今後のクラウド構築を大きく変えるCloudStack


 先日、東京で開催されたCitrixのカンファレンス「iForum 2011」において、米Citrix システムズクラウドプラットフォームグループ シェン・リャンCTOにインタビューが行えた。リャン氏にCitrixが考えるクラウドに関して話を伺った。

 リャン氏は、Citrixが7月に買収した米Cloud.comの創設者兼CEOだった。また、Cloud.comを設立する以前は、Sun Microsystemsで、初代のJava Virtual Machine(VM)の開発チームの主任開発員をつとめていた人物だ。

 

OpenStackとCloudStackとでは成熟度が異なる

――まず端的に、OpenStackとCloudStackの違いを教えてください。

米Citrix システムズクラウドプラットフォームグループ CTOのシェン・リャン氏

リャン氏:Open Stackはコミュニティが中心となって作り上げられているもので、Citrixはこの創設の主たるメンバーとしてかかわっており、積極的に貢献してきました。

 一方、CloudStackはプロダクトであり、この中には一切OpenStackのテクノロジーは入っていません。OpenStackには、まだ、お客さまが求める成熟度、安定性、品質が備わっていないため、すぐにこれを統合するというわけにはいかないのです。

――OpenStackよりもCloudStackの方が、完成度が高いと話されましたが、どういった部分が違うのでしょうか?

リャン氏:CloudStackは、現実に多くのクラウド事業者の環境で利用されています。実際、日本ではIDCフロンティア、韓国のコリアテレコム、インドのタタ コミュニケーションズ(タタグループ)などで使われていまして、2年以上使っているお客さまもいます。

 また、プライベートクラウドとしては、米国のゲーム事業者のZyngaなどでも利用されています。このように、CloudStackは、現実のクラウド環境として、実際に利用されているのです。やはり、安定性や成熟度という面では、CloudStackの方が一歩先を進んでいるでしょう。

 OpenStackもNASAなどで使用されていますが、オープンソースということで、CloudStackほどの完成度は、まだありません。実際、OpenStackのCompute部分であるNovaは、まだ完成度としては劣る部分があります。現在OpenStackを利用している企業や団体は、自分たちの技術力でカバーしている部分が大きいのです。


多くの企業や団体が、Citrixのクラウド関連システムを採用している。特に、TATAコミュニケーションズやIDCフロンティア、コリアテレコム、Go Daddyなどは、CloudStackを使ってクラウドを構築しているCloudStackを使って構築されたIDCフロンティアのクラウドサービス

――現実に、APIの違いなど、両者には異なる部分がありますが、こうした違いの改善はしていくのでしょうか。

 CloudStackとOpenStackでは、APIなど異なる部分が多いといわれます。確かに、CloudStackとOpenStackは、別々に発展してきたので、違う部分が出るのは当たり前です。将来的には、CitrixでCloudStackの中に取り込んでいこうという動きがありますので、将来的にはサポートされていくでしょう。

 ただ、OpenStackのすべてをすぐにサポートするのではなく、OpenStackの中で安定性が増し、クラウド事業者が利用できるだけの成熟度が増したものを選択して、CloudStackに取り込んでいくといったプロセスになるでしょうね。

 

Citrix製品との融合を図っていく

――今後のCloudStackのロードマップを教えてください。

リャン氏:Citrixに買収されてから、本格的にCitrixの製品と融合を果たしたCloudStack 3.0を年内にリリースします。

 まず、OpenStackでもっとも成熟しているストレージ機能のOpenStack Swiftを、このバージョンから搭載する予定です。OpenStackのテクノロジーが、ここからCloudStackの中へ入ってきます。このOpenStack Swiftは、もともとクラウド事業者のRackSpaceが採用していたストレージシステムをオープンソース化しているため、Nova(OpenStack Compute)よりも成熟度が高いです。実際、RackSpaceは、現状でもOpenStack Swiftを商用で利用しているぐらいですから。

