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アトムが豊洲にデータ収集拠点「フィジカルAIファウンドリ」を開設 国産ヒューマノイドAIロボットの基幹産業化へ取り組む

 国産ヒューマノイドAIロボットを開発する株式会社アトムは26日、フィジカルAIのデータ収集センター「アトム フィジカルAIファウンドリ」を、東京・豊洲に開設した。

 2027年末までに、200台規模のヒューマノイドAIロボットを稼働させ、累計30万時間分の学習データを生産・収集する体制を構築する。同社ではこれらのデータを活用し、2027年に自社開発のヒューマノイドAIロボットを市場投入する計画だ。製造業や物流業を中心に導入を進める。すでに企業から合計で約100台の導入意向表明があるという。

アトムが開発しているヒューマノイドAIロボット
製造業・物流業のタスクを想定したヒューマノイドを量産予定

 また、アトムは、日本精工(NSK)と、国産ヒューマノイドAIロボットの開発および実装に向けた包括的なパートナーシップに関する基本合意書(MOU)を締結したことも発表した。

 アトムの青木俊介社長は、「二足歩行の人型ロボットは、日本が先行していたが、いまでは米国や中国が主役になっている。ヒューマノイドロボットは一過性の流行ではなく、AIやLLMよりも大きなインパクトをもたらすと考えている。激しい産業になるのは覚悟している。それでも日本からヒューマノイドAIロボット産業を作り上げたい」との意気込みを示す。

 また、「ヒューマノイドAIロボットは今後15年で60兆円の市場規模になる。AIやLLMの進化、高性能で低価格なアクチュエータの普及、GPUの性能向上とともにロボットに搭載できるような小型化も進んでおり、ヒューマノイドAIロボットを実現する技術がそろったこのタイミングが訪れている」と指摘。

 「アトム フィジカルAIファウンドリは、データを収集するだけでなく、ハードウェアの試作や実験も行い、フィジカルAIモデルを実現するためのあらゆる研究開発を行うことになる」とした。

 さらに、「NSKとの戦略提携により、部品開発とデータ収集の両面で連携することで、世界進出ができるヒューマノイドAIロボットを実現し、新たな産業を作り出すことを目指す」とも意気込みを語った。

アトム 代表取締役社長の青木俊介氏

「世界一のカレー屋」を目指すアトムの創業理念

 アトムは、2025年11月に設立。国産ヒューマノイドAIロボットの開発と、フィジカルAI基盤モデルの研究に取り組むスタートアップ企業だ。

 双腕二足のロボット機体だけでなく、環境認識、判断、行動生成を担うフィジカルAI基盤モデルを自社で開発。これを統合することで、多様な環境に適応でき、現場で人間と協働するロボットを実現するという。

 創業者である青木氏は、米カーネギーメロン大学で、AIやロボットの開発に従事。2021年には、自動運転企業であるチューリング(TURING)を共同創業。これまでにAIおよびロボット関連で40本以上の学術論文を執筆している。

 「日本では、人口減少による労働力不足の課題や、輸出して外貨を稼ぐ産業が少ないという実情がある。だが、日本には、世界的な部品企業が数多く存在し、人材も豊富であるという特徴がある。この力を借りることで、世界のフィジカルAI競争、ヒューマノイドAIロボットの競争に勝っていきたい。ヒューマノイドAIロボットを、日本の基幹産業に育てたいと考えて、アトムを創業した。産業用ロボットを作るのではなく、人型ロボットを通じて、新たな知的生命体を作りたい」と述べた。

 青木社長は社内に対し、「世界一のカレー屋になろう!」と、比喩したメッセージを発信しているという。

 「カレー屋は、にんじんやじゃがいもを作るわけではないが、おいしいカレーを作るには、おいしいにんじんやじゃがいもを農家に作ってもらう必要がある。ヒューマノイドAIロボットも同様であり、電機や自動車業界において、世界で戦ってきた日本の部品メーカーが開発した部品を活用することが、世界一のカレー(=ヒューマノイドAIロボット)を作るには不可欠だ」と訴える。

 現在、アトムで開発しているヒューマノイドAIロボットは、身長175cm、体重70kgで、腕は7自由度、脚は6自由度があり、合計で27自由度を持つ。また5本指で操作できるハンドを搭載している。積載重量は片手で15kg、両手で30kg。時速4kmで移動できる。

 「ハードウェアには汎用品を用いている。フィジカルAIモデルやソフトウェアを調整することで、さまざまなタスクをこなせるようになる。二足歩行としているため、階段などの移動もでき、床の材質などを変えずに、既存の環境にロボットが導入できる」とした。

アトムの開発室の様子
デモンストレーションは5台のロボットで行ったが、これが200台並ぶことになる
ロボットを活用して、仕分けを行っている様子。バーコードを読んで分ける
物流拠点を模擬した環境でロボットを活用してデータを収集している様子

