パブリッククラウドとプライベートクラウドの融合を図るCitrixの新製品群を解説する
米国Citrix System(以下、Citrix)は、10月26日から3日間、スペインのバルセロナでSynergy2011 カンファレンス(以下、Synergyバルセロナ)を開催した。
今回は、米Citrix CEO兼社長のマーク・テンプルトン氏が、打ち出した「3PC」コンセプト(Personal Cloud、Private Cloud、Public Cloudの3つのCloud)の中で、プライベートクラウドとパブリッククラウド分野に関して解説していく。
■CloudStackとXenServerをクラウド戦略の中核に
Citrixのクラウド戦略で中核に置かれているのが、XenServerとCloudStackだ。
XenServerは、クラウドを構築する上でインフラとなる仮想化レイヤを担っている。ただ、CitrixではXenServerだけに固執して、囲い込み型のクラウドビジネスを展開するつもりはない。ハイパーバイザー層に関しては、自社のXenServerに固執することなく、Hyper-V、VMware vSphere、KVM、Oracle VMなどをクラウド構築システムのCloudStackで利用可能にしている。
CloudStackは、XenServer以外に、ESX/ESXi、Hyper-V、KVM、Oracle VMなど、さまざまなハイパーバイザーをサポートしている |
今回のSynergyでは、CloudStackの新バージョン「CloudStack 3」がリリースされた。CloudStack 3は、7月にCloud.comを買収して以来、Citrixブランドとしての初のメジャーアップデートだ。
CloudStack 3では、ストレージシステムに、OpenStackで利用されているSwiftを採用している。Swiftは、米国のクラウド事業者Rackspaceで使用されているストレージシステムだ。さらに、Citrixが持っているNetScalerも仮想アプライアンスとして搭載されている
。
CitrixブランドでリリースされるCloudStackは、NetScalerを搭載している | CloudStack 3は、Open StackのSwiftを採用している。CloudStack 4は、Open Stackと互換性を重視したり、AWSのAPIとの互換性を向上させたりしていく予定 |
またパブリッククラウドを運営する事業者にとって重要な、課金システムやCRMとの連携機能をサポートした管理ポータル「CloudPortal」を持つことも、CloudStackにとっては強みといえる。
CloudStack 3.0では、CRM、セルフポータルをサポートするCloudPortalが追加された | Cloud Portalは、Account管理、CRM、ダッシュボードなどの機能がサポートされている |
なおCloudStackは、パブリッククラウドに向けたクラウド構築システムと思われがちだが、プライベートクラウドの構築にも利用されている。実際、米国のソーシャルゲーム大手のZyngaでは、ヒットしてアクセス数の変動が大きなゲームをAmazon Web Servicesのパブリッククラウドで運用しているが、リリース当初でそれほどアクセスがなかったり、リリースして年月が経過しアクセス数が落ち着いたりしたゲームに関しては、CloudStackベースの自社プライベートクラウド上で運用している。
すべてのゲームをパブリッククラウドで運用しているとコストが増えてしまうが、このように、プライベートクラウドとパブリッククラウドを両方利用することで、運用コストを下げられるという。
CloudStackの管理画面。いつアクセスのピークが来ているかをグラフでチェックできる | 仮想マシンの仮想メモリや仮想CPUの設定変更もスライダーで簡単に変更可能 | テンプレートからOSを選択して、仮想マシンに配置する |
■パブリッククラウドとプライベートクラウドを接続するCloudBridge
このほかCitrixでは、パブリッククラウドとプライベートクラウドを接続して、透過的に運用するCitrix CloudBridgeという製品を提供している。
CloudBridgeは、ネットワーク的に離れた地域に存在する複数のクラウド間のレイテンシをチェックして、WANの高速化を行ったり、ロードバランシングを行ったりする。つまりCloudBridgeは、ハイブリッドクラウドを実現するための、非常に重要な製品といえる。
