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NEC、「Innovation Day 2025」で研究開発と新規事業における戦略を説明

AI関連技術を中心に最新の技術・サービスをデモ展示

 日本電気株式会社(以下、NEC)は3日、報道関係者とITアナリスト向けのイベント「NEC Innovation Day 2025」を、NEC玉川事業場 ルネッサンスシティホールで開催した。

 NECの研究開発と新規事業における戦略を説明し、最新の技術・サービスをデモ展示で紹介するイベントだ。特に今回は、AIに関連した技術や事業を中心に説明された。

NEC Innovation Day 2025

 NECの西原基夫氏(執行役 Corporate EVP 兼 CTO)は冒頭で、AIが経済活動の主体になりつつある一方で、それによるサイバー攻撃やフェイク情報などの脅威が起きていることを社会背景として取り上げた。

 そして、NECの強みとして、独自の生成AI技術cotomiを含む「AI」、国家安全保障レベルの「Security」、光通信や光コンピューティングなどの「プラットフォーム技術」の3つの技術が充実していると説明。その総合力によって貢献できると述べた。

AIが社会に与える影響
NECの強みの技術

 このレポートでは、まず最新技術・サービスのデモ展示を紹介し、その後で研究開発と新規事業における戦略について解説する。

生体認証、業務自動化AIエージェント、セキュリティソリューション、緊急通報指令室をデモ展示

 デモ展示コーナーでは、生体認証、業務自動化AIエージェント、セキュリティソリューション、緊急通報指令室などの支援技術の4つを展示していた。いずれも、基礎研究だけでなく、近くソリューションとして提供を予定している。

歩く人を顔認証と虹彩認証で同時に生体認証するデモ

 生体認証では、自然な速度で歩く人に対して、1台のカメラで顔認証と虹彩認証を同時に行う、マルチモーダル生体認証技術をデモ展示していた。

 3mの距離からウォークスルー型で個人を認識できる。顔認証と虹彩認証の2種類の生体認証を組み合わせることで、「鍵が2つ付いている」のと同様に、より厳密な認証を実現し、1億人を見分ける精度との説明だった。

 設置も、1台の小型カメラで済むため、既存のゲートに置くなど簡単に行える。また、屋外や逆光、暗所、遮光による陰影などでも認識でき、設置環境を選ばないということだ。

 利用ケースとしては、空港の入出国ゲートなどが考えられている。パスポートを読み取り機に置いて顔と照合するのに対し、立ち止まったりパスポートを見せたりすることなくウォークスルーで認証できる。

 NECでは、2026年度中に実証実験を行い、2027年度の実用化を目指す。

ウォークスルー型マルチモーダル生体認証のデモ
1台の小型カメラで2種類の生体認証を実現
ウォークスルー型マルチモーダル生体認証の説明

自律エージェントが業務を代行する「cotomi Act」をソリューションとして提供

 業務自動化AIエージェントとしては、企業や業務を理解した自律エージェントが業務を代行する「cotomi Act」をデモ展示していた。ソフトウェアやコンサル・運用保守サービスを組み合わせたソリューションとして、2026年1月から提供開始する。

 cotomi Actでは、マニュアル化や体系化がされていない業務ノウハウを、社員の行動からAIエージェントが自動的に抽出し、組織全体で活用できる形で暗黙知を蓄積して業務自動化を実現する。

 これにより、多くの工数を要するAIへの学習やマニュアル作成を必要とせず、日々発生する経費精算、受発注業務、審査業務など、作業ごとに判断や対応が求められるデジタル業務の継続的な自動化を推進することで、企業の業務変革を支援する。

 現在のところ、Webブラウザでの操作の抽出と自動化に対応。これをOSの操作全体に対応させる研究開発もなされているとの説明だった。

 デモ展示では、出張予定のメールを開いている状態で、「メールの内容でお客さま訪問を出張申請して」というプロンプトだけで、社内の出張申請サイトを開いてフォームに入力し、申請を提出するまでを自動実行する様子を見せていた。

 やることはRPAに似ているが、個社システムごとに異なり、バージョンが変わると変更されることのあるUIの構造を、AIが認識して自動的に入力してくれるとの説明だった。入力エラーが表示されたときにも、入力を修正するなどの対応ができる。

 なお、デモの例では、事前に入力操作を学習することのない状態で実行しているとの説明だった。同様の方式で、国際的ベンチマーク「WebArena」において、世界で初めて人間のタスク成功率78.2%を上回る80.4%を記録したという。

業務自動化AIエージェント「cotomi Act」のソリューションの説明
デモ:メールを元に出張申請を指示
デモ:出張申請フォームに入力
デモ:入力エラーが出ても対応

