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NTTがNTTデータグループを完全子会社に、2兆3000億円を投資し公開買い付けを実施

握手するNTTの島田明社長と(左)と、NTTデータグループの佐々木裕社長(右)

 日本電信電話株式会社(以下、NTT)は8日、株式会社NTTデータグループを完全子会社化すると発表した。NTTデータグループ株式の公開買い付けを実施するもので、買い付け総額は約2兆3712億円を予定している。

 2025年5月8日午後3時35分から行われた記者会見で、NTTの島田明社長は、「NTTデータグループを取り巻く資本構成が複雑化し、その結果、株主の意見を聞いたり、議論をしたりといったことが必要となり、投資にも時間がかかっていた。いまはアジャイルに進む時代であり、それに対応するには、この体制ではスピードが遅いという課題があった。今後の成長を考えると、グローバルビジネスが中心になる。グローバルに打って出ていくときには、迅速に投資判断を行い、迅速にサービス展開することが求められる。それにふさわしい体制にすることが、完全子会社化の目的である」と語った。

NTT 代表取締役社長の島田明氏

 また、NTTデータグループの佐々木裕社長は、「グローバル競争をしっかりと考えていく必要がある。その際には、大胆な投資も必要になる。大きな財務基盤のなかで、臨機応変な投資が可能になる」とし、「NTTデータグループは、グローバルでのさらなる事業発展を実現するため、NTTの提案に賛同することを決議した。NTTグループと連携した機動的な投資と、NTTグループ全体の技術、人材、知見、アセットを活用し、お客さまへの提供価値を高めていく。NTTデータグループとして培ってきた現場力や独自性を武器に、グローバルソリューション事業においてさらなるリーダーシップを発揮し、NTTグループの重要な中核会社として企業価値向上に貢献する」と、完全子会社後の方向性を示した。

NTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木裕氏

 NTTグループが2023年5月に公表した中期経営戦略では、3つの「取り組みの柱」のひとつとして、「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」を掲げ、システムインテグレーション事業を含む社会および産業のDX、データ利活用の強化、データセンターの拡張および高度化に取り組む考えを示している。

 NTTの島田社長は、「NTTデータグループが取り組む事業を、NTTグループの成長の原動力に位置づけてきた」と語る。

 NTTは、今年が民営化から40年目という節目になるが、約40年前には電話事業が85%を占めていたの対して、現在は音声通信が15%以下となっている。「今後は、AIやデータセンタービジネスをNTTがグローバルに展開する時代になってきた。事業ポートフォリオは刻々と変化している。グローバルで競争できるポジションを確保する体制づくりが必要であり、遅れればあっという間に取り残される。そうした流れをとらえた上で、今回のNTTデータグループの完全子会社化がある」とした。

 島田社長は、NTTデータグループを取り巻く現在の資本関係については、親子上場に伴う利益相反や、複雑な意思決定プロセスの存在、NTTグループがNTTデータグループに経営資源を投下する際の双方株主への説明責任を果たす難しさという課題があることを指摘。「完全子会社化によって、これらの課題を克服し、NTTグループが目指す方向性をさらに推進できる」とした。

現状のNTTとNTTデータグループの資本関係の課題

 また、意思決定プロセスの一元化により、NTTデータグループが、NTTグループのグローバルソリューション事業における中心的な役割を担う体制を構築できること、急速な環境変化に対応した機動的な成長投資によって、NTTデータグループの成長を通じたNTTグループ全体の成長をさらに加速できることを完全子会社化の目的に挙げた。

NTTデータグループ完全子会社化の目的

 今回の完全子会社化により、「グローバルソリューション事業のポートフォリオ強化」、「両者グループリソース/ケイパビリティの連携強化」、「意思決定の迅速化とコスト競争力・お客さま体験/従業員体験向上」の3つの取り組みを推進することになるという。

 ひとつめの「グローバルソリューション事業のポートフォリオ強化」では、具体的な取り組みとして、世界最大規模であり、最新技術が生まれ続ける北米市場の強化のほか、急激な市場拡大が見込まれるAI技術を活用したサービスの強化、高成長とグローバル展開が期待されるデジタルエンジニアリングの強化、AI需要に対応したデータセンターの拡大および高度化を進めるという。

 「これらの領域には、これまでにも成長投資をしてきたが、NTTデータグループを完全子会社化することで、NTTグループのキャッシュフローと資金調達力を活用し、柔軟、迅速、大胆に成長投資を実行することができる」(NTTの島田社長)と述べた。

グローバル・ソリューション事業のポートフォリオ強化

 2つめの「両者グループリソース/ケイパビリティの連携強化」については、法人営業分野において、両者グループの顧客基盤とオファリングを組み合わせ、大規模法人向け統合ソリューションの営業を強化および拡大に取り組むとともに、NTTデータグループが開発する各種ソフトウェアアセットを活用して、自治体や中堅中小企業向けの営業体制を強化する。さらに、研究開発分野では、IOWNなどを活用したデータセンターの高度化や、NTT版LLMであるtsuzumiを活用したAIの社会実装などを推進する。

両者グループリソース/ケイパビリティの連携強化

 3つめの「意思決定の迅速化とコスト競争力・お客さま体験/従業員体験向上」においては、ガバナンスの簡素化と、重複機能の整理により、意思決定の迅速化を図るほか、リソースやアセットの最適化を実現。AIを最大限活用して、ソフトウェア開発や法人営業分野における社内共通業務のグループ横断DXを推進するという。

 島田社長は、「グループ横断のDXやAIの活用によって、ガバナンスと営業フローを最適化する。また、継続的なサービス改善などを通じたお客さま体験(CX)の高度化と、業務の効率化によるコスト効率の追求と従業員体験(EX)の向上を実現できる」などとした。

