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AWSジャパン、生成AIの実用化をサポートする国内独自プログラムの成果を公表
2025年度の新プログラムも発表
2025年4月17日 06:15
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(AWSジャパン)は、企業や組織における生成AIの開発や活用を支援する日本独自のサポートプログラム「AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム」について、2024年度の成果と2025年のプログラムを、4月16日に発表した。2025年のプログラムは、同日から募集を開始している(通年で常時募集)。
2024年度のプログラムでは、発表当初は50社以上を目指すとしていたが、結果としては150社以上が参加したと、AWSジャパンの小林正人氏(サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長)は、同日に開催された記者発表会で報告した。2025年については150社以上を目指したいと同氏はコメントしている。
2024年度には、LLMモデルを作る「モデル開発者」と、既存LLMモデルを使う「モデル利用者」の2コースで募集していた。2025年度では「モデルカスタマイズコース」(2024年度の「モデル開発者」に相当)、「モデル活用コース」に加え、「戦略プランニングコース」を新たに設ける。戦略プランニングコースでは、開発や利用より前の、自社のどこにAIを適用すると価値を創出するかの面について、Amazon Web Services(AWS)のパートナーをまじえて支援する。
また、いずれのコースでも、想定コストの半額を上限としてAWSサービスクレジットを提供する。
記者発表会では、2024年度のプログラムに参加した中から、株式会社野村総合研究所(NRI)、国土交通省、株式会社NTTデータ、フリー株式会社(freee)、株式会社エイチ・アイ・エス(HIS)の5つのプロジェクトについても報告がなされた。
2024年度は150社以上が参加
記者発表会では、まずAWSジャパンの白幡晶彦氏(代表執行役員社長)がこれまでのLLM支援プログラムについて紹介した。
2023年には「AWS LLM開発支援プログラム」として、LLMモデル開発について17社を支援した。そして2024年に、LLMモデル開発と利用の両面で支援する「AWSジャパン生成 AI実用化推進プログラム」を開始した。
同時にグローバルでも2024年に「AWS Generative AI Accelerator」を開催し、日本から3社を採択している。同じく2024年には、経産省と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「GENIAC 第2期」にAWSが計算資源と開発支援を提供した。
また、AWSジャパンの小林正人氏が2024年度のプログラムについて報告した。
2024年度は、生成AIモデルの開発やカスタマイズに取り組む「モデル開発者」と、生成AIでプロダクトのイノベーションに挑戦する「モデル利用者」の2コースで募集した。最終的に前述のとおり150社以上が参加し、うちモデル開発者が30社以上、モデル利用者が120社だったという。
直接的な支援のほか学びの機会や横のつながりのためのコミュニティも推進。モデル開発者向けにはGENIACコミュニティの勉強会や、Amazon Bedrock Marketplaceについてのセッションを開催。モデル利用者向けにはコミュニティ型イベント「生成 AI Frontier Meet Up ~学びと繋がりの場~」を開催した。
2025年度は「モデルカスタマイズコース」「モデル活用コース」「戦略プランニングコース」の3コース
続いて、2025年度のプログラムについて小林氏が発表した。
これまでAWSでは、2023年度にはモデル開発者の支援プログラムを実施し、2024年度にはモデル開発と利用の2つの支援プログラムを実施した。そして、2025年には、さらに発展させ、新たな取り組みとしてビジネス価値創出を支援するという。
小林氏は、2024年度の事例の共通点として、「これをやりたいという思いが確立されている。こういう課題を解決できればいいというイメージを持っている」ことを挙げた。
その一方で、さまざまな顧客と話をしていると、翻訳や文章校正などの基本的な用途では生成AIを使っているが、自社のコアビジネスにどうAIを活用していくかに悩んでいることが多いと語った。
生成AIによる課題解決のステップを、小林氏は「プランニングフェーズ」「開発フェーズ」「展開拡大フェーズ」の3段階に分類。2024年度に支援した「モデル開発者」「モデル利用者」は、いずれも開発フェーズのものだと語った。
そこで、2025年度は、その前のプランニングフェーズを支援する「戦略プランニングコース」を新設する。