攻撃の予兆を把握し先回りして対策するセキュリティサービス「CyIOC」

 セキュリティソリューションでは、独自の脅威インテリジェンスを活用しAIも組み込んだ次世代セキュリティサービス「CyIOC」(11月提供開始)を展示していた。

 特徴としては、サイバー攻撃を受けてから対応するだけでなく、攻撃の予兆を把握して先回りして対策することが挙げられた。

 まず、NECが独自に持つ脅威インテリジェンス情報を基に、顧客の業務や利用システムごとにスコアリングし、自社に関連するトレンドを把握できるようにして、最優先で対処すべき脅威を選別して対応できるようにする。

 また、サーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどの構成をデジタルツイン上で再現。構成や脆弱性情報などによって、攻撃シナリオを自動で診断する。

 さらに、対応が考えられる箇所について、攻撃を受けた場合の被害想定額を可視化し、対策の優先度を経営者が迅速に判断できるようにする。

セキュリティサービス「CyIOC」の説明
デモ:脅威ダッシュボード
デモ:脅威ダッシュボードから、対象業種や対象システムで絞り込むことができる
デモ:デジタルツインで攻撃シナリオを診断
デモ:攻撃シナリオごとの分析結果や対策を表示
デモ:システムリスクの被害想定額を可視化

緊急通報指令室やコンタクトセンターをAIが支援

 緊急通報指令室などの支援技術については、電話オペレーターの業務をAIで支援する技術を展示していた。デモとしては、警察や消防署などのコントロールセンターで電話を受けるケースと、企業のコンタクトセンターで電話を受けるケースの2種類が取り上げられた。

 これらの電話オペレーターの業務は、回答に知識や経験が必要なのに対し、ストレスなどにより人の入れ替わりも多いという課題がある。

 これをAIで支援する。複雑な通話内容からでもAIが状況を理解し、取るべき行動を提案する。判断は人命に関わることもあるため、AIが事実に基づかない回答を返すのを防ぐよう、根拠を明確に提示する「説明可能なAI」を搭載している。さらに、マルチ言語に対応し、各国の法規制に対応させることも可能になっている。

 これにより、経験や知識の浅い人でも電話に対応できるようにする。

 警察や消防署などのコントロールセンターのデモでは、画面上に緊急事態タイプや信頼度といったAIによる分析、指標ごとの評価、重要キーワードの抽出結果などが表示されていた。また、会話ナビゲーションでは、会話相手の言葉がテキストで表示され、それに対する返答が提案された。

 またコンタクトセンターのデモでは、顧客感情の判定と時系列変化、電話の相手のカスハラ判定、回答のコンプライアンス判定、および会話ナビゲーションが表示されていた。さらに、これらの情報は監督者のダッシュボードで全員分を表示できる。

電話オペレーターの業務をAIで支援する技術の説明
警察や消防署などのコントロールセンターのデモ
コンタクトセンターのデモ
コンタクトセンターの監督者の画面

AIを中心とするNECの研究開発と新規事業の戦略

 NECの研究開発と新規事業における戦略については、NECの西原基夫氏(執行役 Corporate EVP 兼 CTO)と、山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)が説明した。

 NECでは、冒頭で紹介した「AI」「Security」「プラットフォーム技術」といった強みを基に、先端技術を社内外で実装し、得られた知見を基に市場に展開する「BluStellar」事業を展開している。

 このBluStellarを通じた現事業への貢献については山田氏が、未来へ向けた新たな成長事業の創出については西原氏が説明した。

NECの西原基夫氏(執行役 Corporate EVP 兼 CTO)
NECの山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)
現事業への貢献と、新たな成長事業の創出

企業のDXのために業務プロセスごとのAIエージェントを提供

 AIの現事業への貢献は「一言で言うと、(顧客企業の)デジタルトランスフォーメーション」と山田氏は語った。「AIの活用は非常に盛り上がっている中で、NECの実績は、市場の拡大スピードを上回って推移している」(山田氏)。

 その技術について山田氏は、業務プロセスを変革する「AIエージェント」と、それを支える「AIプラットフォーム」に分けて説明した。

AIによるDXの実績
DXにおけるAIエージェント技術とAIプラットフォーム技術

 まずAIエージェント。これには、業務プロセスごとに、それぞれを支えるAIエージェントを順次リリースしている。この中で山田氏は、マーケティング施策立案、調達交渉、顧客提案の3つを紹介した。

 マーケティング施策立案は「BestMove」(5月発表)だ。顧客分析から施策立案、効果予測までを、AIエージェントが情報収集とシミュレーションを繰り返して支援する。これによってSNSでの広告動画制作で認知率を125%増加させた実績があるという。

 製造開発での調達交渉のAIエージェントサービスは、12月2日に発表された。複雑な納期・数量調整交渉を自動化することで、数日かかっていた処理が数秒に短縮されたという。

 営業の提案の「NEC Document Automation - for Proposals」は、12月2日に発表され、2026年3月から提供開始予定。営業担当者の議事録などの活動記録や標準提案書を元に、営業提案書とディスカッションシートを自動で作成する。

 AIエージェントの分野についてはそのほか、前述のように展示コーナーでデモされた「cotomi Act」のソリューションと、緊急通報指令室の支援技術も山田氏は紹介した。

