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AWSは、新たな価値創造を目指す“ビルダー”をどう支援できるのか? 白幡社長がサービスを紹介
AWS Summit Japan 2025基調講演レポート
2025年6月26日 11:55
AWS(Amazon Web Service)に関する国内最大のイベント「AWS Summit Japan 2025」が、幕張メッセで6月25日に開幕した。26日まで開催される。
初日の基調講演は、「ビルダーと描く新たな価値創造」と題し、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン) 代表執行役員社長 白幡晶彦氏と、Amazon Web Services Inc. バイスプレジデント、データおよび生成 AI マーケット戦略担当 ラフール・パサック氏が登壇。企業のイノベーションを支えるAWSのサービスについて紹介した。
またゲストとして、Anthropic、株式会社野村総合研究所(NRI)、三菱電機株式会社、株式会社LayerXが登壇し、AWSを使ったAIなどへの自社の取り組みを紹介した。
新たな価値創造を目指す「ビルダー」を支援
白幡氏は、2024年11月にAWSジャパンの社長に就任し、今回が社長として初のAWS Summit Japanとなる。
「日本企業はコンサバティブ(保守的)だと言われるが、多くの顧客と対話する中で、その認識が大きく変わった。新たな価値創造に向けた取り組みはすでに世界最先端レベルにある」と白旗氏は述べた。
そして「AWSは挑戦するお客さまに対し、単なるテクノロジープロバイダーではなく、変革のジャーニーに寄り添うパートナーでありたいと思っている」と語った。
ここで基調講演のタイトルにもある「ビルダー」が、変革のジャーニーには欠かせないと白旗氏は言う。このビルダーとは、「技術者に限らず、新たな価値創造を目指すすべての人々」だと同氏は説明した。
ビルダーを支えるAWSのサービスを紹介
ここから白幡氏は、ビルダーを支えるためにAWSが用意しているものを紹介した。
まずは「既存資産の活用」、つまり既存基幹システムのクラウド移行だ。これについては、Exadataの基幹システムをAWSで稼働させる「Oracle Database@AWS」、VMware環境を動かす「Amazon Elastic VMware Service(EVS)」、生成AIの支援で基幹システムをAWSに移行する「AWS Transform」が紹介された。
続いて「レジリエンス」、つまり障害や災害が起きても全体で動き続けることだ。これについては、2021年に大阪リージョンを開設して高い可用性を実現できることを取り上げた。
そして、クラウド型コンタクトセンターソリューション「Amazon Connect」を大阪リージョンでもサービス開始し、同日6月25日に申し込み受付を開始したとアナウンスした。
そのほか、5月にGAになった、世界37リージョンの117アベイラビリティゾーンで分散するSQLデータベース「Amazon Aurora DSQL」も白幡氏は紹介した。スマートフォン決済、オンラインゲームのバックエンド、Eコマースなどの処理において、それぞれの地域のトランザクションをローカルで処理しながらほかのリージョンと整合性を保つという複雑な処理を、シンプルなマネージドサービスで実現する、と同氏は説明した。
続いて「セキュリティ」。クラウドにセキュリティの不安を感じる顧客に向けて、独自開発のハードウェアとソフトウェアでクラウドを完全に管理する「AWS Nitro」を白幡氏は紹介した。また、包括的なセキュリティとして、アクティブ防御システム「Sonaris」や、防御ツール「AWS Shield」も紹介した。
「生成AI」のサービスとしては最新のトピックとして、生成AIプラットフォーム「Amazon Bedrock」が大阪リージョンでも提供開始したこと、Amazon製の生成AIモデル「Amazon Nova」が東京リージョンを含むアジアパシフィックでクロスリージョン推論をサポートしたこと、生成AIによるソフトウェア開発アシスタント「Amazon Q Developer」が日本語対応開始したことを白幡氏は紹介した。
また、EC2のGPUインスタンスを最大45%値下げしたことや、東京リージョンでP5やP5enファミリーのインスタンスのオンデマンド利用が可能になったことも紹介された。
旭川高専および富山高専と連携を発表、「AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム」の新メニューも