30万時間の学習データを生み出す「アトム フィジカルAIファウンドリ」

 新設した「アトム フィジカルAIファウンドリ」は、約1700平方メートルのエリアに、自社開発した5本指、双腕、二足歩行のヒューマノイドAIロボットを配置。人が横について操作を指示し、動いたロボットからデータ収集を行い、フィジカルAIの開発を推進する。製造業、物流業の実作業を模擬した環境で、データ収集を行うことで、現場に投入するために必要なAI基盤モデルの開発を加速する。

 「世界で蓄積が進んでいるロボットデータは、二本爪のグリッパー向けが主流となり、指先が対象物にどう触れ、どの程度の力で保持しているのかという情報を含まない。しかし、製造業や物流の現場では、人手が最も足りないのは小さな部品を摘んで組み付けるような力作業を伴う繊細な作業である。実際の現場を模擬した環境を構築し、ロボットデータを収集することになる」という。

 アトム フィジカルAIファウンドリは、2027年前半には約2700平方メートルに拡張する計画だ。

 「30万時間分のデータ収集を行い、自社においてVLM(視覚言語モデル)の開発を行う。学術的に、AIによる創発が起きることが実証されているのが30万時間である。物流分野におけるデモンストレーションを構築する上でも、30万時間分のデータが必要だという実感がある」と語った。

「アトム フィジカルAIファウンドリ」を開設

 また、「アトム フィジカルAIファウンドリ」は、一部を外部に公開する。「拠点の一部を開放することで、フィジカルAIの実装の際に課題となる安全性、信頼性、セキュリティに関しても、責任を持った議論を進めたい」とした。

 さらに、データ収集連携パートナーの募集も開始する。パートナー企業との連携により、実際の生産現場での動きを、フィジカルAI基盤モデルに組み入れ、世界トップレベルのヒューマノイドAIロボットの実現を目指す。

パートナー企業とのデータ収集連携を開始

NSKとの戦略的提携:アクチュエータの共同検証と実データの共同収集を実施

 一方、アトムとNSKとの戦略的提携では、NSKが持つ精密部品の開発および量産のケイパビリティと、アトムのAIおよびロボット技術を組み合わせることで、国内で一貫した開発・実装体制の構築と、AI領域で必要な実データの効率的な収集を実現。日本発のロボット産業基盤の確立を目指すという。

 具体的には、2つの取り組みを行う。

 ひとつめは、「アクチュエータの共同検証」である。

 NSKが開発するヒューマノイドロボット向けアクチュエータを、アトムのヒューマノイドロボットに搭載して共同検証を行う。アトムの実機評価から得られる知見をNSKの製品開発に生かし、国産アクチュエータの性能向上と、量産化に向けた課題解決を加速させる。

 「実際の生産現場を持つNSKとの話し合いを通じて、現場ではどんなことが起きているのか、将来に発生しそうな課題はなにかといったことも、手触り感がある状態で議論することができる」という。

 現在、3種類のアクチュエータを開発しており、2026年中にはこれらが出そろい、2027年から実証実験を開始できるという。

NSKが開発したアクチュエータの試作品

 2つめは、製造現場を活用したフィジカルAIデータの共同収集である。

 NSKの製造現場を活用して、アトムのヒューマノイドAIロボットによるフィジカルAIデータの収集に共同で取り組む。実際の生産環境に由来するデータを活用することで、フィジカルAI基盤モデルの性能向上と、製造工程で求められる高度な作業を実行可能なロボットの開発を目指す。

 日本精工の市井明俊社長・CEOは、「共同作業により、メカとソフトウェアの連携を行う。これは、日本が得意とする『摺り合わせ』を、新たな形で実現する取り組みだととらえている。製品レベルで、日本のロボット産業の国際競争力を高めていくだけでなく、新たな共創の形そのものが、日本の競争力強化につながる」と位置づけた。

日本精工 取締役代表執行役社長・CEOの市井明俊氏

 NSKは、1916年に日本で最初の軸受(ベアリング)を生産。100年以上に渡り、軸受や自動車部品、鉄道部品、精機製品などを提供。日本の機械産業の発展を支えてきた。軸受では世界第3位のシェアを持ち、ボールねじ、電動パワーステアリングなどでも市場をリードしている。

 市井社長・CEOは、「ベアリングは、壊れる、重い、使いにくいといった課題に寄り添いながら、機械の発展に貢献してきた。これがNSKのミッションである。フィジカルAIが現実となり、日常生活や現場に生かしていくことが、喫緊の課題である。フィジカルAIは、AIによる頭脳だけでは動かない。意図を正確に把握し、滑らかに、しなやかに対応する精密機械部品が必要である。NSKの技術や製品は、フィジカルAIによる動きを実現する上で欠かすことができない重要なピースになると考えている。部品レベルでの摩擦や動作特性を高精度に予測しながら、AIが求める動きを安定して再現できる機械ユニットの実現に取り組んでいる。NSKの技術は、ヒューマノイドAIロボットの実装や量産において重要なものになる。NSKには、『機械産業のコメ』としての自負がある。日本のヒューマノイドAIロボット産業を日本の大きな力にしたい」とした。

アトム 代表取締役社長の青木俊介氏(左)と日本精工 取締役代表執行役社長・CEOの市井明俊氏(右)、そして開発中のヒューマノイドAIロボット