またCloudBridge自体は、CloudStackの環境だけをサポートしているわけではない。さまざまなプライベートクラウドとパブリッククラウドの両端に設置すれば、透過的なネットワークを構築することができる。
■CDNの役割を果たすCloudConnectors
新しく発表されたのは、クライアントがクラウドにアクセスする場合に、コンテンツデリバリネットワーク(CDN)の役割を果たすNetScaler CloudConnectorsだ。CloudConnectorsを自社のクラウドに導入すれば、クライアントに接続するラスト1マイルにおいて高機能なCDNを利用するように、パフォーマンス、SSL接続の性能向上、モバイルアプリケーション配信のパフォーマンス向上などが行える。
ただしCloudConnectorsは、エンドユーザーのクラウドだけに導入しても、性能が向上するわけではない。CDN側でもCloudConnectorsが導入され、それに対応したネットワークが構築されている必要がある。現在、米国の大手CDNベンダーであるCotendoと組んで、テストを開始している。将来的には、日本のCDNでもサポートされる可能もあるだろう。
CloudConnectorsを利用すれば、今までCDNで利用されていた静的なコンテンツのキャッシュではなく、動的コンテンツのキャッシュが行えることになる。それも、ローコストで行えるようになるため、プライベートクラウドを運用しているユーザー企業にとっても大きなメリットとなる。CDN事業者にとっても、CloudConnectorsを導入するだけで、複雑なネットワークの再構築をしなくても、新しいサービスが提供できるというメリットもある。
動的コンテンツのCDNを構築するNetScaler CloudConnectors | NetScaler CloudConnectorsに対応しているのが米CotendoのCDN |
■アプリケーションカタログを提供するCloudGateway
米国で5月に開催されたSynergyで注目されたCloudGatewayも、今回のSynergyに併せてテクニカルプレビューが開始されている。
CloudGatewayは、Citrix Receiverの対になる製品だ。クラウド側に設置して、クライアントからのアクセス権限を一元的に管理したり、XenAppに登録されたWindowsアプリケーション、Webアプリケーション、SaaSなどカタログ化して表示したりする。
CloudGatewayを利用すれば、Active Directory(AD)などのディレクトリサービスと連携して、どのユーザーやグループには、どういったWindowsアプリケーションやWebアプリケーション、SaaSを利用できるようにするのかなどをコントロールすることが可能になる。
さらに、ユーザー管理が簡単に行えるようになるため、ユーザーの部署移動、退社などの時には、簡単に社内のWindowsアプリケーションへのアクセスを禁止したり、SalesforceなどのSaaSアプリケーションへのアクセスを停止したりすることが可能になる。
もちろん、PCやスマホ、タブレットなどを紛失した時には、すぐにでもアクセス停止やデータのリモート消去などを行うこともできる。
■オールインワンのVDIソリューションが提供可能に
プライベートクラウドにおいて、注目されているのが、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)だ。プライベートクラウド上にVDIを構築することで、PCやMac、スマホやタブレットなどから、Citrix Receiverを使って簡単に業務システムにアクセスができるようになる。
しかし、VDIの構築はさまざまなノウハウが必要だったり、運用管理に手間がかかる。このため、IT管理者が数人しかいない中小企業においては、容易に導入できなかった。
今年の5月にCitrixが買収したKavizaは、VDIを簡単に構築できるオールインワンソリューションの「VDI-in-a-BOX」を提供している。今回のSynergyでは、Citrixブランドになった新しい「VDI-in-a-Box5」(以下、VDI-BOX5)が発表された。
VDI-BOX5は、ハイパーバイザーとしては、Citrix XenServer以外に、VMware vSphere、Microsoft Hyper-Vなどに対応している。このため、幅広いプライベートクラウドで利用することができる。
VDI-BOX5は、仮想アプライアンス化されているため、導入も簡単になっている。さらに、Access Gatewayやロードバランシングなどのネットワーク関連の機能を管理する仮想アプライアンスも用意されている。現在、VDI-BOXは、シトリックス日本法人から提供はされていないが、近々日本語版が提供されることになるだろう。