続いて「人材育成」だ。
基調講演と同じ6月25日に、AWSジャパンが、デジタル・AI人材の育成に向けて、旭川高専および富山高専と連携することが発表された。地域創生に向けて、AIに関する実践的な教育支援を実施し、そこで確立した教育方法やノウハウを全国の高専に展開する。さらに、インターンシップ機会の提供や、地域創生に向けた共同事業についても連携する。
ほかの取り組みとしては、地域創生・社会課題解決AIプログラミングコンテストを全国で展開。小中学生を対象とした「Amazon Think Big Space」の2箇所目も神奈川県相模原市に開設した。
地方創生にこだわる理由として、白幡氏は「イノベーションは一極集中では生まれないから」という理由を挙げた。
ビルダーを支援するサポート体制としては、伴走者として支援する「AWSプロフェッショナルサービス」や、365日の「AWSサポート」を白幡氏は紹介した。
また、日本独自で企業や組織における生成AIの開発や活用を支援する「AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム」も実施している。これは、「戦略プランニングコース」「モデルカスタマイズコース」「モデル活用コース」の3つのコースからなる。
この中で、同6月25日より、「モデルカスタマイズコース」に経産省の「GENIAC-PRIZE」への応募者を支援するメニューと、「モデル活用コースに」Agentic AIの実用化を推進するメニューを追加したことを白幡氏はアナウンスした。
AWSが提供するビルディングブロックを紹介
AWSのパサック氏は、「『ビルディングブロック』がAWSの基本になる考え方」として、顧客のシステムを構成するようAWSが提供しているさまざまなビルディングブロックを紹介した。
コンピュートでAI向けインスタンスも提供
最初のビルディングブロックは「コンピューティング」だ。仮想サーバーやコンテナ、サーバーレスといった多様なオプションをそろえている。
そのうち仮想サーバーのEC2では、850を超えるインスタンスタイプを用意して、さまざまなワークロードに対応する。GPUインスタンスも各種あり、AIモデル開発向けにNVIDIA B200 GPUを搭載したP6インスタンスも近日提供開始する。また、GPUインスタンスを予約できる「EC2 Capacity Blocks」もパサック氏は紹介した。
そのほか、ARM CPU「AWS Graviton 4」や、AIアクセラレーターの「AWS Titanium2」などのAWS独自開発のチップも紹介された。
さまざまなユースケースに向けたデータベースサービス
次のビルディングブロックは「ストレージ」だ。AWSのサービスはオブジェクトデータベース「S3」から始まり、現在はS3に4兆を超えるオブジェクトがある。
このS3をもとに、オープンソースの高速なテーブルフォーマット「Apache Iceberg」に最適化された「Amazon S3 Tables」や、S3のオブジェクトにメタデータを付ける「S3メタデータ」をパサック氏は紹介した。
これらにより、ビジネスのデータを生データではなくキュレーションデータから簡単に活用できるようになる、と同氏は説明した。
次のビルディングブロックは「データベース」だ。AWSではさまざまなユースケースに向けたデータベースサービスを提供している。
その中でパサック氏は、分散データベースで一貫性を保つために世界中で時刻を正確に同期する「Amazon Time Sync Service」を紹介した。
BedrockでAI推論の拡張やカスタマイズ、AIポリシー強制を実現
その次のビルディングブロックは、AIの「推論(inference)」である。パサック氏は、生成AIプラットフォームのAmazon Bedrockを使うことで生成AIを簡単に構築し拡張できることを紹介。さらに、Amazon Bedrockではさまざまなモデルを選べることや、その中のAmazon Novaモデルを取り上げた。
そのほか、モデルのカスタマイズや、非構造化データやマルチモーダルデータなど複数タイプのRAGに対応していることも紹介した。
さらに、AIポリシーの「Amazon Bedrock Guardrails」も紹介された。組織の価値観にそわないものなど、あらかじめ組織が決めたAIポリシーにもとづいて、AIから望ましくないアウトプットがあったらブロックするものだ。
その発展形として、Amazon Bedrock Guardrailsがハルシネーションをチェックする「自動推論チェック」の機能もパサック氏は紹介した。
