「オープンソースによるクラウド推進でリーダーになる」~米Citrixのクラウド戦略


米Citrix クラウドプラットフォームグループ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのサミール・ドラキア氏
旧来のエンタープライズ環境のアーキテクチャとクラウドアーキテクチャの違い

 シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社(シトリックス)は19日、プレス/アナリスト向けのミーティングを開催。米Citrix クラウドプラットフォームグループ バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのサミール・ドラキア氏らが、同社のクラウド戦略を説明した。

 まずドラキア氏が指摘したのは、サーバー仮想化を用いる旧来のエンタープライズ環境のアーキテクチャと、クラウドアーキテクチャとの違いだ。エンタープライズ環境では、数百台程度のサーバー環境までを念頭においており、1人で数台から数十台のサーバーを管理するのに対し、クラウド環境は何千台レベルで展開されるし、自動化が進んでいるため、1人の管理者が何千台ものサーバーを管理できる。また、エンタープライズではアプリケーションに信頼性があるということを前提としているが、クラウドではインフラが障害を起こすことを前提にして設計されているため、障害が起きてもシステム全体で吸収され、エンドユーザーには影響をおよぼさないのだという。

 また、「エンタープライズがプロプライエタリ製品を多く用いる一方で、クラウドはオープンソースをベースにしていることが多く、従来のデータセンターをクラウド型で構築すると、1/5のコストで済む」(ドラキア氏)といった点も大きな違いで、こうしたことを踏まえて、企業でもクラウドアーキテクチャを採用する例が増えており、この流れは今後も続いていくだろうとする。

 そうしたクラウドのアーキテクチャを利用してビジネスをしている代表的な企業の1つに、Amazon Web Services(AWS)があるが、その強みとして「コモディティ化したハードウェアの上にXenを載せ、そしてその上に、彼らのクラウドに特化したコントロールプレーン、クラウドOSを開発している点」を挙げ、「これがあるがゆえに、何十万何百万のコンピュータを管理できる」と説明する。

 このように、AWSが差別化を果たしている大きな部分は、AWS自身が開発したソフトウェアであるため、ほかの企業がこれをまねしようと思っても、一朝一夕に行うことは無理だし、それ相応の大きな投資も必要になるだろう。しかしCitrixは、同じような“Amazon型”のクラウドをオープンソースベースで、しかも実際に使える形で提供しているため、顧客はこうしたクラウド環境を容易に構築できるのだという。

 ドラキア氏は、「当社では、AWSが独自で作ったクラウドOSに相当する部分を、CloudStackとして製品化したため、Amazon型のクラウドを構築したいお客さまは、これを使ってクラウドを構築することができる。また、AWSの強みとしてはAPIやその上の課金などの仕組みが整っていることもあるが、CloudStackでもAPIを利用できるし、『Citrix CloudPortal』によりポータルの機能も提供できる」と述べ、その価値を強調する。


AWSのクラウド構成(左)と、CloudStackを用いたCitrixのクラウド構成(右)の比較
米Citrix クラウドプラットフォームグループ プロダクトマーケティング担当バイスプレジデントのペダー・ウランダー氏
なぜApache Software Foundationなのか?

 CloudStackではさらに、パブリッククラウドとプライベートクラウドの双方をサポートしており移行性がある点、異なるクラウド事業者間での相互運用性がある点も、評価されている一因だとする。Citrix クラウドプラットフォームグループ プロダクトマーケティング担当バイスプレジデントのペダー・ウランダー氏は、「長らく、(プロプライエタリ製品による)ロックインがCIOを苦しめてきたが、これを解消するには、お客さまやパートナーから見て、コミュニティの先頭に立っている組織がオープンにコミットしていることが重要だ。だからこそ当社はCloudStackにかかわることを決定した」と述べ、CloudStackを中心としたオープンなコミュニティ活動の重要性をアピールしている。

 なおCitrixでは4月3日(米国時間)に、CloudStackをApache Software Foundation(ASF)に寄贈することを発表したが、この背景にも、CloudStackによるコミュニティ/パートナーグループの形成を進め、ビジネスを積極的に展開したいというCitrixの思惑がある。

 ウランダー氏は、ASFへの寄贈を行った理由について、「プロジェクト全体を企業がつかさどっている場合は、コミュニティ主導にはなかなかできず、標準との整合性も必要になるため、民間企業ではないASFのような団体が必要になってくる。また当社が、Hadoop、CassandraなどASFのほかのプロジェクトに参加できる点もメリットだ」と説明。

 加えてCloudStackのライセンスも、それまでのGPL v3からApacheライセンス 2.0へ変更しているが、これについては「GPLでコードを作った場合、それをコミュニティに返して共有しないといけなくなるため、ビジネスをしたい企業にとってはマイナスになってしまう。対してApacheライセンスは知財をすべて返す必要がないため、企業が差別化を図ることができる」と述べ、より戦略的な活用が可能になるとした。

 現在、CloudStackに関連して60社あまりのパートナーが活動をしており、国内からもNTT、IDCフロンティア、ミドクラといった企業が参加しているとのこと。このように、「お客さま、アプリケーション開発ベンダー、プロバイダが一緒に携わっていくことが重要だが、オープンソースではこれが実現できる」と述べ、今後のパートナーの広がりにも期待を示していた。

 「クラウド分野は、レガシーアプリケーションの後追いではなく、オープンソースが先駆者となって企業の支援をできる初めての分野だ。当社も、この分野でリーダーになりたいと願っている」(ドラキア氏)。

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