 ほかの機能に関しても、さまざまな面でCitrix製品を取り込んだものになっています。例えば、ネットワークに関しては、CitrixのNetScalerも統合されてくるでしょう。ブランドもCitrixのブランドになりますし、UIもCitrixベースのものになっていきます。

 さらにその後、われわれが掲げている大きな目標の1つが、CitrixがリリースしているXenDesktopやXenAppといった、異なるテクノロジーを取り込んでいくことです。ただしこれはまだまだ調査段階ですので、具体的なリリースプランが固まっているわけではありません。しかしながら、Desktop as a Service(DaaS)の提供という観点に立つと、こうした統合は自然なことと思えます。


CloudStack 3.0は、年内にリリースされる。このバージョンで、CitrixのNetScaler、OpenStackのストレージシステムのSwiftなどが採用される

――8月末にCloudStackのオープンソース化と無償化を発表されましたが、これはどうい
ったことでしょうか?

リャン氏:これこそが、Citrixに買収されたことで、可能になったことなのです。Citrixは、ハイパーバイザーの部分においても、オープンソースのXenをベースにして、有償のXenServerを提供しています。XenServerもエディションによって、無償版を提供しています。こういった、ビジネス体制が整っているCitrixだからこそ、CloudStackのオープン化も成し遂げられたのです。

 8月末に発表したCloudStack 2.2(筆者注:9月末現在、2.2.12がリリースされている)では、商用版に入っていたVMwareのvSphere、Oracle VMなどへの対応が無償版にも提供されています。サポートに関しては、有償で提供していきますが、CloudStack自体は今後もオープンソースとして提供されていきます。

 

Project Olympusはどうなった?

――Citrixは、4月に米国で開催されたカンファレンス「Synergy 2011」において、クラウド構築のシステムとして、OpenStackへのサポートをCitrixが提供する、Project Olympusというものを発表しました。Cloud.comを買収したことで、このプロジェクトは大きく変わったのでしょうか?

リャン氏:Synergy2011で発表されたProject Olympusは、Cloud.comを買収する前のものです。もともとProject Olympusは、OpenStackをベースに開発されていましたが、クラウド構築システムとしては、CloudStackの方が完成度が高いため、OpenStackベースのProject Olympusは取りやめになり、代わりにCloudStackが使われることになります。製品が二本立てになってしまうので、意味がないですからね。

 Project Olympusに関係していた人たちは、引き続きOpenStackへの貢献はしていきますが、今後はOpenStackとCloudStackのギャップをいかに橋渡しするか、というのが主な仕事になっていくでしょう。コミュニティにも支援をいただいて、その橋渡しを進めていきます。

――つまり、Project Olympus自体は、CloudStackに変わったのですね。

リャン氏:はい、そうです。CloudStackとして製品をリリースする、という方針に、基本的に変わりました。

――では、OpenStackはどうなっていくのでしょうか?

リャン氏:CloudStackとは別の方向性を打ち出そうとしています。OpenStackでは、Network as a Service(NsaS)を実現するProject Quantum、Load Balancer as a Serviceを実現するProject Atlas-LBなどが進んでおり、Citrix、Cisco、Niciraなどがかかわっていて、レイヤ2の仮想スイッチという基本コンセプトが打ち出されていますね。ただ、まだ始まったばかりですから、まだまだ本番環境での利用段階には達していません。

 それに対してCloudStackはレイヤ2/3をサポートしていますから、かなり差が付いています。ネットワーク系のサービスとしてはロードバランスにも対応していますし、DHCP、NAT、VPNも定義済みです。NaaSが形になればまた違ってくるでしょうが、それはまだこれからです。現状では、クラウドにおけるネットワークのアーキテクチャとしては、CloudStackはほかの追随を許さないものといえるでしょう。


OpenStackでは、Network as a ServiceのProject Quantum、Load Balancer as a ServiceのProject Atlas-LBなどの機能を追加していく予定だ