そのほか推論については、先生モデルから生徒モデルを作ることで精度を維持して小さいモデルを作る「モデル蒸留」や、AIプロンプトを見て最適なモデルに振り分ける「プロンプトルーティング」も紹介された。
各社のゲストも登場
基調講演にはゲストも登場した。
Anthropicが日本オフィスを今秋開設
AI企業のAnthropicからは、上級副社長 グローバル営業統括責任者のケイト・ジェンセン氏が登壇した。
ジェンセン氏はAnthropicのClaudeについて、日本語や日本の文化などを理解して使えるよう大きな投資をしていると説明した。
そして同6月25日より、Bedrockの日本リージョンでClaude Sonnet 4を利用できるようになったとジェンセン氏はアナウンスした。AWSとともに、より多くのモデルを日本リージョンで利用できるようにしたいという。
さらに「One more thing」として、Anthropicの日本オフィスを、今秋に正式に開設することもジェンセン氏は発表した。「日本市場への長期的なコミットメントを明確に示すもの」と同氏は言う。
基調講演後の記者会見によると、日本オフィスではまず日本顧客へのサポートを行うという。「これまで米国からサポートしてきたが、ローカルでのテクニカルサポートは重要」とジェンセン氏は語った。
NRI、特定業務に特化したLLMなどを紹介
株式会社野村総合研究所(NRI) 代表取締役 社長 柳澤花芽氏は、動画で登場した。
「AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム」に参加して特定業務に特化したパーパスビルドLLMを開発していることを紹介。保険業で検証した成果から、製造、流通、公共などに展開していくという。
また、システムのモダナイゼーションの支援、特に現行分析でAWS Transformを活用することや、AWSに対応したセキュリティサービス「NRIデジタルトラストサービス」なども紹介した。
三菱電機、社内のデータをAIで活用するためにエージェントAIプラットフォームを構築
三菱電機株式会社からは、AI戦略プロジェクトグループ プロジェクトグループマネージャー/DXイノベーションセンター 副センター長の田中昭二氏が登壇した。
同社ではデジタル基盤Serendieを通じて、各事業領域で培ってきたデータや知見を掛け合わせて新たな価値を創造することを目指しており、そのために1月にAWSと戦略的協業の覚書を締結した。
具体的な取り組みとしては、社内システムをモダナイゼーションしてさまざまなシステムに分かれた社内データをAI readyにすること、エージェントAIプラットフォームを構築すること、エージェントAIプラットフォームをすべての事業活動に展開すること、の3つを田中氏は挙げた。
モダナイゼーションについては、Amazon Q DeveloperとTransformにより、移行工数を50%削減したと田中氏は報告した。
また複数の専門エージェントを組み合わせて使うマルチエージェントシステムを、Bedrockなどを利用して開発し、すでに社内で活用していると田中氏は紹介した。
そしてそれを今後は事業にも活用していく。田中氏はその例として、スマートファクトリーにおけるニーズに合わせた柔軟な生産計画の調整を、それぞれの専門知識とツールを装備したエージェントで実現することを挙げた。
LayerX、「バクラクAIエージェント」を年内リリース予定
株式会社LayerXからは、代表取締役CTOの松本勇気氏が登壇した。
LayerXのメインプロダクト「バクラク」は、経費生産や勤怠管理などのコーポレート業務の効率化や自動化を目指している。そのポイントとして松本氏は「AI-UX」として、これまでシステムに人間が合わせていたのを、AIが人間に合わせるなめらかなユーザー体験を挙げた。
そして松本氏は、新しい取り組みとして「バクラクAIエージェント」を発表した。「メールでもらった資料だったり、カレンダーを見ながら勤怠申請したり、社内のデータと突合しながらさまざまな申請や処理をしたりと、仕事ではさまざまなサービスを組み合わせながら仕事をしていると思う。そのすき間をこれまで人間が埋めていたが、そこをLLMの力で埋める」というのが松本氏の説明だ。「今年中にはリリースしたい」という。
松本氏はバクラクAIエージェントを使った例として、取引書類をAIが読み、それをどう社内で申請すればいいかを推薦してくれる例を、動画をまじえて紹介した。
もう1つの例としては、勤怠申請を記入するときに、AIが社内ルールを参照して申請をやってくれるという例を紹介した。