ニュース
顧客接点をアナログからデジタルへ~SAPジャパン、クラウドベースの顧客対応支援アプリを提供
(2013/7/3 09:49)
SAPジャパンは7月2日、企業の顧客対応を支援するクラウド型アプリケーション「SAP Cloud for Customer」の提供開始を発表した。全社導入のイメージが強い一般的な顧客管理システム(CRM)と比べ、マーケティング部門や営業部門といった部門単位での顧客対応業務をサポートする「クラウドファースト時代に適したアジリティを備えた、“デジタルなおもてなし”を迅速に実現するアプリケーション」(SAPジャパン バイスプレジデント クラウドファースト事業本部長 馬場渉氏)で、オンプレミスの「SAP ERP」「SAP CRM」との連携も可能。従来のアナログな顧客対応をデジタルエンゲージメントへと変えるクラウドソリューションとして、「まったく新しい企業と顧客の関係を構築する」(馬場氏)ための支援を行う。
SAP Cloud for Customerは、顧客マスター/製品マスター管理や販売/サービス分析に加え、ソーシャルコラボレーション機能である「フィード」を基本機能とし、対応する業務部門ごとに異なる機能が提供される。
・SAP Cloud for Sales … マーケティング/営業部門向け機能。定義したターゲットグループに対してのメール/FAX/電話/レターなどによるキャンペーンの管理。代理店との連携やリード/案件管理などの機能も
・SAP Cloud for Social Engagement … ソーシャルを通じた顧客対応管理機能。ユーザとの対話に基づくサービスチケットの自動生成、優先度によるチケット管理、ソーシャルメディア分析など
・SAP Cloud for Service … サービス部門向け機能。サービスチケットからの見積もりや販売注文作成、顧客からの問い合わせ管理、キーワードから解決策を提供するナレッジ管理、問い合わせ開始から解決までの時間を管理するSLA管理など
中でも最も特徴的な機能がソーシャルを通じた顧客対応を管理するSAP Cloud for Social Engagementだ。世界1億5000万サイト、国内57万サイトに対応してソーシャルメディアの動向をほぼリアル(ニアリアル)に調査し、ポジティブ/ネガティブな反応を測定、ソーシャルでの炎上などをすばやく防ぐことに効果を発揮するという。SAPジャパン ソリューション本部 アプリケーションエンジニアリング部 マネージャー 阿部匠氏は「SAP Cloud for CustomerはHANA Cloudを基盤としており、実行系と情報系の両方の処理をインメモリデータベース上で行う。そのためアナリティクスやレポート提供、分析結果に基づくアクションをより迅速に行うことが可能」としており、ソーシャルを通した顧客との新たな関係構築に力を入れていることを強調する。
またそのほかの特徴として、顧客対応チーム内のソーシャルコラボレーション機能(上司のフィードを組み込むなど)や、スマートフォンやタブレットなどモバイル対応、Outlookとのインテグレーション、画面レイアウトの柔軟な変更、オンプレミス/クラウドのSAP製品とのシームレスな連携などが挙げられている。
クラウドファーストはBtoBtoC戦略の一環
「SAP Cloud for Customerにとっての最大の仮想敵は競合他社のCRM製品ではなく、これまでデジタルの介在を許さなかった業務の慣習。たとえば市場調査、広告、販促といった分野は、ずっとテクノロジを使わず、人手によるビジネスサービスを良しとしてきた。こうした分野に当てられていたコストを、デジタルエンゲージメントを推進することで大幅に減らすことが可能になる。またこうした分野こそテクノロジの活用を進めることで、業務の価値を大きく向上させることが可能。いま求められているのは、デジタルによるまったく新しい顧客とのやりとりであり、エンゲージメント」と馬場氏は強調する。
SAPが顧客との新たな関係構築の手段として提唱するデジタルエンゲージメントとは“Last Moment of Truth(LMOT: 真実の最後の瞬間)”という考え方を元にしている。「ソーシャルやスマートフォンが普及した結果、ぎりぎりの瞬間まで顧客はスマホを手にどれを選ぶか悩み続ける。だからこそ自社の商品を最後に選んでもらうために、その瞬間まで顧客に対してエンゲージし続けることが重要」と馬場氏。そうした顧客へのアプローチは人間技、すなわちアナログでは不可能で、「ビッグデータ、クラウド、ソーシャル、モバイルという4つのテクノロジを組み合わせた適切なソリューションが必要」(馬場氏)であり、そのアプローチを支援するのがSAP Cloud for Customerだとしている。
5月に米オーランドで行われた「SAPPHIRE NOW 2013」でSAPのビル・マクダーモット共同CEOは「SAPはBtoBtoC企業になる」と明言している。これはSAPの顧客企業が抱える一般消費者(コンシューマ)までを見据えた製品を提供していくという宣言であり、これにともない同社のクラウドビジネスもその戦略を大きく変更、グローバルレベルで組織改編も行われている。
この4月から日本法人に設立されたクラウドファースト事業部を統括する馬場氏は「クラウドファーストの“ファースト”には2つの意味がある。ひとつはシステム導入ならまずクラウドで始めるという意味。クラウドでうまく行ったらオンプレミスに展開するという“クラウドファースト、オンプレミスセカンド”な事例もいまや増えつつある。もうひとつは速さとしてのファースト。導入までの期間は短く、実行スピードも速く、そして効果が出るのも速い。クラウドのアジリティを活かすことが重要になる」と語り、BtoBtoC企業を目指すSAPだからこそ、クラウドファーストのメリットを活かしたアジャイルな顧客対応支援が可能だとしている。「SAP Cloud for CustomerはCRMというほど大げさではなく、業務部門が単体ですぐに導入可能なまさにクラウドファーストな顧客対応支援アプリケーション。小回りがきくので効果を実感できるのも速いはず」(馬場氏)。
「いま改めてクラウドというものの幅の広さを再認識している。今回のクラウド事業再編によって我々が目指すのは、これまでSAPが得意としてきたITレガシーを数多く抱えた企業を効率化させることではなく、デジタルの介在をビジネスに持ち込むことが許されなかった分野にテクノロジで変革を起こすこと。とくにCMOやCDO(Chief Digital Officer)、もしくはそういう業務を担当する人々に広く訴求していきたい。クラウドができることはまだ数多く残っている」と馬場氏。その第一弾としてユーザ企業の抱える顧客との接点をデジタライズするクラウドアプリを提供するSAP。ユーザー企業と同様、SAP自身もまたコンシューマに焦点を合わせて大きく変わろうとしている。