これには、顧客の業種や業態のビジネスに関する深い知識や経験が不可欠なので、AWSパートナーとの連携を重視しているという。「顧客、AWSパートナー、AWSの三者が協力することで、より価値のあるビジネスにAIを適用することにチャレンジする」と小林氏は説明した。
発表時点で名前の発表できるパートナーは、アクセンチュア株式会社、株式会社野村総合研究所(NRI)、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社の3社。小林氏によると、さらに「パートナー各社と話を進めているので、順次増えていく」という。
そのほか、戦略プランニングコースに参加しても、モデル活用コースやモデルカスタマイズの併用も可能で、「プランニングフェーズから開発フェーズに進んだときの負担軽減ができることを考えると、併用しない選択肢はあまりないと考えている」と小林氏は語った。
なお、「モデルカスタマイズコース」「モデル活用コース」についても、要望があればAWSパートナーによる支援を2024年から提供していると小林氏は説明した。
コミュニティについても力を入れる、と小林氏。チャレンジしたい人が学べる場として、コミュニティ型イベント「生成 AI Frontier Meet Up ~学びと繋がりの場~」を、2025年度もおおむね3か月ごとに開催すると語った。
2024年度のプロジェクトから5社が報告
記者発表会では、NRI、国土交通省、株式会社NTTデータ、フリー株式会社(freee)、株式会社エイチ・アイ・エス(HIS)の5つのプロジェクトについて、当事者が報告した。
NRI:「保険営業会話のコンプラチェック」に特化したLLMを開発
NRIからは、「業界・タスク特化型LLMの開発」について、大河内悠磨氏(生産革新センター AIソリューション推進部)が紹介した。
LLMとして、高性能な汎用モデルと同時に、特定の業務プロセスにたけた特化型モデルのアプローチも進むとNRIでは考えているという。そこで、「特定の業界に詳しく、専門的な業務をこなせる低コストなモデルの構築」を目標に、開発に取り組んだ。
ユースケースは、営業会話から営業員のNG発言を検出する「保険営業会話のコンプラチェック」だ。方法としては、専門知識コーパスにより業界知識適応モデルを作成し、さらに指示データにより指示チューニングをして、業界・タスク特化型LLMを構築する。
評価結果としては、8Mパラメータの独自の特化型LLMと大手汎用LLMを344件のテストデータで比較し、正解率で独自モデルが上回ったと大河内氏は報告した。
今後については、今回の保険営業会話のコンプラチェックから、さまざまな業界や用途に応用していくと大河内氏は語った。
国土交通省:大量の申請書のスキャンからLLMでデータを抽出して分析
国土交通省からは、「データ構築基盤LINKS Vedaの開発」について、内山裕弥氏(総合政策局 モビリティサービス推進課 総括課長補佐 Project LINKS テクニカル・ディレクター)が紹介した。
Project LINKSは、国交省の分野横断的なDXプロジェクトだ。紙で集まっているさまざまな行政情報をデータ化して、これをコンピュータで解釈可能なデータにすることで、EBPM(データに基づく政策立案の推進)やオープンイノベーション創出を目指すという。
課題としては、さまざまな許認可の申請書がある。紙で提出されたものをPDFスキャンして保存していること、それが支局によって様式がバラバラなこと、さらに思い思いに書く自由なフォーマットになっていることなどから、単純なOCRではデータ化できないという。
しかも、手続きの数が一説には4000件以上にのぼると言われており、手続きのオンライン化も短期間では無理だと内山氏。そこで、「米から作ったもちを米にする」(内山氏)ということで、ドキュメントを印刷した紙をスキャンした内容をデータ化するのが、「LINKS Veda」だ。
内山氏は、紙をスキャンしたデータに対して、人間がカラム(項目)を設定するとLLMが判別して、表形式のデータにするところをデモ動画で見せた。
これによって、全国の情報を横ぐしで集めて、分析や比較ができる。具体例としては、トラックから鉄道や船などの大量輸送にモーダルシフトするためのデータ分析をデモ動画で見せた。
NTTデータ:クリエイティブ作成業務支援のエージェントを、AWSのイベントでつながった企業とテスト
株式会社NTTデータからは、「Multi Agentによるクリエイティブ作成業務支援」について、藤田森也氏(テクノロジーコンサルティング事業部)が紹介した。
NTTデータでは、オフィスワーカーの業務をサポートする「SmartAgent」を提唱している。これは、ユーザーの直接の窓口となる「パーソナルエージェント」、専門知識でタスクを実行する「特化エージェント」、定型タスクを実行する「デジタルワーカー」、これら複数のエージェントを束ねる「マルチエージェント」からなる。