DXを支えるAIエージェントを順次リリース
マーケティング、調達交渉、顧客提案の3つのAIエージェント
cotomi Actのソリューション
緊急通報指令室の支援技術

AIガバナンスのEnd to Endなコンサルティングサービスを提供

 これらAIエージェントを支えるAIプラットフォーム技術については、さらにAIガバナンス、サイバーセキュリティ、AIのカスタマイズの3つに分けて山田氏は説明した。

 AIガバナンスでは、整理・方式決めから、システム構築、定着化まで、コンサルティングサービスをEnd to Endで提供する。その中で、12月2日に、「AIシステムリスクアセスメント」「AIガバナンスプラットフォーム導入」「AIリスクモニタリング」の3つのサービスを発表した。

 AIガバナンスの技術面では、プロンプト中の機微情報の秘匿化により情報漏えいを防止する技術や、入力・出力内容をリアルタイム監視するガードレールの技術を持っており、すでに営業をかけていると山田氏は紹介した。

AIガバナンスのコンサルティングサービス
AIガバナンスのための技術

 サイバーセキュリティについては、前述のように展示コーナーでデモされたセキュリティサービス「CyIOC」と、その中で業種・企業ごとの脅威を分析したり、顧客に特化したリスク評価と対策を示したりするAIエージェントを山田氏は挙げた。

セキュリティサービス「CyIOC」
業種・企業ごとの脅威を分析したり、顧客に特化したリスク評価と対策を示したりするAIエージェント

 AIのカスタマイズは、実事業のドメイン知識をAIに入れていくことを指す。この分野の例として山田氏は、NECと東北大学が共同開発した、肺がんについての医師の診断レポートから進行度を判定するAIエージェントが、ベンチマークテストNTCIR-18で1位を獲得したことを紹介した。

AIのカスタマイズ
NECと東北大学による、肺がんについての医師の診断レポートから進行度を判定するAIエージェント

暗黙知などの社内データをAI化して競争優位をもたらす技術

 新たな成長事業の創出については、西原氏は「将来について話をする。将来と言っても長い期間ではなく、来年や数年内のもの」と前置きして語った。

 まずAIが人間の手を離れて暴走する可能性について、西原氏は、AIが人間に対する欺瞞(ぎまん)を行うというチューリング賞受賞者であるYoshua Bengio氏の論文を紹介した。そして、NECはそのためのハーネスとなる技術として、AIを適切に管理・制御するための技術に取り組み、AIエージェントの中に入れていくと語った。

AIが暴走する可能性とハーネスとなる技術

 次は、AIによって企業や組織の競争優位をもたらすためにどうするかについて、データの切り口から西原氏は語った。こうしたデータは、すでにデジタル化されているデータ、デジタル化されていない暗黙知データ、実世界・現場のデータの3つに分けられる。特に後者2つが会社の強みにつながる。

 すでにデジタル化されているデータについては、生データそのものよりも、そこからAIモデル化して使えるナレッジとなるデータを抽出することが重要だと説明。この分野で、NECからスピンアウトして作られたdotData社が着々と製品を出していて、これをプラットフォームにしていきたいと西原氏は語った。

 暗黙知については、個人の知識や、職人などが身体で獲得したノウハウ、感情などの知識についてはAI化が可能だと西原氏は説明。cotomi Actのように人間の操作を横で見て覚える「Workflow Store」システムや、AIと人間の対話から判断基準を学ぶ「Rubric Store」の技術を紹介した。

 実世界・現場のデータについては、良質なセンシングデータの取得と、取得データの効率的な通信、取得データの位置・人/物体単位の照合などが必要で、これらを統合できるのがNECの強みだと西原氏は語った。

 この分野の例として、前述のように展示コーナーでデモされた顔・虹彩マルチモーダル生体認証も西原氏は取り上げた。

すでにデジタル化されているデータのAI化
暗黙知のAI化
実世界・現場のデータのAI化
顔・虹彩マルチモーダル生体認証

偽・誤情報分析ツールや、光ファイバー技術なども

 続いてAIとセキュリティについて。これには、サイバー攻撃、AIエージェントに対する不正操作などの攻撃、人の認知を突いた攻撃がある。

 このうち、人の認知を突いた攻撃、つまり偽情報の生成と拡散の問題の研究について、西原氏は取り上げた。インターネット上のコンテンツについて、生成・加工の有無やコンテンツの内容、出典などから偽・誤情報を判定する分析ツールの研究を紹介。さらに、その情報を誰がどのような意図で出しているかのインテリジェンスについても研究を進めていると語った。

偽・誤情報に対する研究

 最後に、プラットフォームについて。これについては、光ファイバーのマルチコア伝送システムを商用化してGoogleの海底ケーブルで採用されたことや、光信号処理に専用LSIを使わずGPUで実現する技術、量子暗号の技術、光で演算する光コンピューティングの研究を西原氏は紹介した。

光ファイバーの技術
量子暗号の技術
光コンピューティングの研究