple」戦略の中核製品として、今後もSAP HANAを「クラウド対応」「アプリケーション基盤」「ビッグデータとIoT」「オープン性」の4つの観点から機能拡張を図っていく考え。

川島 弘之