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SmartHRがARR300億円に到達、2026年度は2種類のAIエージェントと人事データ×AIを推進

 株式会社SmartHRは7日、2025年度の実績と2026年度の事業戦略を発表した。

 実績として、月次ARR(Annual Recurring Revenue)が2026年7月に300億円に到達したとのことで、代表取締役CEOの芹澤雅人氏は、「この1年間のプロダクト増加を通し、今月、ARRが300億円を突破した。SmartHRのピュアなサブスクの売上だけで300億円を突破できたのは、国内の業務システム市場を見ても、かなりの規模になってきている数値だ。当社が人事労務分野の基幹システムとして進化を遂げてきたことを証明する売上になっていると思っている」とアピールした。

「SmartHR」の月次ARR推移

 同社は昨年、クラウド人事労務ソフトウェアのSmartHRを、人的資本経営をデータに基づいて推進するための『人的資本経営プラットフォーム』となることを目指し、2030年の売上を1000億円とする目標を掲げていた。これを実現するためにプロダクトの増強を図った結果、「給与計算と従業員ポータル領域の2つが好調で、売上に貢献した」と芹澤CEOは説明した。

株式会社SmartHR 代表取締役CEOの芹澤雅人氏

 2026年度は、従業員向け、バックオフィス向けの2種類のAIエージェントを提供するほか、新しい効率化の実現に加えて、人的資本経営を実現するための分析環境を提供する。芹澤CEOは、「企業は働き方、組織のあり方を変えていかなければいけない時期にきている。その際に必要となる、AIのためのコンテキストデータを提供する。特に重要なのは他社比較データの提供だ。他社比較ができることで、働き方や組織を変えていく決意をする企業が増えるのではないか」と、他社比較ができるデータを提供することにより、顧客獲得を進めていく考えを示した。

業績好調を牽引する「給与計算」と「従業員ポータル」の強み

 2013年に設立されたSmartHRは、2015年からサービスを提供しており、現在では従業員数が1600人を超えたが、「6割がセールスとマーケティング担当」(芹澤CEO)という。

 プロダクト提供は人事労務管理分野からスタートし、その後、タレントマネジメント、情報システム部門向け、従業員ポータルと段階的に拡大されてきた。

 「労務管理、勤怠管理から給与計算、タレントマネジメント、情報システム部門向け、従業員ポータルといった、バックオフィス全体を支える事業ポートフォリオとなっている。長い年月、事業を続けていく中で、ポートフォリオは大きく変化した。ただし、やっていることは一貫している」と芹澤CEOはアピールする。

「SmartHR」のプロダクト拡大の実績

 芹澤CEOが“一貫してやっている”と説明しているのは、バックオフィスを効率化して生まれた時間と、サービスを利用する中で蓄積されていくデータを活用することにより、企業の人的資本経営をサポートすることだ。

 特に、この1年で、これまで出していなかった給与計算サービスの提供を開始したほか、AIを活用した業務効率化と人的資本経営の推進、情報システム部門の支援、BPOといった、HR SaaS以外の領域への進出の動きを推進した。

 芹澤CEOはそうした動きを踏まえ、「業績が好調だった要因は大きく2点あると考えている」とする。

 まず、1点目は、給与計算が好調だったことだ。

 芹澤CEOは、「これまで給与計算を提供してこなかったのは、既に多くの企業が進出しているレッドオーシャン領域であり、当社が手掛ける意味があるのかどうかを、社内で長く議論してきたため。しかし、お客さまと話す中で、『労務管理のデータをそのまま給与計算に入れていくことができれば、作業が楽になる』という声があり、給与計算分野に進出することを決意した」と、この分野に取り組んだ経緯を説明。

 HR分野のデータ活用を考えている企業などが、従来利用していた給与計算から乗り換えるケースも多く見られるなど、着実に利用企業を増やしていることをアピールした。

 もう1つの好調の要因が、従業員ポータルである。AIアシスタントを含む従業員ポータルは、1年で導入企業数が900社を超えた。この従業員ポータル内にAIアシスタントがいることで、俺の株式会社では従業員からの問い合わせが24時間対応となり、店長、問い合わせをする従業員双方の負担が大幅に軽減したという。また、コスモ石油では、「まずはAIに聞く」ことが広がって、人事担当者の時間外対応がゼロになったとのこと。「従業員ポータル領域のサービスを提供し始めてわかったことだが、従来、この領域の製品はあまりなかったようだ」と芹澤CEOは話す。

「AIアシスタント」の導入事例

 それに加えて、SmartHRには、労務管理を行ってきた経験から、従業員アカウントをすでに持っているという強みがあった。「全従業員のアカウントを持っていることから、従業員ポータルへの移行が容易だった。新たにアカウントを発行するのではなく、既に使っているアカウントの延長で、従業員ポータルに誘導できることは他社にはない強みである」と、芹澤CEOはこれを説明した。

2種類のAIエージェントと「他社比較データ」などを展開

 なお、こうした以前からの強みを生かしていくことは、2026年度の事業戦略でも共通している部分だ。従業員向けやバックオフィス向けのAIエージェントを投入するが、労務分野からスタートし培ってきたデータなどがベースとなっている。

 従業員向けAIエージェントは、文書やルールにとどまらない、労働ににまつわる情報、タスクなどの案内を行うもの。芹澤CEOは、「自分が出勤できなくなった際、代わりにシフトに入ってくれる人材を探すといったことまで支援してくれるAIエージェントを目指している」とした。

 一方で、同じAIエージェントでもバックオフィス担当者向けには、日々SmartHRを利用している担当者が、SmartHR上の設定・運用・定常業務を任せられるAIエージェントを提供する計画だ。

バックオフィス向けエージェント

 また、「企業は働き方や組織のあり方を変えていかなければいけない時期に入っている。そのための人材戦略・組織戦略がより重要になってくる」と芹澤CEOは指摘する。そのための鍵となるのが、「他社比較データ」だ。自社プロダクトの利用企業に呼びかけて、データを提供してくれる企業を募集する計画で、その企業には、自社以外のデータを無料で利用できるメリットを提供する。

 「ベンチマークとなる他社データがあることで、自社データだけではわからない傾向が見えるようになる。8万社の顧客を持っているからこそ実現できるデータ戦略だ」と芹澤CEOは説明した。

AIによるデータ活用の実践:他社比較データ

 さらには、AI時代に入り、人材育成の見直しの必要性が叫ばれている中で、登録された人事データから条件に合った人材を探すことができる「AI HRBP」の提供も予定している。人材の育成、評価など、自社の従業員と組織について答えられるAIエージェントを提供し、人事部門の担当者がAIとともに人事戦略策定を迅速に進めていける仕組みだ。

AIによるデータ活用の実践:AI HRBP

 こうしたAIの進化を背後で支えるのが、従業員の6割を占めるという営業とマーケティングのスタッフである。「購入の相談に乗るだけでなく、アフターケアとして人事業務を改善する提案までを行えることが当社の強みとなっている。さらに、改善提案を行う際には、当社が蓄積してきたデータをもとにした提案が行えることも大きい」とした。

 また、目標とする2030年の売上1000億円の内訳としては、既存事業で820億円、M&Aや協業で180億円を見込む。SaaSとSaaS以外という分類では、SaaSで860億円規模、SaaS以外で140億円規模の売上を目指していく。

2030年に目指す事業ポートフォリオと売上高

 なお、2025年には、AIの技術進化によって「SaaS is Dead」というキーワードが飛び交ったものの、芹澤CEOは、「当社がお客さまと話す中で、SaaSはもういらないという話はほぼ出ていない」と述べ、実ビジネスへの影響はなかったとした。