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経理AIはなぜ「周辺業務」で止まってしまうのか? 経理の構造課題と打開への設計思想

【第1回】AI時代の経理業務再設計:「思考の代替」がもたらす組織の進化

 生成AIの普及で期待が高まる一方、経理現場では「周辺業務」の活用にとどまり、基幹業務への導入という高い壁に直面しています。人手不足や制度対応に追われる今、なぜ活用が停滞するのか。

 本稿では、弊社調査データからその真因をひも解き、実務を再設計するための打開策を提示します。

1.経理部門が抱える"構造課題"――なぜ期待は「周辺業務」で止まるのか

 経理部門においてAIは、現場の負荷を軽減する有力な選択肢であり、その恩恵を最も大きく受けられる領域の一つだと期待されています。しかし、実際の活用状況を見ると、その期待に対して活用範囲は極めて限定的と言わざるを得ません。弊社の調査データによれば、AIライセンスを保有していても、その用途が「調べもの」「要約」「メール校正」といった周辺業務にとどまっている企業が53.4%を占めることが明らかになりました。

 一方で、経理の業務プロセスそのものにAIを組み込めている企業は、「多くの業務で活用」がわずか2.1%、「一部の業務」を含めても9.6%という低い水準にあります。つまり、多くの企業においてAIはまだ実務の中核を支えるパートナーというより、限定的な補助ツールの域を出ていないのが現状です。

 このギャップの背景には、経理部門特有の「構造課題」が存在します。経理業務は正確性、再現性、そして説明責任が極めて強く求められる領域であり、一円の誤差も許されない性質上、人の確認や個別判断が業務の随所に残りやすいという特徴があります。その結果、恒常的な手作業の多さが現場の余力を奪い、AIを検証し学ぶ機会さえ得にくい環境を生んでいます。導入を阻んでいる主な要因はツールの不足ではなく、過重な業務負荷と知見の不足が相互に影響し合う、この構造そのものにあると言えます。

2.なぜAI導入は進まないのか――業務構造に潜む阻害要因

2-1.現場で語られている理由

 経理部門においてAI導入が停滞している背景を深掘りすると、現場が直面している実務上の課題が見えてきます。調査で示された阻害要因の一つひとつが、経理実務特有の性質や難しさを如実に反映しています。

 調査において最も多く回答されたのは「社内に知識・スキルが不足している(27.2%)」という課題です。生成AIへの関心が高まっている一方で、「具体的に実務のどの工程に適用し、どの程度の効果が見込めるのか」という判断材料が不足しています。経理は正確性と説明責任が強く求められる領域であるだけに、AI特有の「確率的な回答」に対して「まず試してみる」というアプローチを採りにくい現実があります。

 次に顕著なのが「通常業務に追われ、活用を進める時間がない(19.3%)」という時間的制約です。経理部門では、日々の記帳から月次・四半期・年次決算、さらにはインボイス制度や電子帳簿保存法といった制度改正への対応など、優先順位の高い実務が絶えず発生します。将来的な効率化に向けたAIの検証が必要だと理解していても、目前の締め切りや問い合わせ対応を優先せざるを得ず、導入検討が後回しになる傾向が顕著です。

 さらに、16.1%の企業が挙げる「セキュリティや情報漏洩への懸念」も重要な論点です。経理は財務情報や取引情報といった極めて機微性の高いデータを扱うため、利便性のみで導入を判断することはできません。監査対応や説明責任を含め、リスク管理の観点から慎重な見極めが求められる点も、経理部門特有の難しさと言えます。

 しかし、これらスキル・時間・セキュリティという理由は、あくまで「見えているハードル」に過ぎません。現場で語られるこれらの困難をさらに深く掘り下げると、AIを拒絶する「真の壁」が姿を現します。

2-2.本当の“壁”はどこにあるのか

 これらのスキルや時間の不足は、より根本的な問題に起因しています。それは、日々の業務を通じて、AIが力を発揮しにくいデータが継続的に生成され続けているという事実です。その背景には、経理業務における深刻な「属人化」と「手作業の多さ」があります。

