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富士通、大規模な量子コンピューターの実現に向けダイヤモンドスピン方のプロトタイプを開発

 富士通株式会社は8日、ダイヤモンドスピン方式量子コンピューターのプロトタイプを開発したと発表した。

 量子コンピューターの実用化に向けては、超伝導、イオントラップ、中性原子などのさまざまな方式が世界で研究されている。ダイヤモンドスピン方式は、ダイヤモンド結晶中のカラーセンターと呼ばれる格子欠陥構造を量子ビットとして利用する方式。量子状態を安定的に保ちやすいダイヤモンドの特性に起因する高いフィデリティ(量子状態が理想的な状態にどれだけ近いかを示す指標の一つ)が特長であり、超伝導方式などに比べてより少数の物理量子ビットから論理量子ビットを構成できる可能性がある。また、光を用いることで量子モジュールを高い自由度で接続できることから、優れた拡張性を持つモジュール型アーキテクチャによるシステムの構築が可能になる。

 これまでダイヤモンドスピン方式では、ダイヤモンド結晶中の窒素原子不純物によって形成された窒素-空孔(NV)センター(以下、NVセンター)と呼ばれる構造を用いるのが一般的だったが、富士通はプロトタイプの開発で、従来比約10倍相当の高輝度なダイヤモンド結晶中のスズ-空孔(SnV)センター(以下、SnVセンター)に着目した。SnVセンターは高い対称性を持ち、NVセンターと比較して外部環境のノイズの影響を受けにくいのが特長であり、非常に安定した高輝度のカラーセンターとして期待されている。

プロトタイプの外観

 富士通はプロトタイプの作製にあたり、スケーラブルな量子コンピューティングチップを可能にする異種材料接合技術と薄層化技術を開発した。SnVセンターを用いた量子コンピューティングチップを実現するため、スズをイオン注入した高品質ダイヤモンド基板とアルミナ・酸化膜付きシリコン基板を接合する異種材料接合技術、および異種材料に接合した数百マイクロメートルの厚みを持つ硬いダイヤモンドを、量子コンピューティングチップに適した数百ナノメートルまで薄層化する技術を開発した。

 さらに、光による量子ビットの初期化や量子ビット状態の読み出しの際にSnVから放出される単一の光子を取り出すために、SnVセンターを含むナノメートルサイズのダイヤモンド結晶と、単一の光子を取り出すための可視光領域で透明なアルミナの光導波路を集積したフォトニクス集積回路を作製する技術を開発した。ダイヤモンドの加工においては、国立大学法人東京大学との共同研究成果を活用した。

 また、ダイヤモンドスピン方式では光・マイクロ波・RF波を組み合わせて量子ビットを制御するため、超伝導方式とは異なる制御方式が必要となる。富士通は、量子ゲートで記述された量子回路をダイヤモンドスピン方式向けの制御命令に変換する機構を開発し、「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」からの制御を実現した。

 これにより、超伝導方式の量子コンピューターの動作温度より高い約-271.6℃で動作できることを確認した。また、ユーザーが量子コンピューターの方式の違いを意識することなく、富士通のハイブリッド量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」経由でプロトタイプを利用できることを実証した。

 今回の成果は、富士通とオランダのDelft University of Technology、およびその傘下の量子技術研究機関であるQuTechが2020年から進めてきた共同研究成果を基に実現したもので、量子コンピューターを大規模化するための有力なアプローチの一つであるモジュール型アーキテクチャの実現に向けた重要なマイルストーンだとしている。

 富士通は、今回開発した高輝度のSnVセンターを集積する技術をさらに発展させ、2027年を目標に複数量子モジュールから成るダイヤモンドスピン方式量子コンピューターのプロトタイプ開発に取り組む。また、超伝導方式との接続技術開発にも取り組み、両方式を合わせて大規模な誤り耐性量子コンピューターの実現に向けた研究を推進するとしている。