――ただ、ネットワークの仮想化については、まだ少し機能が足りないのではないかと思うのですが。

リャン氏:ネットワークだけでなく、CloudStackは、全般的にまだ改善の余地はあると思っていますので、Citrixとしても、改善に向けて投資は行っていきます。

 しかし、クラウドのネットワークは、非常に難易度の高い課題であり、この分野でCloudStackはパイオニア的な役割を果たしてきたという自負があります。現在はレイヤ2/3のサポートを実現していますし、ここまでのネットワーク機能を備えたソリューションは、ほかにないと思っています。

 

CloudStackやサードパーティ製品と連携して管理機能を提供

――クラウドの管理という視点では、CloudStackはどう対応していくのでしょうか。

リャン氏:当社では、CloudPortalという製品も持っています。CloudPortalは、アカウント管理、パートナー/OEM管理、価格/請求書管理、CRM機能、ダッシュボード機能などが実装されていて、CloudStackとCloudPortalを利用すれば、すぐにでも課金が可能なクラウドシステムを作り上げることができます。

 ただしCloudPortalは、プライベートクラウドではあまり役に立ちません。複数の異なったクラウド環境を管理したい、といった場合などは、当社のパートナーであるライトスケールのような、サードパーティの製品を使っていただいた方がいいでしょう。

 将来的には、CloudPortalで複数のクラウド環境を管理する、といった使い方にもある程度対応できるようになるでしょうが、きっちりと管理するとなれば、やはりそれに向けた管理ツールを使った方がいいでしょうし、当社としてそこに深く投資をするつもりはありません。

――今お話に出た課金システムに関しては、既存のクラウド事業者は、独自の課金システムをすでに持っているのでは?

リャン氏:もちろん、既存のクラウド事業者なら、今までに課金システムを持っているでしょう。CloudPortalでは、既存のシステムとの連携もできるようになっています。

 CloudPortalの特徴は、課金だけでなく、ダッシュボード機能を持っているため、ユーザーが仮想マシンを作成したり設定したりできますし、システムの稼働状態をダッシュボードでグラフィカルに表示することができます。また、ポータルを操作するユーザーの管理や操作ログの記録、テクニカルサポートのステータスなどもまとまっています。クラウドを利用するユーザーにとっては、CloudPortalのダッシュボードで、仮想マシンの管理が行えます。


CloudPortalは、クラウド事業者が自由にデザインできる管理機能や課金機能を提供しているCloudPortalを使ったダッシュボードの例。トラフィックやリソースの使用率がグラフ化して表示されているCloudPortalでは、課金やユーザー管理、管理ダッシュボードの構築などを行う

――CloudStack以外にも、Red HatのCloudFormsなどのクラウド構築システムなどが出てきています。こういったものとCloudStackの違いはどこにあるのでしょうか?

リャン氏:先に断っておきたいのですが、私自身はRed HatのCloudFormsなど詳細はよく知りません。このため、一般的な例としてお話ししていきたいと思います。

 CloudStackは、純粋にクラウド事業者がクラウドシステムを構築するために利用できるインフラです。他社のシステムは、IaaSではなく、より上のPaaSなどをターゲットにしていると思います。ただ、PaaSに進んでいくと、各社のスタンスの違いから、PaaSに搭載するシステムが異なることになります。

 われわれは、CloudStackには、PaaS部分は持ち込まず、ベースとなるIaaS構築にフォーカスしています。後は、CloudStackを使ってクラウドを構築する事業者が、必要に応じてPaaS部分を展開していけばいいと思っています。


Citrixのクラウド戦略は、CloudStackとCloudPortalを中核としては、下層にハイパーバイザーのXenServerやVMware ESX、Hyper-V、KVMなどがオープンなプラットフォームとして存在している。さらに。ネットワーク層ではNetScalerやCloudBridgeが提供されている。これにより、さまざまなクラウドとの連携が可能になる
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