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CTCの2024年度連結業績は増収増益、売上収益・受注高・受注残高とすべての利益項目で過去最高に

2025年度はNRIを上回り“専業SIerではトップ”を目指す計画

 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)が発表した2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績は、売上収益が前年比12.5%増の7282億円、売上総利益が同15.5%増の1877億円、営業利益が同17.8%増の676億円、当期純利益は同21.9%増の503億円と、大幅な増収増益になった。

 また、受注高は前年比10.1%増の7638億円、受注残高は同8.0%増の4790億円となり、売上収益、受注高、受注残高、すべての利益項目において、過去最高を更新した。売上総利益率、営業利益率は2年連続で伸長したという。

2024年度通期業績

 CTCの新宮達史社長は、「非常に好調な決算となった。幅広い業種のお客さま向けにビジネスを行っていることが当社の特徴であり、すべての業種をカバーし、DX需要の拡大を全方位で獲得できたことが、今回の業績につながっている。牽引役となったのは情報通信向けネットワークや、各業種向けクラウド、セキュリティであり、売上収益の伸びは、国内IT市場全体の成長率を上回っている。また、大規模な生成AI基盤の構築支援や、運輸向け大規模システム開発などで強みを生かすことができ、付加価値の高いビジネスに取り組むことで利益率が向上した。エンジニア単価も向上している」と総括した。

CTC 代表取締役社長の新宮達史氏

ビジネスモデル別と事業グループ別の売上収益

 ビジネスモデル別売上収益は、運用や保守、クラウド関連の「サービス」の売上収益が、前年から177億円増の2628億円となった。製造業の企業にグループ共通で利用するプライベートクラウド基盤を提供。政府や地方自治体のDXを支えるシステムのクラウド化の案件支援も貢献した。

 インフラ構築やアプリケーション開発などの「開発」の売上収益は、前年から175億円増の1612億円。鉄道向けに効率的な運営体制を実現する車両運用システムの開発を伴走型で支援したほか、顧客対応の効率化や顧客体験向上が求められる運輸業界向けにウェブサービスの開発支援を行った。

 製品、ソフトウェア販売の「製品販売」は、同455億円の3042億円となり、情報通信向けに、新規ビジネスの創出やビジネスモデル変革に資する生成AI基盤の構築を支援。幅広い顧客へのセキュリティ対策ソフトウェアの提供、製造業や情報通信向けに通信環境の整備や高度化のためのネットワークを提供したという。

 「DXを促進するための生成AI基盤の構築支援や、セキュリティ強化、ネットワークの高度化などの案件、クラウドサービスやシステム開発によって、サービス、開発、製品販売のいずれも伸長した。これらの案件では、CTCグループが持つシステム実装力、保守運用に関わるサービス提供力に、製品調達力を掛け合わせた強みが発揮できた」としている。

ビジネスモデル別売上収益

 また、JR東海の超電導リニアに関連するDX推進として、車両運用システムのアジャイル開発を推進。「リニアに関わる効率的な保守運営体制の実現を目指し、2025年夏からシステムの一部機能を運用開始する」と説明した。

JR東海の未来のビジネスに貢献

 事業グループ別では、エンタープライズの売上収益が前年から207億円増の1479億円、リテール&サービスの売上収益が同28億円増の768億円、情報通信の売上収益が同246億円増の2287億円、広域・社会インフラでは、売上収益が同99億円増の999億円、金融の売上収益は同67億円増の693億円、その他の売上収益は同106億円増の1056億円となった。

 海外では、米国、シンガポールにおけるデーセンター向けサーバー案件や、現地銀行や病院、ヘルスケア企業向けのIT基盤整備が進んだという。

事業グループ別売上収益

2025年度連結業績は増収増益を見込む

 2025年度(2025年4月~2026年3月)連結業績見通しは、売上収益が前年比13.3%増の8250億円、売上総利益が同14.0%増の2140億円、営業利益が同14.7%増の775億円、当期純利益は同9.3%増の550億円とした。また、受注高は前年比13.9%増の8700億円、受注残高は同9.4%増の5240億円を見込む。

 新宮社長は、「さらなる業績拡大と利益率向上を狙う。売上収益で8000億円超を達成することで、トップSIerとしての地位確立を目指す」と力強く宣言した。

 なお、野村総合研究所(NRI)は2025年度の業績見通しとして売上収益で8100億円を掲げているが、CTCの計画はこれを上回り、順位が逆転する計画となる。「(NTTデータなどを除く)専業SIerではトップになる。数字はオーガニックグロースによるものだが、チャンスがあればM&Aも考えたい」と、成長戦略に意欲をみせた。

 また、「顧客のDX需要は引き続き堅調であり、実装力、サービス提供力、製品調達力に加えて、各種施策を実行することで、顧客の需要を取り込み、ビジネスの拡大を図る」とも述べた。