意思決定の迅速化とコスト競争力・お客さま体験/従業員体験向上

 また、シナジー創出に向けた取り組みとしては、「まずは、NTTデータグループとNTTグループ各社で、連携強化や重複業務の最適化を検討する。現時点で決定していることではないが、大規模法人向け営業の最適化ではNTTコミュニケーションズ、AI技術領域ではNTTテクノクロス、ITサービスを活用したBPO事業の高度化においてはNTTマーケティングアクトProCXおよびNTTネクシア、研究開発分野ではNTT研究所との連携強化を図る。早期のシナジー創出に向けて、関係各社による検討体制を立ち上げ、具体的な取り組み内容や目指すべき体制、スケジュールなどを検討していくことになる」とした。

シナジー創出に向けた取り組み

 一方、NTTデータグループの佐々木裕社長は、「海外事業を統合して以降、データセンター需要が高まり、投資をかなり加速してきた。その結果、ROICや財務健全性について指摘される部分もあった。さらなるM&A投資が難しい状況にあったともいえる。完全子会社化によって、より大きな船に乗ることができ、一定規模の投資も、タイムリーに行えるようになる」としながら、「機動的な成長投資によるグローバルソリューションのポートフォリオ強化」、「NTTグループのリソースおよびケイパビリティの連携強化」、「意思決定の迅速化およびコスト競争力の向上」の3点を実現できると述べた。

NTTグループとの連携を強化し、NTTデータグループの事業成長を拡大・加速

 ひとつめの「機動的な成長投資によるグローバルソリューションのポートフォリオ強化」では、NTTグループの財務基盤を活用することで機動的投資を行い、注力分野の強化を図る。「独自の事業ポートフォリオを強化するため、AI、北米市場、データセンター、デジタルエンジニアリングの4つの成長領域に積極的に投資を行う」とした。

機動的な成長投資によるグローバルソリューションのポートフォリオ強化

 2つめの「NTTグループのリソースおよびケイパビリティの連携強化」では、NTTデータグループが持つ産業界や顧客に関する知見と、NTTグループが持つ研究開発機能を組み合わせることで、国内事業および海外事業における新たなサービス開発を進めるという。さらに、国内事業では法人向け事業の競争優位性を強化し、事業機会の拡充を図るという。

 「大規模法人市場は、NTTデータグループとNTTグループの各組織との連携強化により、さらなる競争優位性を高める。中堅法人市場では、NTTグループの国内地域に対するスケールメリットや、チャネルやブランド力を生かすことで事業機会を拡充する」と語った。

NTTグループのリソースおよびケイパビリティの連携強化

 3つめの「意思決定の迅速化およびコスト競争力の向上」については、グローバルビジネスにおける複雑なガバナンス構造を簡素化し、企業価値向上のスピードを加速させるという。具体的には、NTT DATA, Inc.における資本構成ならびに意思決定体制の整備、大規模なM&Aやデータセンター建設にかかる意思決定の迅速化を進めるほか、NTTグループ全体のバックオフィス機能などを活用し、コスト効率化や生産性向上を目指す。

意思決定の迅速化およびコスト競争力の向上

 また、佐々木社長は、「NTTデータグループは、創立以来、36期連続で増収を続け、NTTグループの法人向け事業を担う中核企業へと成長している。国内事業では、日本のITサービス市場でシェア1位を獲得し、強固な顧客関係と、業界に応じた深い知識を生かし、高い競争優位性を確立している。2022年10月にはNTTグループとNTTデータグループの海外事業を統合し、現在では世界50カ国以上に拠点を拡大し、世界第3位のデータセンター事業を有するユニークなサービスプロバイダーとして、顧客に価値を提案している」と、同社の強みを示す。

NTTデータグループの現状

 その上で、「DX需要が引き続き旺盛であることに加えて、生成AIやAIエージェントへのニーズが高まり、これらを支えるデータセンター需要も急速に拡大している。その一方で、量子コンピュータや光通信技術などの新たな技術開発に向けた競争が激化し、今後は成長領域への資金流入やM&Aが活発化すると予見されている。NTTデータグループは、Quality Growthを目指しており、顧客への提供価値を最大化し、持続的な成長と質の伴った成長を両立させることになる。Digital & Experiences、Next-Gen Infra、Agentic AIの3つの領域を強化し、社会とお客さまへの提供価値を最大化する」と述べた。

市場環境

 今回の完全子会社化は、NTTが2024年9月から検討を開始し、11月にNTTの島田社長が、NTTデータグループの佐々木社長に打診し、12月中旬以降に正式な検討プロセスをスタートさせた。そこから約半年間を経て、今回の完全子会社化の決定に至ったという。
 島田社長は、「NTTデータグループの完全子会社化によって、公正競争に与える影響はないと考えている」とし、「完全子会社によって、デメリットは考えつかない。メリットしかない」と発言。佐々木社長は、「NTTデータグループが上場会社でなくなることで、社員の士気が落ちるといった指摘もあったが、いままで以上に研究開発成果を活用したり、アセットを利用できたりという点で、より面白いビジネスができる。デメリットが生じないような事業運営をしていく」と語った。

 なお、NTTでは、2025年6月19日までの期間、NTTデータグループ株式の公開買い付けを実施。買い付け予定数は5億9281万968株。買い付け価格は1株あたり4000円。公開買い付けによりNTTデータグループ全株式を取得できなかった場合、株式売渡請求や株式併合などにより、NTTデータグループを完全子会社とするための手続きを実施する予定だという。

NTTデータグループ完全子会社化の概要