OracleがRightNow買収でクラウドに本腰~深まるSalesforceとの対立


 Oracleがいよいよ、クラウド戦略を積極的に推進し始めた。まず10月初めにパブリッククラウドの「Oracle Public Cloud」を発表。24日にはSaaSのCRMベンダーRightNow Technologiesの買収を発表し、ソリューション完成に向けた動きを活発化させている。対立が深まるSalesforce.comとの争いをはじめ、新しい戦いが予想される。

180度の方針転換、「クラウドを積極的に進める」

 RightNowは1997年創業のSaaSベンダーで、コールセンターなどのCRMソリューションを提供している。主力製品は「CX Suite」で、プラットフォーム上でWeb、ソーシャル、コンタクトセンターなどの機能をそろえ、約2000社の顧客を獲得していると言われる。

 Oracleは今回の買収で、RightNow株1株に対し43ドルを支払う。前取引日の終値に20%のプレミアムをつけた額で、総額は14億3000万ドルを見込んでいる。2010年のSun Microsystems(買収金額は約56億ドル)に次ぐ額である。

 RightNow買収の目的は、クラウドソリューションの強化にほかならない。Oracleは10月はじめに開催した自社イベント「Oracle OpenWorld(OOW)」でOracle Public Cloudを発表した。Oracle Public Cloudは「Oracle Exalogic」をベースとして、データベースやJava EEアプリなどを実行できるクラウドで、Fusionブランドで提供する業務アプリケーションもこの上に載る。

 RightNow買収にあたって、Oracleの開発担当執行副社長Thomas Kurian氏は「Oracleは完全なクラウドソリューションを顧客に提供するために積極的に動いている」と述べている。

 Oracleは積極的な企業買収で拡大してきた企業だが、RightNowは初のSaaSベンダーとなる。Constellation ResearchのアナリストRay Wang氏はWall Street Journalに対し、「買収が今後活発化する兆候だ」と述べ、Oracleがクラウド分野でさらなる企業買収を進めると予想している。

 New York Timesの見方も同様で、このところ社内開発による成長を図っていたOracleが、再び買収戦略をとると予想。ライバルのSAPなども同じ動きに出ると見る。Oracleは10月半ばにビックデータベンダーのEndecaの買収を発表しており、Gigaomは、他の買収候補として、NetSuite(クラウドERP)、BMC Software(クラウド/IT管理)、Informtaica(データ統合)、Tibco Software(ミドルウェア)などを挙げている。

“ニセのクラウド”論争で深まるSalesforce.comとの対立

 RightNowの買収は、Oracleと火花を散らしているSalesforceとの競合にもスポットを当てた。SalesforceはRightNow同様、古くからのSaaSベンダーで、営業支援からCRMなどへと拡大してきた。RightNowのCX Suiteは、Salesforceが3月に買収を発表したRadian 6と競合する。

 Salesforce.comを立ち上げたMarc Benioff氏は元々Oracle出身だ。創業者兼CEOのLarry Ellison氏は、当初は元部下のBenioff氏をサポートしてきたが、クラウド人気とOracleの業務アプリの拡大から、両社の関係は次第に対立へと変わっていった。その象徴となったのが2010年のOOWだった。

 同じイベントで、Ellison氏はSalesforce.comを「クラウド上にアプリがあるだけ。クラウドではない」と批判。一方、Benioff氏の方は「(サーバーの販売を目的とした)ニセのクラウドに気をつけろ」とやり返した。

 そして今年のOOWでは、Oracleは予定していたBenioff氏の基調講演の日程を直前に変更。その枠でEllison氏自らが、Oracle Public Cloudを発表した。自社クラウドが「業界標準」のアーキテクチャに基づいており、ベンダーの囲い込みでないと強調。Salesforce.comをたっぷり皮肉った。このとき、予定をキャンセルされたBenioff氏は、近くのレストランでスピーチしたという。

オーバーラップと穴、製品ポートフォリオ完成に課題

 New York Timesが引用したMorgan StanleyアナリストAdam Holt氏の予想によると、企業によるクラウドサービスの利用は、少なく見積もっても、今後3年間、年50%の率で増加するという。Holt氏は「ダイナミックかつ急成長している分野で、明確なリーダーはいない。Oracleは市場を活用できるユニークなポジションにある」と同社の今後を楽観する。

 だが、それでもOracleは後発だ。Ellison氏がクラウドをあざ笑ってきた2010年までの間、Salesforceなどの専業ベンダーはもちろん、ライバルであるSAPもクラウドを全面的に受け入れるよう戦略シフトして業績を好転させている。

 そんな中でのOracleの課題は何か? eWeek Europeは、(1)OracleポートフォリオへのRightNow技術の統合、(2)製品の重複解消、(3)顧客のビジネスニーズに合わせた適切なソリューション提供――などを挙げている。OracleはCRMと顧客サービス分野で、「Siebel CRM On Demand」、ATGの「InstantService」、Inguiraのナレッジマネジメントなどの製品を持ち、これらにRightNowが加わる。Oracleは、この中から適切なソリューションを顧客に提供していかねばならない。

 一方で、ReutersはSusquenhannaのアナリストの話として「クラウド分野では社内開発による成長は無理。市場に参入するには買収しかない」との見方を引用している。つまり、Oracleはオンプレミスの既存製品とクラウドの両方の製品ポートフォリオを、買収と社内開発の2つの戦略で注意深く進めていけねばならないのだ。

 Wall Street Journalは、今回の買収は、投資家にとって悪い面とよい面があると評している。悪い面は、クラウドの脅威が本物であるということ。よい面は、Ellison氏がこれにちゃんと反応していることだという。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/10/31 08:59