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日本のヒト、モノ、データをIoEでつなげていく──、シスコ社長に鈴木みゆき氏が就任

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は18日、同社の代表執行役員 社長に同日付で鈴木みゆき氏が就任したことを発表した。昨年11月に前社長の平井康文氏(現・楽天 代表取締役副社長)が退任して以来、実に半年ぶりに日本法人の顔が決まったかたちになる。

 鈴木氏は18日に行われた就任記者会見において「シスコはIT業界、ネットワーク業界における世界の先駆者企業。その日本法人の代表に任命されたことにあらためて身が引き締まる思い。これまで培ってきたキャリアを生かし、シスコが現在提唱するIoE(Internet of Everything)の思想のもと、ヒト、モノ、データ、プロセスを仮想的につなげていくお手伝いをしていきたい」と意気込みを語っている。

 「グローバルで豊富なキャリアを持ち、IT業界や通信業界に精通していている鈴木氏がAPJのリーダーとしてわれわれの仲間になってくれたことを本当にうれしく思う」──。同席したCisco Systems アジアパシフィック ジャパン プレジデント アーヴィン・タン(Irving Tan)氏は、鈴木氏の就任を喜ぶコメントで会見を始めた。

この半年間、日本法人の代表も兼任していたタン氏は「やっと日本法人を任せられるベストな人材を得ることができて本当にうれしい」と語る。今後は鈴木社長はシンガポールオフィスのタン氏にリポートするかたちになる

 シスコ入社前の鈴木氏はLCC(新設格安航空会社)であるジェットスター・ジャパンの代表取締役を務めており、日本の航空業界に大きな変革をもたらした人物として知られる。ジェットスター・ジャパンの前にはKVH 代表取締役社長兼CEO、レクシスネクシス アジアパシフィック代表取締役兼CEO、日本テレコム執行役員兼コンシューマ事業本部長、ロイター 東南アジア代表取締役など、日本を含むアジア太平洋地域でリーダーとしてのキャリアを積んできた。

 就任に際し鈴木氏は「ジェットスター・ジャパンでは“新しい空の旅の創造”をキーワードに、人と人の触れ合いを重視しながら改革を進めてきた。シスコは現在、グローバルレベルで大胆かつ斬新なIoE施策のもと、あらゆるものをつなげようとしている。航空業界以外では、通信/ITの世界でキャリアを歩んできたが、いままで学んできたことを生かし、お客さまのお役に立つ製品/サービスを提供していきたい」と抱負を語っている。

 一部の報道機関では今年の初めから鈴木氏の社長就任がうわさされていたが、シスコおよび鈴木氏は今日まで沈黙を守ってきた。シスコ規模の外資系企業で、日本法人代表の座が半年も空席になるというのはかなり異例のことだが、鈴木氏がリポートすることになるタン氏は「日本市場はシスコにとって非常に大きく、成功しなければならない大切な市場。この世界的にもトップクラスの重要な市場を任せるにはそれなりの人物でなくてはならず、その選考にやや時間が必要だったのは確か。イノベーションとクリエイティビティとオペレーション、グローバルとローカル、そうしたバランス感覚を持つ鈴木氏にジョインしてもらえたことを心からラッキーだと実感している」と語っている。

Cisco Systems アジアパシフィック ジャパン プレジデントのアーヴィン・タン氏
シスコ 代表執行役員 社長の鈴木みゆき氏

 これに対し鈴木氏は、自身が社長に選ばれた理由に「おそらくは、33年間のキャリアのほとんどをITの世界で過ごしたこと、そして顧客の立場でシスコに接した経験があることなどが評価されたのではないか」と答えている。

 顧客の立場でシスコに接したことがあるという鈴木氏は、シスコという企業をどう評価してきたのだろうか。「先駆者として、業界の動向を正しく確実につかみながら、自社のビジョンを示し、イノベーションを先導してきたのがシスコ。特にインターネットが発展する上でシスコが残した功績は多大なものがある。グローバルで発揮してきたこのパワーを生かして、日本のニーズに適した製品開発やソリューション提供を行っていきたい」とグローバルとローカルの連携を図っていくことを強調する。

 グローバルからは“特殊な市場”と評価されがちな日本市場をドライブしていくことについては、「確かに日本のお客さまは、非常に高品質なサービスを求める傾向がある。だがシスコはこうした要望に対し、真摯(しんし)に丁寧に対応してきたと個人的にも評価している。今後はより、お客さまやパートナーの要望に寄り添い、最前線にいる社員の声にも耳を傾けながら、製品とサービスの向上に努めたい」と、日本市場ならではの特殊性にもこれまでの路線を踏襲しつつ、顧客/パートナーと長期的なパートナーシップを拡大することに意欲を見せる。

 シスコが現在、最も力を入れているIoE戦略の日本市場の展開については「IoEに関して日本は米国やその他の地域にはないアドバンテージがある。(IoEの)基盤となるインフラはすでにでき上がっており、その上でのマーケットもアクティブに動いている。今後、日本の開発においてもクラウドやオープンスタンダードの流れをくんで、標準化の動きが進むと思われるが、(以前からの)自前で開発する手法とのすみ分けをうまく行っていくことは十分に可能だ。IoEの世界でも同様のことが当てはまると思う」と語っており、スタンダードとローカライズをないまぜた、日本ならではのIoEの可能性を提示している。

 また、シスコがここ数年力を入れているワークスタイルの改善についても「働き方の効率をアップし、風通しの良い組織から発想豊かな提案が日本法人からも出るようにしたい。そしてシスコの技術を使って、どこからでも働けるということを証明していきたい。シスコに入って驚いたのは“ダイバーシティインクルージョン”という部署があり、より賢く仕事を成し遂げる方法が常に回っていること。優秀な社員を支える仕組みがあるということに本当に感動した。女性のリーダーとしてもそういう仕組みを積極的に評価していきたい」と日本法人でも多様な働き方を推進していくことを表明している。

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 IoT(Internet of Things)というITキーワードが定着しつつある中、シスコはかたくなにIoEという表現にこだわってきた。ネットワーク市場でずっとトップを走り続けるシスコだからこそ「モノだけでなく、ヒトも、データも、プロセスも、すべて(Everything)をつなげる」という強い意志がそこに見える。IT業界で、または航空業界で、時にはベンダーとして、またはユーザーとして、世界の現場で多彩な経験を積んできた鈴木氏がシスコの日本法人社長として、今度は何をどんなふうにつないでいくのか。その手腕に注目があつまりそうだ。

五味 明子