「オープンソースの理念でクラウドの囲い込み問題を解決する」、米Red Hat


米Red Hat ミドルウェアビジネスユニット バイスプレジデント&ゼネラルマネージャー Craig Muzilla氏

 レッドハット株式会社は10月5日、米Red Hatのミドルウェア事業部門で最高責任者を務めるCraig Muzilla氏の記者会見を、セミナーイベント「JBoss is in the Cloud」に合わせて開催。同社のクラウド関連の製品やPaaSなどの戦略について説明した。

 Muzilla氏は冒頭、現在のクラウドがベンダーによる垂直統合で囲い込まれていることに警鐘を鳴らし、「オープンソースの理念をもってこの問題を解決したい」と語った。

 

JBossで約230万ドルを削減

 Muzilla氏はまず、クラウド戦略の背景として、自らの統括するミドルウェア製品(JBoss)について解説した。Red Hatでは、Linux、ミドルウェア(JBoss)、仮想化を事業の3本柱としており、3者を統合してクラウドに取り組んでいる。

 JBossは、アプリケーションサーバーを中核とするJavaミドルウェア製品群。開発ツールやメッセージング、BPM、ポータル、SOA、管理ツールなどさまざまな製品からなる。

 JBOSSはライセンス課金ではなく、サポートを提供するサブスクリプションのビジネスモデルをとっている。Muzilla氏は、これにより企業がTCO削減できると話し、WebLogicからJBossに置きかえた企業数社が、移行コストも含めて約230万ドルを削減したというフォレスターの調査データを紹介した。

 Red HatのJBossのビジネスも5年で500%と急成長し、世界で数千社が採用しているという。Muzilla氏は採用実績として、ニューヨーク証券取引所(NYSE)と、大手自動車保険会社GEICOの事例を紹介した。NYSEはインターネット経由のトランザクションをすべてJBossで処理しており、独自開発合と比べて60%のコストを削減したという。また、GEICOはすべてのトランザクションをJBossで処理し、700万ドル以上のコスト削減効果があったという。

JBossの顧客企業の例JBossに置きかえた企業数社が約230万ドルを削減したというフォレスターの調査データ

 

クラウド間のポータビリティを担保する

 Muzilla氏は、かつてベンダーがハードウェアからOS、アプリケーションまで垂直統合で提供していたベンダーロックインの時代から、顧客が選択できるオープンシステムへの流れのあと、現在は再び「垂直統合したロックインに戻っている」と主張。具体例として、OracleがBEAなど各社を買収して垂直統合に進んでいること、クラウドサービスが縦割りになっていてサービスを乗り換えられなくなっていることを示した。

 特にクラウドについては、パブリッククラウドを数多くのベンダーが提供し、プライベートクラウドを多くの企業が構築する中、独自のAPI、独自の言語、独自の管理APIがはんらんしていることを指摘。ひとつのクラウド用にアプリを構築すると、ほかのクラウドに容易には移行でいないと述べた。

 「Red Hatはオープンソースの理念をもってこの問題を解決したい」とMuzilla氏。ロックインを排除し、最大限のフレキシビリティとポータビリティを提供すると語る。

 具体的な取り組みとしては、6月にクラウドに関する概念「Red Hat Cloud Foundation, Edition One」を発表し、それにもとづく製品を開発している。

 中心になるのがクラウドを構築し管理するためのIaaS機能の製品群「Red Hat Cloud Engine」。サービス構築のためのソフトウェアや開発ツール、データサービス、サービスの動作を監視し管理するツールなど、さまざまな機能を提供している。

 Red Hat Cloud Engineの特徴として、Muzilla氏は「Deltacloud API」を紹介した。異なるクラウドの間でのポータビリティを担保するためのAPIで、仮想化技術やクラウド基盤の違いを共通化するものだという。

「移植性のあるクラウド環境」というRed Hatのクラウド戦略Red Hat Cloud Foundation構想による製品群

 

Red Hat PaaSは来年リリース予定

 Red Hatが8月発表した「Red Hat PaaS」についても解説された。Red Hat PaaSはホスティングされたパブリッククラウドとオンプレミスのプライベートクラウドに対応。最終的なリリースは来年を予定しており、現在ベータ版でテスト中だという。

 Muzilla氏はRed Hat PaaSについて、JBoss製品と共通するキーワード「Open Choice」を強調。特定プロダクトに縛られずにさまざまなプログラミング言語やプログラミングモデルをサポートし、すでにJavaEEベースのアプリケーションがあれば、そのまま利用できるという。Deltacloud APIによりポータビリティも担保している。「そこがForce.comやGoogleと違うところ」と語った。

 さらに、ミドルウェアとしてトランザクションやメッセージングなどのコンポーネントを提供するだけではなく、それらを統合するBPMなどの機能も提供。管理基盤も使い勝手よくなるようにし、例えばJBossのイメージをEclipseからデプロイして試すツールや、動いているサービスを監視して必要に応じてスケールアップやスケールダウンさせるツールなどを提供するという。

 最後にMuzilla氏はDeltacloudやJBossに関するコミュニティの活動を紹介し、「オープンソースなのでコミュニティから情報を得られる」ことを強みとして、話を締めくくった。

Red Hat PaaSの「Open Choice」コンセプトRed Hat PaaSの管理基盤
関連情報
(高橋 正和)
2010/10/14 15:07