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「柿ピー」超えた「kintone」、青野氏がエコシステムや信頼性の現状語る

代表取締役社長の青野慶久氏

 サイボウズ株式会社は10日、kintoneに関する記者説明会を開催。代表取締役社長の青野慶久氏が「ビジネスとしてのkintoneの現状」を説明した。

 サイボウズは、6月26日に業績予想修正を発表。創業以来初の赤字となる見込みとした。しかし青野氏によれば、これはクラウドサービス「cybozu.com」への投資を進めているからで、「赤字ではなく投資。今は赤字でも黒字でもどちらでもよく、行けるときだからアクセルを踏んでいるだけ」という。

 実際、cybozu.comの(解約分をのぞいた)有効契約社数はきれいに右肩あがりで、2014年8月にはcybozu.comで8000社、その一サービスであるkintoneで1700社を突破。売上高は順調に伸びており、その分を積極的に投資に回した結果の「赤字」というわけだ。

売上げ推移(単体)
cybozu.comの有効契約社数推移
従来の保守ビジネスと違って、次年度以降も売上高が安定。これも投資を加速させる一因に

 では、赤字にしてまで投資する勝算はkintoneにあるのか。この点についても青野社長は「確信」という言葉でもって、その手応えをにじませる。現在の開発テーマは「エコシステムの拡大」と「信頼性」の2点だが、その両方における一定の成果が自信の根拠となっているようだ。

エコシステムの拡大

 kintoneのエコシステムは、その販売・製品連携・SIの3種のパートナーから構成される。これまでの直販を基本とした「自分で試せる、すぐに買える」という手軽さに加え、昨今はSIパートナーとの協業により「自分で話を聞き、信頼できるパートナーから買う」選択肢も用意し、その結果、より大規模で複雑な用途にも利用できるプラットフォームへと成長させている。

 SIの分野では、kintoneの開発生産性により、「来店型」「その場でモックアップ」「定額料金制」「短納期」の新しいSIビジネスモデルも生まれている。NSDの「キンもっく(仮称)」やジョイゾーの「システム39」などのサービスが代表例だが、従来のような「工数による見積」「複数訪問(あるいは常駐)」「高額」なSIが、kintoneによって形を変え、より手軽なものになりつつあるのだ。

新しいSIの登場

 一方、開発パートナーに向けては、APIや技術情報を届ける「developer network」というサイトを2014年4月に立ち上げ、パートナー提供アプリは24社47種に達した。さらにICTコミュニケーションがkintoneトレーニング研修プログラム「kintone university」の提供を開始したほか、エバンジェリスト有志による勉強会「kintone cafe」が、2013年12月の第一回からすでに全国で15回を数えるなど、「コミュニティ」と呼べるものが次第に育ち始めている。

パートナー提供アプリは24社47種に
エバンジェリスト有志による勉強会が全国で開催

 業務アプリ開発プラットフォームの分野では、セールスフォースも「Salesforce1」で攻勢を見せている。青野氏にとっては「その名を聞くと、どうしても身構えてしまう(笑)」という因縁の相手だが、「バックエンドの機能が全てそろっているcybozu.comなら開発は最小限で済み、kintoneがフォーカスしている“グループウェア”という分野では開発生産性・販売生産性がずば抜けている」とあくまで強気の姿勢。一方で、エコシステムの観点からは、「プラットフォームはたくさんあっていいと思う。それぞれのアプリがプラットフォームを越えて連携する懐の深さがクラウドにはある」との考えも示している。

信頼性を高める取り組み

 とはいえ、あくまでkintoneの目標は「日本を代表するプラットフォームになること」(青野氏)。冒頭の「確信」という言葉も、昨今のkintoneの受け入れられ方から「そうなれると確信している」という文脈で出たものだ。

 そのためにはプラットフォームとしての「信頼性」も欠かせない。2012年から現在までにkintoneで行われたバージョンアップは17回、機能追加は177件という数字は、「信頼性」への姿勢が端的に表れたものだ。

 今後も堅実に機能拡充を図っていくとのことで、9月にはGaroonのスケジュールと連携するプラグイン、kintoneアプリのデータを簡単きれいに帳票化・印刷するプラグインをはじめとした新機能を提供。11月にはユーザーあたりの標準ディスク容量を2GBから3GBへ拡充し、2015年1月には上記のようなプラグインをパートナー各社が開発して公開できる「サードパーティ製プラグイン読み込み」にも対応する予定だ。

2年間でのバージョンアップ・機能追加
Garoonのスケジュールと連携するプラグインを提供

 これ以外に、ここ1年間で進めてきた、運用基盤や稼働実績(99.9979%)の公開、「運用本部」「CSM(セキュリティ専門委員会)」「Cy-SIRT(インシデント対応組織)」の設置、外部と協力して脆弱性に取り組む「脆弱性報奨金制度」なども信頼性を高めるための施策といえる。

 脆弱性報奨金制度は、社内で検出されていない未知の脆弱性を発見してくれた外部の人へ報奨金を与える制度で、脆弱性認定件数は83件、8月末までの報奨金総額は118万1000円で、280万円まではすでに確定済み。青野氏からは「報奨金総額は上限を定めず取り組んでいく」とのコミットメントも。

運用基盤や稼働実績(99.9979%)の公開
「運用本部」「CSM」「Cy-SIRT」の設置

 また、信頼性を高めようという意識は「プロモーションにも変化を与えた」という。曰く「(過去のプロモーションの件は)忘れたい(笑)」。

過去(左)と現在(右)のプロモーション対比

B2B市場の“強いプラットフォーム”目指す

 数字で見る現在のkintoneは、月間問い合わせ数1000件、月間トライアル申込1200件、月間新規導入社数100社以上、月間加算売上パートナー比率45%、月間導入相談Cafe来店数50社。青野氏によれば「導入社数は1700社とユーザーベースではまだ小さいものだが、今はまさに転換期。当初“残りのビジネス人生をすべてkintoneに賭ける”と言って“何をバカなことを”と言われたものだが、最近は市場の見る目が明らかに変わったのを感じる」という。

 それを示すこんなデータもある。

kintoneの好調さを示すデータ……か?(笑)

 なんと、「kintone」がGoogle検索数において圧倒的な安定感を誇る「柿ピー」を抜いたのだ。すでに「オンプレミス」も射程圏内に捉えている。

 ――という冗談(?)も交えながら、「B2B向けのクラウドアプリはたくさん出てきているが、単体で成功するのは難しく、何か“強いプラットフォーム”が必要だと考えている。まだ微力だが、そうなるべく今後も取り組んでいく」と抱負を語る青野氏。信頼性をエンジンに、エコシステムをアクセルに、さらなるkintone発展に努める考えだ。

川島 弘之