Intelのデータセンター事業戦略、「クラウド2015ビジョン」で目指すもの
HPC向けメニーコア・アーキテクチャ「Knights」も紹介
米Intel データセンター事業部 副社長兼マーケティング本部長のボイド・デイビス氏 |
インテル株式会社は11日、データセンター事業部の戦略説明会を開催。米Intel データセンター事業部 副社長兼マーケティング本部長のボイド・デイビス氏が登壇し、次の10年を見据えたインフラの条件や同社の取り組みを紹介した。
■今後10年に向けたインフラの条件
デイビス氏はまず次の10年に向けたインフラの条件を説明。「効率的」「シンプル」「セキュア」などを挙げた。「効率的」はプラットフォームとデータセンターにおける先進の電力効率を指したもの。このテーマに対してインテルは、Xeon 5600/7500をはじめ、メインフレーム置き換えに向けたItanium 9300、ストレージ・ネットワーク向けのXeon C5500/C3500、マイクロサーバー向けのXeon 3400など、「史上最大規模となるデータセンター向け製品群の刷新を行ってきた」(同氏)とした。
インフラの条件 | データセンター向け製品群の刷新 |
「シンプル」では、サーバーの標準化に続き、「ストレージやネットワーキングにもXeonを波及させ、単一アーキテクチャによる複雑性の排除に努めてきた」(同氏)と説明。すでに富士通、NEC、日立、EMCなどがストレージでのXeon採用を決定するなど、「データセンター全体でインテル技術が利用されている」(同氏)とした。
「セキュア」では、仮想化環境におけるハードウェアベースのセキュリティ技術として、「インテル トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー(TXT)」や、「インテル Advanced Encryption Standard New Instructions(AES-NI)」を紹介。前者はシステムに「信頼された状態」を確立し、セキュリティポリシーに基づく安全なVMの移行を実現する。一方、後者は暗号化/復号のアクセラレータで、Oracle Database 11gの暗号化・復号を89%高速化するなど、ソフトウェアのパフォーマンスを大幅に向上する。
さらには、McAfee買収により、新たなハードウェアベースのセキュリティ技術も予想される。「まだ公表できることはないが、データセンター事業でもどう生かすかを検討中だ」(同氏)としている。
インテルTXTの概要 | インテルAES-NIの概要 |
■情報爆発に対する「クラウド2015ビジョン」
クラウド2015ビジョンの概要 |
上記の取り組みにより、データセンター全体のオープン化を進めるIntelだが、その背景には、クラウドへのパラダイムシフトが存在する。クラウドの普及はデータ量をさらに増加させる。同氏によれば2009年までにインターネット上でやり取りされたデータ量は150エクサバイトだったのに対し、2010年は単年で175エクサバイトがやり取りされたことに言及。
さらに「2015年には、1000エクサバイト以上となるだろう。ネットユーザー数は10億を超え、接続デバイス数は150億台を超えると予想される」(同氏)とし、クラウド・アーキテクチャによるITの根本的な変革が必要不可欠だと強調した。
そこで同社が目指すのが、「連携」「自動化」「クライアント認識」をキーワードにしたクラウド環境。「連携」で、パブリッククラウドとプライベートクラウド間でセキュアにデータを共有し、「自動化」でITの運用管理の負担を軽減する。加えて、「クライアント認識」で多様性を増す端末の機能に基づいて、サービスを最適化する仕組みを実現しようというものだ。これを「クラウド2015ビジョン」として掲げている。
■エンドユーザー主導の取り組み「ODCA」
「こうした変化への触媒となるのが、2010年10月に立ち上げたOpen Data Center Alliance(ODCA)だ」とデイビス氏。「目的は、現在、将来のデータセンターが直面する課題に対応するクラウドソリューションを実現することで、エンドユーザーが主体となって活動しているのが特徴。マルチベンダー対応の業界標準規格を策定するのだが、Intelは技術顧問のような立場で、実際の要件定義はエンドユーザー主導で行っていく」(同氏)という。
ODCAには現在、グローバルで70社以上の企業が参加しており、2011年第1四半期にも「ロードマップ 1.0」の公開が予定されている。このロードマップ 1.0には、「スケールアウト型ストレージ」「統一化されたネットワーキング」といったインフラ要件、「ポリシーベースの電源管理」といった運用管理要件、「信頼されたコンピューティング・プール」といったセキュリティ要件、「クラウド・オンボーディング」といったサービス要件が盛り込まれるようだ。
ODCA設立会員 | 2011年第1四半期にロードマップ 1.0を公開予定 |
これに関連して、相互運用性の高い実証済みのソリューションを確立する「インテル・クラウド・ビルダー・プログラム」も進めている。こちらは2010年初頭に始まった取り組み。Cisco、Citrix、Dell、EMC、HP、IBM、Microsoft、VMwareといった大手からベンチャーまでが多数参加しており、「Microsoft System Center VM Manager Self-Service Portal 2.0」「Novell Cloud Manager」「Red Hat Cloud Foundation」「Ubuntu Enterprise Cloud」「VMware VCloud Director」など、20種類のリファレンス・アーキテクチャが発表されている。
インテル・クラウド・ビルダー・プログラム。現在20種類のリファレンス・アーキテクチャが発表されている |
■HPC向けメニーコア・アーキテクチャ「Knightsシリーズ」
Knights Ferry |
デイビス氏が最後に紹介したのが、HPC向け「メニー・インテグレーテッド・コア(MIC)・アーキテクチャ」だ。商品化を断念したLarrabeeの後継といえるアーキテクチャで、現在開発者向けにPCIカード型の「Knights Ferry」を出荷中。2010年5月・6月にまたがって独ドレスデンで開催された「International Supercomputer Conference 2010」では、商用版の第1弾となる「Knights Corner」が発表されている。
HPC市場では、高負荷演算へのニーズとともに、高度な並列処理アプリケーションが求められる。非常に多数のコアを持つKnightsシリーズは、「各コアは小型・低消費電力で、シングルスレッドでの性能は決して高くはないが、コアの並列処理により集合的に高い性能を発揮し、並列処理アプリケーションに高いメリットをもたらす」(同氏)という。第1弾製品のKnights Cornerは、22nmプロセスで製造され、50個以上ものコアが搭載される予定だ。
メニーコアとマルチコア | Knights Ferryの概要。MICアーキテクチャ用ソフト開発プラットフォームとして提供されている |
以上のように、「クラウド2015ビジョン」に向けてODCAやインテル・クラウド・ビルダー・プログラムを進めると同時に、HPC向けMICアーキテクチャなどが同社のデータセンター事業戦略となる。説明で一貫して強調されていたのが「オープン」という言葉。クラウドやHPCなどの分野でも、「オープン」を強く意識した戦略を進めていく意向のようだ。