2025年度の計画

 営業利益率については、2024年度の9.3%から、2025年度は9.4%と0.1ポイント増加するものの、主要SIerが10%を超えているのに比べると見劣りしている。

 新宮社長は、「ビジネスモデルの違いがある。カスタマイズした製品、サービスを幅広い業種に提供しており、1社ごとにエンジニアのコストをかけている。他社は、独自のソリューションを持ち、それを特定の業界に特化し、業界内で横展開している。CTCでも特定業種向けの独自サービスを強化するとともに、生成AIの活用などによる開発コストの削減を進めていく。2025年度は開発分野における生成AIの自社利用も進めていく」と語った。また、「開発プロジェクトのモニタリングを行う専門組織を作り、不採算案件による損失が低下傾向にある」という点も強調した。

 なお同社では、クラウドネイティブ、セキュリティ、データ&アナリティクス、高度AIを注力4領域と位置づけている。

 「2025年度はDXが加速し、クラウドの普及やAI活用がさらに進むことが予想される。また、セキュリティ強化やシステム老朽化への対応といった企業が抱える課題にも柔軟に対応し、DXの実現をサポートする」と述べた。

 注力4領域における技術力強化、人材確保、パートナー連携も強化する。

 特に、高度AIに関しては、「これまでに大規模な生成AI基盤の構築で複数の実績がある。これをベースに、AIエージェント構築サービスなど、AI関連ビジネスのポートフォリオを拡充する。基盤構築だけでなく、生成AIサービスやアプリケーションの提供を支援できるSIerを目指す」との方針を示した。

 AIエージェントについては、複数のAIエージェントが互いに交渉し協調し合いながら複雑な業務を実行するマルチAIエージェントに対応した構築支援サービスを開始することを発表。すでにいくつかのPoCがスタートしているという。

 また、生成AIでは、ベルシステム24と協業し、地方自治体向け窓口対応のための生成AI応答サービスを提供しているほか、既存のLED蛍光灯を4K魚眼カメラや各種センサーを搭載した「IoTube(アイオーチューブ)」に差し替えて、収集したデータをもとに、AIによる異常検知や安全の見守りに利用するソリューションを鉄道事業者に納入している例を紹介した。

 同社では、2026年度末までに、生成AIを含む高度AIビジネスとして、500億円の売り上げを目指す計画だ。

人口減少、高齢化に伴う地方自治体の課題を、生成AIを用いて解決

 一方、CTCグループのケイパビリティ向上に向けて、コンサルティング機能を持つ伊藤忠商事のデジタル事業群との連携により、上流工程からビジネスに入り込み、課題整理からシステム実装までのサービスを一気通貫で提供する体制を確立。「CxOレベルのお客さまとの関係構築や、新規顧客開拓などにおいて、徐々に成果が出つつある。2025年度はさらに注力する」とも述べた。

 さらに、AIを活用した開発を積極化させることで、品質管理を含めた生産性向上、開発ナレッジの継承を進めるほか、自社の強みを生かした独自の新サービスの提供を推進する考えも示した。

 「新サービスとして、金融業界における厳格なセキュリティ要件を満たしたCTCオリジナルのクラウドサービスである『C-NOAH』(シーノア)を提供している。金融機関向け業務アプリケーションと、システム基盤をSaaS型で提供し、システムを自社所有することなく利用できる。2025年1月からサービスを開始しており、すでに提供実績もある。そのほか、電力業界向けのIoTクラウドサービス『E-PLSM』(エプリズム)も提供している。独自サービスは、これまでできていない分野でもあった。独自サービスを知的資本ととらえ、投資を進め、サービスの付加価値向上を図る」と語った。

 加えて、人材戦略についても言及。「CTCの開発エンジニアは連結ベースで約7000人規模であり、そこに約7000人の外部パートナーが加わって、それぞれの開発プロジェクトを進めている。パートナーとの連携が人材確保の面でも重要になる。また、伊藤忠商事のデジタルバリューチェーンを活用したオフショア開発も進めている。間を得て、国内パートナーとの資本業務提携なども進め、人材確保を進めていく」と語った。

 また、新宮社長は、「米国による相互関税問題により、景況感は不透明であり、輸出を中心とする企業ではIT投資を控える可能性は否定できない。だが、現時点では具体的な影響はない。また、CTCのビジネスでは輸出がないため、直接的な影響はないものの、北米の大手ITベンダーの製品を輸入し、国内販売をしている。これらのベンダーの製造原価への影響は注視していく。顧客層の業種が幅広い強みを生かして、IT投資が旺盛な領域に経営資源をシフトし、年間計画を達成したい」と述べた。

 なおCTCは2023年12月、伊藤忠商事による株式公開買い付けにより上場を廃止しており、伊藤忠商事の完全子会社となっている。

(左から)CTC 取締役兼副社長執行役員 CROの湊原孝徳氏、代表取締役社長の新宮達史氏、取締役兼専務執行役員 CFOの関 鎮氏