東北のパートナーは震災で何が変わったのか?~日本マイクロソフト


 日本マイクロソフト株式会社は16日、宮城県仙台市で、「マイクロソフト パートナーコンファレンス 2011」を開催した。東京で9月9日に開催された同名のカンファレンスを東北地区で開催したものだが、東北大震災の被災地域での開催だけに、震災における影響を盛り込んだ内容となった。

IT企業による震災支援では一定の成果

日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナービジネス営業統括本部 川原俊哉統括本部長

 東京会場で樋口泰行社長が行った「日本マイクロソフト 新年度事業方針」は、業務執行役員 パートナービジネス営業統括本部・川原俊哉統括本部長が担当。具体的な取り組みについては、パートナービジネス営業統括本部 東日本パートナー営業本部の高橋洋本部長が担当した。

 高橋本部長は、ハードメーカー各社の協力を得て進めたICTキャラバンについて言及。災害ボランティアセンター、避難所にトータルで1000台のパソコンを寄付し、Office365の無料提供などを行ったが、細かい設定を行う必要があった際には、岩手、宮城、福島のパートナー企業のサポートを受け、避難所やボランティアセンターを支援したことを紹介した。

 「それ以外にも、YCC情報システムはAzureを使ったボランティア支援アプリケーションを立ち上げ、ボランティアセンターの運営に力を発揮していただいた。リコーには被災地をサポートするために尽力していただいた。インテル、ダイワボウ情報システムにも被災地支援に注力していただいた。われわれのパートナーではないが、Googleさんもさまざまな活動を行った。また、地元のパートナー企業の皆さまには、自身が被害を受けているにもかかわらず、さまざまな協力を頂いた」

 こうしたIT企業の支援があった結果、ボランティアセンターではLyncを使い、在席を確認した上で資料を見ながらチャットで会話することで効果が如実にあがった例がある一方、うまく成果があがらなかったケースもある。

 「Lyncでは在籍確認をすることになるが、毎日、人が入れ替わるボランティアの場合、すべての人がITに慣れていて、在籍確認を行った上で話をするといったことが当たり前でない人もいる。ITのインターフェイスに慣れていない人をどうフォローしていくのかといった課題を解消するためには、パートナーさんの存在が不可欠。現場で上手な運用を行ってもらうためには、パートナーの皆さんとの連携が重要であることを再確認することとなった」。

 震災におけるITの成果については、さまざまな意見があるものの、昨年、マイクロソフトとの提携が発表されたトヨタ自動車のG-BOOKでは避難所、ボランティアセンターなどの走行情報を記録することで、リアルタイムでどの道が通行可能なのかを表示するといったことが可能となっている。ITならではの震災支援が始まっていることは間違いない。

 避難所にパソコンを寄付しても、高齢者が多い避難所ではパソコンを使いこなすのが難しいケースもあった。そうした場合、マイクロソフトではXboxを寄付した例もあったのだという。

 「Xboxを避難所に導入というと、気晴らしが目的と思われるかもしれませんが、そうではありません。気軽に利用できるコミュニケーションツールとして利用するために導入しています」(日本マイクロソフト 東北支店の筒木剛支店長)

 また、企業によっては企業といえども企業ライセンスでのソフトウェア利用ではなく、店頭で買ってきたWindowsやMicrosoft Officeがバンドルされたパソコンを利用しているところも多く、「こうしたケースでは洪水で流されてしまったソフトを復活させることは難しいですが、(法人向けの)ライセンス契約のお客さまであれば流されてしまったソフトを復活させることも可能です」(筒木支店長)と話す。ライセンス契約の優位性が震災で明らかになったかっこうだ。


日本マイクロソフト 東北支店 筒木剛支店長日本マイクロソフト パートナービジネス営業統括本部 東日本パートナー営業本部 高橋洋本部長

 

地元パートナー企業の震災支援、日本海側の企業がいち早く動く

 地元パートナー企業の震災支援としては、震災直後は、東北地区にあるものの、比較的被害が少なかった企業がいち早く支援に乗り出した。特にアプリケーション開発は、被害が少なかった日本海側の企業がいち早く動いた。

 山形県に本社を置くYCC情報システムは、震災が起こる前、からクラウドを活用したアプリケーション開発に注力してきた。その経験を生かして、震災後は「被災者向け公営住宅検索システム」、「復興支援ボランティアバス受付サイト」、「安否確認サービス ぶじっ」という3つのクラウドアプリケーションを開発した。

 「クラウドアプリケーションの開発に取り組み始めたのは2010年からです。震災後は、Azureを使うことで支援アプリケーションが短期間に提供できるということで、震災支援アプリケーションを3つ開発しました」とYCC情報システムの研究開発部・小沼博部長は話す。

