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野村総合研究所、SNS情報から働くことへの気持ちを可視化した「働く感情指数」を開発

長期連休や新型コロナ、賃上げなどが指数に影響

 株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は27日、SNS上の投稿から就労者の働くことへの気持ちの動きを可視化する「働く感情指数」を開発したと発表した。この指数は、仕事に関する前向きな気持ちや後ろ向きな気持ちなど、働く人の内面的な感情の動きを定量化することを目的としている。

 NRIでは、少子高齢化による労働力の減少が進む中、人々の労働意欲を高める施策をよりタイムリーかつ的確に講じることの重要性が高まっていると説明。「働く感情指数」は、働く人の感情動向をSNSへの投稿データをもとにリアルタイムに把握できることから、今後、企業や国・自治体などが、働く人の状況変化に応じて有効な施策をタイムリーに展開する上で貴重なデータになり得るとしている。

 なお、「働く感情指数」は、NRIがSNSへの投稿データを用いて社会の「空気感」を指数化した技術を応用したもので、「空気感」の指数化と同様に、筑波大学システム情報系の佐野幸恵准教授との共同研究の成果となる。

 NRIでは、2020年10月1日から2024年11月6日までの、X(旧Twitter)への日本語の投稿を用いて、「働く感情指数」を算出した。「働く感情指数」は、働くことに関して前向きな気持ちをポジティブ指標、後ろ向きな気持ちをネガティブ指標でとらえるように構成されている。

2020年10月から2024年11月の「働く感情指数」の推移と同期間における雇用・就労にかかわる主な出来事(出典:NRI)

 指数の長期的推移を見ると、2022年前半まではネガティブ指標がポジティブ指標を上回っていたが、2022年後半から2023年前半にかけてポジティブ指標が上昇し、ポジティブ優勢なトレンドへと転換している。他にも、年末年始、ゴールデンウィークなどの長期休暇の時期に定期的にポジティブに振れることや、雇用や就労に関わる政策やその報道に反応して感情が動く様子もうかがえるとしている。

 さらに、個別に指数の推移を見ると、新型コロナ感染症拡大が暮らしや仕事にも大きな影響を与えていた2022年末までの期間は、「働く感情指数」の両指標もこれらに影響された変動が見られる。具体的には、行動自粛が伴った夏休みは、コロナ禍ではない夏休みと比べてポジティブ指標の振れが小さくなったり、1日の感染者の最多数が日々更新されるなど、感染者数が増加していた2022年の7月にはネガティブ指標の振れが大きくなったりする傾向が見られた。

 一方、2023年5月に新型コロナが5類感染症へ移行され、行動制限のない夏休みを迎えると、コロナ禍の夏休みと比較し、ポジティブ指標の振れが大きくなった。さらに、2024年のゴールデンウィークは大型連休だったが、ここでも2週間近くにわたってポジティブ優勢の傾向が見られた。これらのことから、長期休暇が働く感情にポジティブな影響を与えている様子がうかがえるとしている。

 また、2023年は年明けより春闘に向けた大幅な賃上げ要求が相次ぎ、結果として過去最高の上げ幅となった。指標においても、2023年は年明けよりポジティブ指標の大きさがネガティブ指標のそれを上回る時間が続いている。2024年の春闘でも過去最大の賃上げとなったが、指標は2023年の賃上げ時と比べて大きく変動することはなかった。2024年は物価上昇や増税の報道が相次ぎ、その影響を受けたものと推察されるとしている。

 その後は、実質賃金がプラス基調に転じたり、最低賃金の引き上げがあったりしたことで、一時的にポジティブに振れるなど、指標が上下に変動する時期が続き、今に至っている。なお、2024年下半期は、自民党総裁選や衆議院選挙において、雇用に関連する活発な政策論争があり、指標もこの期間、上下に変動しており、衆議院選挙終了後はポジティブへと振れている。

 さらに、「働く感情指数」の指標を「時系列データ」と見て、時系列解析ライブラリ「Prophet」を使って、長期的な推移や周期的な変動を分解した。長期的な推移に注目すると、ポジティブ指標とネガティブ指標のどちらも右肩上がりの傾向を示しており、働き方や働くことに関する投稿に対して、働く人がより感情をあらわにした投稿をするようになってきていると分析している。

指標時系列の長期の推移(出典:NRI)

 年間の周期では、4月から5月のゴールデンウィークにかけてポジティブ指標が年間で最も高くなった後、8月まで徐々に下降し、その後年末まで緩やかに上昇する傾向が見られる。

指標時系列の年間の周期(出典:NRI)

 週間の周期では、平日と週末とで違いが見られる。週明けの月曜日にはポジティブ指標・ネガティブ指標の双方が高い水準となり、仕事に対する多様な感情が投稿されていることが分かる。一方、週末にはネガティブ指標が低下し、ポジティブ指標が上昇する傾向が顕著であり、1週間における仕事に対する気持ちの変化が表れているとしている。

指標時系列の週間の周期(出典:NRI)

 NRIでは、リモートワークの普及に象徴される働き方の変容に加え、人手不足の深刻化や労働に対する価値観が変化する中で、雇用や処遇の在り方についても変化の兆しが見られると分析。働き方や労働条件の変化は、就労者の意識や感情に影響を及ぼし、その心情の変化は、実際の就労や生産性にも影響をもたらすと考えられるとしている。

 企業や政策立案者には、就労者の状況を的確に把握し、タイムリーかつ適切な施策と環境整備が求められているとして、就労者の、働くことに関する感情の動向を捉えた指標は、企業や政策立案者が施策や政策を検討・実行する際に、有益な情報源となり得るものと考えるとしている。