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NECと産総研、人工知能とシミュレーション技術の融合に関する連携研究室を設立

 日本電気株式会社(以下、NEC)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は5日、人工知能(AI)に関わる研究開発を行う連携研究室「産総研-NEC 人工知能連携研究室」を、産総研人工知能研究センター内に6月1日に設立すると発表した。

 研究室は、相互連携による相乗効果でAIに関わる研究開発を加速することを目的としたもので、産総研としては初めて企業の名称を冠した連携研究室となる。研究室では、シミュレーションとAIが融合した技術を基本原理から産業応用まで一貫して開発することで、「未知の状況での意思決定」という新分野の確立と、AI研究のさらなる加速と産業への貢献に向けて共同で取り組む。

 NEC執行役員の西原基夫氏は、ビッグデータ分析に基づく予測や制御など、AIを活用した社会への実現への期待が高まる一方、災害やまれな事象への対応、新製品や新サービスの設定といった、分析に必要な過去データを十分に集めることが難しい状況では、AIの能力が十分に発揮できないという課題があったと説明。こうした課題に対して、足りない情報をシミュレーションで補いつつ、AIの能力を最大限に引き出す「シミュレーションとAIの融合技術」の開発に取り組むとした。

NEC執行役員の西原基夫氏
研究室で取り組む課題

 研究室の室長を務める大阪大学産業科学研究所教授の鷲尾隆氏は、未知の状況での意思決定支援の実現に向けた研究開発として、「シミュレーションと機械学習技術の融合」「シミュレーションと自動推論技術の融合」「自立型人工知能間の挙動調整」の3つのプロジェクトで研究開発を行うと説明した。

大阪大学産業科学研究所教授の鷲尾隆氏

 「シミュレーションと機械学習技術の融合」では、コンピューター上に構築したシミュレーター内で、観測したい現象のみを集中的に観測する手法などの確立により、効率的に機械学習を行う技術を開発する。これにより、通常のシミュレーションでは低確率すぎるために見つからない、「想定外の大洪水」といったシナリオを効率的に探索・発見することなどが期待できるという。

シミュレーションと機械学習技術の融合
「想定外の大洪水」のようにまれなシナリオを効率的に探索・発見する

 「シミュレーションと自動推論技術の融合」では、実世界のシステムを模してシミュレーター上に構築された仮想世界と自動推論技術とを融合することで、現実的な規模での知識データベースから妥当な推論を行う技術を開発する。これにより、障害対応などにおいて、知識データベースに直接該当するものがない場合でも、足りない部分をシミュレーションで補うことで妥当な推論結果を導出し、人間の判断を支援することなどを目指す。

シミュレーションと自動推論技術の融合
知識データベースに足りない部分をシミュレーションで補い、人間の判断を支援する

 「自立型人工知能間の挙動調整」では、AIによる自動制御が社会に広く普及することを想定し、意思統一されていないAI間でも挙動を調整できる仕組みの確立を目指す。AI間で調整を行う原理やアルゴリズム、通信プロトコルの開発と、それらの大規模シミュレーションによる検証などを実施。工場などにおいて個々のラインに導入されたAIが、互いに調整を行うことで工場全体としての効率化実現や、自動運転車のAI間での調整といった用途が期待できるという。

自立型人工知能間の挙動調整

 NECからは、各プロジェクトのマネージャーや研究員が参加するほか、産総研ではシミュレーションや機械学習、自動推論や最適化などの分野から、ポスドクなどの優秀な研究者の採用を進め、研究室の人員は計30人(設立時は15人程度)。研究期間については3年間の予定で、「自立型人工知能間の挙動調整」については来年度からの3年間を予定。社会インフラや産業プラントなどのユーザー企業と連携し、具体的な問題の解決を目指すとともに、シミュレーション技術を中心にオープン化を図り、この分野での研究の発展を促していくとした。

 鷲尾氏は、こうしたシミュレーションとAIの融合に関する研究は、特定分野については行われているが、一般的な方法論としての研究は世界でもほとんど進んでいないと説明。ものづくりのノウハウを持つNECと組むことで、より具体的な研究を進めていくとした。

 西原氏は、まれにしか起こらない事象の発見に関する技術は、NECとしては災害対応だけでなく、社会インフラや産業プラントでの「不測の事態」への対応など、ダイレクトに使える技術だと期待していると説明。今後の日本の労働人口減少といった課題に、AIの支援による判断の高度化や効率化といった形で取り組んでいきたいとした。

体制とスケジュール

三柳 英樹