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マイクロソフト、政府のICT戦略を支援するパブリックセクター向け事業を強化

「公共イノベーション推進室」を新設し、行政・医療サービスの改革を推進

マイクロソフト 執行役 パブリックセクター統括本部長の織田浩義氏

 日本マイクロソフト株式会社(マイクロソフト)は5月30日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が5月24日に発表した「世界最先端IT国家創造」宣言(案)を受け、政府のICT戦略を支援するパブリックセクター向け事業を強化すると発表した。第1弾として、6月3日より社内に「公共イノベーション推進室」を新設し、支援プログラム「公共イノベーションプログラム」の提供を開始する。

 パブリックセクター向け事業を強化する背景について、マイクロソフト 執行役 パブリックセクター統括本部長の織田浩義氏は、「現在日本の行政、医療、教育はそれぞれ多くの課題を抱えており、ICTの担う役割はさらに重要になってきている。そして、5月24日の『世界最先端IT国家創造』宣言によって、政府自らが積極的にICTを利活用していくことを表明した。こうした政府の取り組みを支援するべく、当社のもつテクノロジーを最大限に生かし、特に行政・医療サービスの改革支援を強化していく」と述べた。「また、政府のICT戦略を支援することは、当社テクノロジーの価値領域がさらに拡大することにもつながる。デバイス、サービス、ソフトウェアの各面で行政・医療分野での活用が大きく広がる可能性がある」との考えを示した。

マイクロソフト テクノロジーの可能性
マイクロソフト パブリックセクターの取り組み

 今回新設する「公共イノベーション推進室」は、行政・医療分野においてICTの利活用で住民サービスを向上し、地域経済の活性化や災害に強い自治体づくりを検討している公共機関向けにイノベーション推進を支援する専任部隊。同部隊が中心となって、公共機関への支援プログラム「公共イノベーションプログラム」を開発・推進していく。また、海外先進事例の紹介、実証実験や先進的な取り組みの支援を行うほか、定期的な情報共有・情報交換会や「ブートキャンプ」なども実施していく予定。

 「公共イノベーションプログラム」としては、まず、災害に強い自治体づくりを支援するべく、「災害時に関する協定」の締結を加速していく。「災害時の協力協定」とは、マイクロソフトが全世界で提供している災害対応プログラム「Disaster Response Program」に基づき、事前に自治体・公共機関と協定を結び、災害発生時の支援を行うもの。5月21日に、第1弾として、世界で初めて岡山県との「災害時に関する協定」締結を発表しているが、今後他の自治体との同様の協定締結を加速していく考え。今後1年間に10自治体との協定締結を目標にしている。

 また、公共機関が保有するデータを二次利用できる形にした「オープンデータ」や、ソーシャルネットワーク上の書き込みなどの「ビッグデータ」を活用して新たな公共サービスやビジネスの創出を目指す公共機関を支援する「オープンデータ・ビッグデータ活用推進プログラム」を展開する。このプログラムを通じて、オープンデータ・ビッグデータを活用した新事業の創出やオープンイノベーションへの取り組みを国内の公共機関と連携して推進していく。今後1年間で、10自治体でのプログラム活用を目標としている。

 さらに、自治体と住民の協働をICTの活用で実現する新たな仕組みを、マイクロソフトが海外で実現した事例をもとにガバメント2.0のシナリオとして提案し、プロトタイプを作成、検証を支援する「ガバメント2.0 ソリューション検証プログラム」を提供する。今後1年間に、10自治体でのプログラム活用を見込んでいる。

東京大学大学院情報学環 特任教授の石川雄章氏

 なお、マイクロソフトはこの発表と同日に、「行政と医療の未来を切り拓く」をテーマに「パブリックセクター ソリューション フォーラム 2013」を開催。発表会では、同フォーラムの注目セッションとして、東京大学大学院情報学環 特任教授の石川雄章氏と、東京慈恵会医科大学 脳神経外科 カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部付属病院 UCLA Medical Centerの高尾洋之氏が、それぞれのセッション内容を紹介した。

 石川氏のセッションテーマは、「ICT活用によるインフラの管理 ~道路や橋、公共施設などの維持管理に関する情報の収集と分析~」。道路や橋、公共施設などのインフラの老朽化が進む中、損傷の早期発見や対策が重要となるが、自治体などでは予算や技術者等の課題から必ずしも対策が進んでいないのが実状。「20年後には、建築後50年以上のインフラが50%を占めることになる。こうしたインフラ老朽化の対策において、情報技術を活用した新たな取り組みが進められている」(石川氏)という。そして、マイクロソフト技術を活用した具体的な取り組みとして、「災害インフラの復旧とメンテナンスの支援」、「タブレットを活用した点検業務の効率化」、「CRMを使った問い合わせ対応業務の効率化」の事例が紹介された。

東京慈恵会医科大学 脳神経外科 カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部付属病院 UCLA Medical Centerの高尾洋之氏

 高尾氏のセッションテーマは、「IT医療システムの活用と開発 ~急性期の遠隔画像診断治療支援システムから、日常診療現場でのIT医療活用まで~」。「公共事業においては、ICTの活用が本格化しつつあるが、医療現場ではICT活用がほとんど進んでいないのが現状。その中で、今後、健康・救急・病院・介護の4つの領域において、ICTを積極的に活用し、医療現場を変革していくことが必要になる」(高尾氏)と指摘。タブレットやクラウドを活用した医療ソリューションの事例として、救急患者を受け入れた病院が院外の専門医に検査画像や診療情報を送信し、診断や治療をサポートする「SYNAPSE ERm」、および医療画像や検査データを共有しながら、院内外で会議ができる「TeleMedical Doctor」について、デモを交えて紹介した。

(唐沢 正和)