 調査によれば、経理業務の現状課題として「手作業・確認作業が多い」と回答した企業は85.2%に達し、「業務の属人化」も76.1%に上ります。この結果は、多くの現場で業務の標準化が十分に進んでおらず、担当者の経験に基づく判断や例外対応によって運用が維持されていることを意味しています。確認や突合、転記といった作業の積み重ねによって「正しさ」を担保する旧来のスタイルは、プロセスの中に人の解釈が深く入り込み、データの精度や規則性が揃いにくい状態を生んでいます。

 ここに、経理AI活用の本質的な壁が存在します。AI、特に生成AIや高度な自動化技術は、一貫性のあるデータと再現可能なプロセスを前提として初めて精度を高められるものです。ところが実際の現場では、Excel、PDF、メール、紙の伝票、そして担当者ごとのノウハウが複雑に絡み合い、AIに適さない不揃いなデータが散在しています。

 また、手作業が多いほど確認の手間が増え、確認が増えるほど個別対応や例外処理も増大します。その例外を人が属人的なスキルで吸収することで、実務プロセスはブラックボックス化し、データはさらに不揃いになります。このループが回り続ける限り、どれほど高性能なAIを導入しても、期待される効果を得ることは困難です。AI活用を真に進めるためには、AIツールの導入以前に、AIが本来のポテンシャルを発揮できる「データの土壌」を整えるための業務プロセスの再設計が不可欠です。この「業務の再設計」を実行に移せるかが、現在の停滞を打破できるかを左右する重要な鍵となります。

3.どこから再設計すべきか――AIが「判断を支える」領域の特定

 経理業務の再設計において重要なのは、AIを一括りにせず、どのAIにどの工程で何を任せるのかを見極めることです。AIの役割は「信頼性」と「業務効率」の観点から、大きく4つの型に分類できます。

 第一に「会話型」は、知識を求める用途には有効ですが、ERPが担う実務そのものの効率化には直結しません。第二に「分析型」は、異常検知などで一定の活用余地がある一方、予測や解釈には依然として不確実性が残ります。第三に、自動処理を担う「プロセス型」は、効率が高い反面、AIに処理を委ねすぎると正確性や統制を損なうリスクがあります。

 そこで今、経理部門が重視すべきなのが「業務代替型(思考の代替)」というアプローチです。これは、AIにすべての実行を委ねるのではなく、判断材料の提示や候補の提案といった“思考のプロセス”を補助させ、最終的な確認と実行は人が担うという考え方です。

 人が信頼性を担保しながら、AIが判断の負荷を引き受ける。この適切な役割分担を業務に組み込むことで、経理部門に求められる堅牢性を維持しつつ、業務効率を高めることが可能になります。経理の再設計は、この業務代替型を起点に、人とAIの補完関係を構築することから始まるのです。

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 本稿では、経理のAI化推進を阻む「不揃いなデータ」という真の壁を直視し、AIによる「思考の代替」を通じたプロセス再設計の重要性を説きました。単なる自動実行を超え、AIが実務の判断を支える「業務代替型」へのシフトこそが、停滞する現状を打破する鍵となります。

 次回は、この設計思想をいかに現場のオペレーションに落とし込むのか。AIの「入口」、判断を支える「工程」、そして人とAIの「補完関係」という3つの切り口から、日常業務の再設計を解説します。

出典:2025年版 経理/財務部門におけるAI活用状況調査レポート(https://www.worksap.co.jp/knowledge/ai-survey/
調査方法:オンラインアンケート
調査期間:2025年9月24日~10月15日
調査対象:企業の経理・財務部門担当者
サンプル数:146(設問ごとに有効回答数は異なる)

島田 匠/株式会社ワークスアプリケーションズ
OXYG本部 エヴァンジェリスト

株式会社ワークスアプリケーションズにて、企業のAX推進及び大企業向けERP「HUE」のプリセールスを担当。様々な業種・規模での業務改善プロジェクトに参画する。

豊富な業務事例とシステム知識をもとに、経理・財務領域における業務改革やAI活用を推進。HUEエヴァンジェリストとして、実務に即した業務設計とシステム活用の橋渡しを担う。