VDI-in-a-Boxは、今までさまざまなシステムで構築されていたVDI環境をオールインワン パッケージで構成する。構成がシンプルになるため、VDIに精通したIT管理者がいなくてもVDI環境の構築が簡単にできる |
■アプリマイグレーションを支援するApp-DNAを買収
もう1つ、SynergyにおいてApp-DNAという企業の買収が発表された。App-DNAは、Windowsアプリケーションのマイグレーションにサポートするソフトウェアをリリースしている。
米Citrix SystemsのCEO、マーク・テンプルトン氏は、「Windows XPの延長サポートが完全に切れる2014年が近づきつつある。多くの企業においては、XPベースのアプリケーションをどのようにして、新しいプラットフォームへと移行していくのかが非常に重要なポイントになっている。App-DNAは、アプリケーションの中身を分析して、Windows XPからWinodws7などへの移行時に、どういった問題があるのかを分析してくれる。さらに、分析結果を踏まえて、どういった対処を行えばいいのかなどをアドバイスしてくれる。こういったソリューションは、Windows XPを使ってる企業にとっては、必ず必要とされる」と語っている。
実際、App-DNAでは、アプリケーションのプログラム内部まで分析を行い、どのDLLがWinows7への移行時に問題になるのかなどをチェックしてくれる。蓄積されている膨大なデータベースから、どのDLLをアップデートすればWindows7などの新しい環境で動作するのかなどもアドバイスしてくれる。
App-DNAは、クライアントOSのアップデート時のマイグレーションだけでなく、アプリケーション仮想化のXenAppやApp-V、VDI環境へのマイグレーションを行う時の問題点も分析してくれる。
App-DNAの担当者によれば、日本語のアプリケーションに対応するとのことだった。実際、日本の大手自動車メーカーでApp-DNAが利用されており、日本語アプリケーションの分析を行い、Windows XPからのマイグレーションをサポートしている。
■Ciscoとの提携を強化
このほかSynergyでは、Cisco System(以下、Cisco)との戦略的な提携を強化していくと発表された。特に、Ciscoが販売しているブレードサーバー「UCS」にXenServerやCloudStackを提供していくという点が、注目されるところだ。
また、VDIやアプリケーションの仮想化で利用するHDXテクノロジーを、Ciscoのネットワークに最適化していくことも発表された。これに伴い、Ciscoのクライアント製品にもCitrix Receiverを組み込んでいくという。将来的には、Ciscoのユニファイドコミュニケーション用のVOIP電話端末、プレゼンテーション用のディスプレイなどの端末に、HDXテクノロジーをチップ化したHDX System On Chipが採用されていくかもしれない。
CiscoとCitrixは、HDXをCiscoのネットワークにオプティマイズしたり、CiscoのエンドポイントにReceiverを組み込んだりすることで戦略的なアライアンスを組んだ。すでに、CISCOのUCSでXenServerが動作している |
なおCitrixでは、クラウドを中心として、パブリッククラウドとプライベートクラウドを接続したり、クラウドとクライアント間を接続するネットワーク機能を非常に重視している。クラウド構築のCloudStackも重要だが、孤立したクラウドがさまざまな場所にできても、そのクラウド間をシームレスに接続するネットワークがないと、今後のハイブリッドクラウド時代には対応できないと考えているようだ。
クライアントに関しても、すべてのデバイスにCitrix Receiverを搭載することで、VDIやXenAppなどのリモートデスクトップの機能だけでなく、データを統一的に扱う機能を提供していこうと考えている。注目するのは、ユーザーがさまざまなシーンで、さまざまなデバイスを利用しても、同じようなIT環境が提供できるということだ。デバイスに依存するのでなく、人にアプリケーションやデータがついてくるというFollow-Meコンセプトは、今までになかったクラウド時代ならではのコンセプトだろう。
実際、CitrixのテンプルトンCEOが考えるクラウド環境が完成するのは、来年5月9日から米国サンフランシスコで開催されるSynergy 2012になるだろう。