今回のユースケースは、クリエイティブ作成業務だ。問題としては、クリエイターが自分の作業を言語化できず属人化する問題や、クリエイティブ作成にかかる時間的・金銭的コストがあるという。
ここにSmartAgentを用いる。まず、ユーザーの要求に応じて、キャッチコピー生成や画像生成などのエージェントを適宜呼び出す。そして、各機能の出力においては思考過程も提示するため、言語化がなされる。さらに、改善点と追加で必要な情報を自律的に考え、ユーザーに問いかけを行う。
これをAWSのミートアップイベントで発表した結果、実際にデザイン関連の企業とつながり、テスト利用してもらった。その結果、業務活用や現場目線でのフィードバックをもらい、ソリューションの改善や機能追加へのヒントが得られた、と藤田氏は報告した。
今後については、クリエイティブ利用に加え、MA(マーケティングオートメーション)などに拡充し、さらに顧客の業務の生の課題にカスタマイズして提供していきたいと藤田氏は語った。
freee:PLをLLMが調査・解説する「AIクイック解説」
freeeからは、新機能「AIクイック解説」について、木佐森慶一氏(AI-プロダクトマネージャー at AIラボ)が紹介した。
これは、経理担当者の月締めの際に、月次推移PL(損益計算書)についてLLMにチャット形式で質問すると、LLMが調査・解説する機能だ。現在βテストを実施中。
木佐森氏も前職としてスタートアップ企業を経営しており、突然経営者になってPLを見ることになった経験から、「PLを見るコツやポイントは、経験がないとわからない」とその意義を語った。
その効果は、経理担当者(ジュニア)にとっては、シニアに質問して答えてもらう時間をかけなくても気軽に質問できたほか、経理知識が少なくても安心でき、10時間以上の工数削減になるという。一方、経理担当者(シニア)にとっても、業界によって見るポイントが違うことなどから、4~6時間の分析業務が削減できるとのこと。さらに部門責任者にとっても、あいまいな言葉で指示して必要な情報をすばやく取り出せるメリットがあるとした。
なお実装にあたっては、データ全体はLLMにかけるには大きすぎるため、ユーザーの入力文章を元にAmazon Bedrockのtool useを使って適切な関数と引数を生成して必要なデータのみを取得し、その取得したデータからAmazon BedrockのClaudeモデルで回答を生成していることも木佐森氏は解説した。
HIS:窓口で確認時間のかかる商品販売条件書をAIで要約
HISからは、「AIを活用した商品販売条件書読み取り」について、李章圭氏(DX推進本部 サービスプラットフォーム企画部)が紹介した。
旅行業者である同社の課題は、店舗の窓口で接客業務と並行してしなくてはならない事務作業を軽減し、旅行体験談など客がワクワクする会話に時間を割きたいということだと、李氏は説明した。
特に商品販売条件書は、文章が長く、非定型文で、全文英語となっている。そこでオペレーターが目検で確認するのに約5~10分かかり、人的ミスも発生する。
そこで、生成AIによって作業を軽減する。店舗のオペレーターのリクエストにより、Amazon Bedrockの生成AIで商品販売条件書を要約したうえで、販売ルールの要約をオペレーターの画面に表示する。
これにより、約5~10分かかっていた作業が4~5秒に短縮され、特定の商材について見積時間を20%削減したと、李氏は報告した。
このシステムは2月に20店舗で試験導入を開始し、1か月間安定して動作することを確認して、4月から関東全店舗で利用を開始。さらにそれで安定が確認されれば、5月から全国店舗で導入する予定だという。全国で導入した場合には年間2万7000時間が削減できると予測している、と李氏は語った。
専門家知識のチャットボットや、ビジネスモデルのアイデア生成、ECモールのデータ分析の事例
5社のほか、3社の事例についてもAWSジャパンの小林氏が概要を紹介した。
高分子技術の豊田合成株式会社は、各部門が測定データの解釈と分析について20名の専門家に依頼する必要があったのを、専門家の知識を実装したチャットボットでセルフサービス化。これにより、専門家の負荷を下げ、より専門的なことに取り組んでもらえるようになったという。
株式会社PURPOM MEDIA LABは、新規事業開発サービス「ビジネスモデルジェネレーター」を開発した。新たなビジネスモデルを議論して市場の要求を判断して立ち上げるために、いろいろなビジネスモデルのアイデアを出して検証してトライアルアンドエラーする必要があるときに、ビジネスモデルを生成AIで自動作成することでビジネスのスピードを加速したという。
株式会社Nintは、ECモールのデータ分析サービスに生成AIを使った分析や解釈の機能を実装し、作業効率が最大80%向上したという。「昨今はデータドリブン経営が言われるが、その前提として、データが何を意味しているか、データから何を発見するかが重要。それには慣れが必要だが、AIを使うことにより、すばやくデータに基づいた判断ができる」と小林氏は解説した。