 公営住宅検索システムは、PDFファイルで公営住宅の情報を公開しているサイトがあったものの、PDFファイルの情報では、「何人入居可能か」「間取りはどうなっているのか」など、必要な情報を元に情報を検索することができない。そこで情報をデータベース化し、入居人数や、間取りなどの検索条件の下、公営住宅の情報を検索することができるシステムを構築したもの。4月に約1週間の開発期間で完成し、各自治体に無料で提供予定だったものの、自治体ごとに情報形態が異なることから、実際にサービスが稼働することはなかったという。

 ボランティアバス受付サイトは、山形大学および東北芸術工科大学が主催する「スマイルトレード10%」が出している、「スマイルエンジン」というボランティアバスの管理が大変だったことに着目。ボランティア参加者の受付管理作業が、各拠点で行われていたため、最新のデータがどこにあるのかなど、データ管理が非常に大変だった。さらにメールで受け付けた内容を、1つ1つExcelに手作業で落とすなど、事務担当者の作業負荷が高いことも問題となっていた。そこで受付データをクラウド上に一元管理し、異なる受付場所であってもデータを共有するといったクラウドアプリケーションとして約2週間かけて開発。

 現在では、スマイルエンジン以外にも、山形県社会福祉協議会でも活用している。
スマイルエンジン受付サイト
山形県社会福祉協議会主催の山形ボランティア隊バス受付サイト

 安否確認サービスは、3月11日の災害時、携帯電話、メールがつながらなくなる中、クラウドは止まらなかった点に着目。インターネット回線を利用し、社員に安否情報を登録させて、社員の安否確認に利用することができる。企画から実際のサービスインまでは約1カ月、実際の開発は2週間程度だった。

 すでに8月1日からサービスとして提供を開始し、東北以外の地域も含めて問い合わせを受けているという。

 「新たにサーバーを立ててサービスを開始したとすれば、サーバー構築だけで1カ月から2カ月の期間がかかったと思います。それがAzureを利用することで、おおよそ1、2週間程度で開発できたのですから、開発期間は独自サービス構築に比べれば圧倒的に短期間で済ませることができたと思います。コストについても、サーバー構築にかかる初期費用がかからないのですから、大幅に少なくて済みます」(YCC情報システム 研究開発部の齋藤雄輔主任)

 こうした開発期間、開発コストに加え、震災以降はクラウドに対する前向きな見方をする企業、自治体が急増したのだという。

 「クラウド.jpg海外にサーバーがあり、不安という声が多かったのですが、震災後はむしろ国内だけにデータを置いておく方が不安では?という声があがるようになりました」(YCC情報システムの小沼部長)

 実際のビジネスにも優位に働くようになった。安否確認システムについては、山形県の数社の企業が導入。さらに県外の企業からも問い合わせが寄せられているという。

 「自分の安否情報を自分で確認する仕組みで、そのためにメールも介在する必要もなく、自分のメールアドレスを公開する必要もありません。管理者の必要もないので、小規模企業でも導入できます。こうした特徴が評価のポイントとなっているようです。ぜひ、東北以外の地域の企業にもアピールしていきたいと考えています」(YCC情報システム お客さまセンターの嶋貫博行センター長)

 震災を契機に、クラウドを使ったシステムの導入が増加していることは間違いないようだ。


YCC情報システム お客さまセンター 嶋貫博行センター長YCC情報システム 研究開発部 齋藤雄輔主任YCC情報システム 研究開発部 小沼博部長

 

シニア向けパソコンセミナーにも震災の影響

 偶然にも同日、日本マイクロソフトの東北支店では富士通と共同で行っている、「らくらくパソコン4」を使ったシニア向けパソコン体験教室が開催されていた。

 この体験教室はこの仙台が最終日で、全国8か所で開催された。両社が進めているシニア向けパソコン教室を主催するNPO支援、シニアICTリーダーの育成などと共に行われたセミナーである。

 シニア向け支援にも、震災の影響が出ている。

 「パソコン教室の主催者や、シニアICTリーダーからは、『震災後、インターネットで情報が取得できると聞いたのだが』といった問い合わせが増えているという声があがっています。中、『Twitterというものをやると、友達や自分の消息を知るのに役立つと聞いたのだが』という問い合わせもあったそうです」(富士通株式会社 パーソナルマーケティング統括部コンシューマセールスプロモーションG・大塚恭恵マネージャー)

 仙台会場でも、「震災後、インターネットの重要性を認識しましたか?」という質問を受講者に行ったものの、仙台会場に関してはそういう受講者はいなかった。

 ただし、「これまでワープロ専用機を使っていたので、インターネット契約とはどういうものかがわからないのだが?」と、パソコンを使ったことがない人がいる一方で、「Windows8が来年出ると言われているのに、Windows7搭載パソコンを購入していいのか?」という質問も出ていた。パソコンを利用することに対して、かなり真剣に検討して製品購入、回線契約を行っている様子が伝わってきた。


日本マイクロソフト 東北支社で「らくらくパソコン」を使ったセミナーを受講する受講者たち
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