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AIエージェントが今後の企業競争力を左右する要素に――、UiPathが「自動化とAIのトレンド:2025年版」発表
2024年12月20日 12:00
UiPathは、AIエージェントの活用や価値などについて考察した最新レポート「自動化とAIのトレンド:2025年版(AI and Automation Trends 2025)」を発表。AIおよび自動化を取り巻く7つのトレンドを示した。
同調査は、1万社以上の顧客や数千社のパートナー企業、数100万人のUiPathコミュニティメンバーなどから得られた知見に加えて、第三者機関による調査分析、UiPathのAI研究者や製品開発者、ソフトウェアエンジニアなどの視点を盛り込んだもので、UiPath プロダクトマーケティング部の夏目健部長は、「日本の企業が、2025年にどんな要素をビジネス戦略に組み込むべきか、どんなアクションを取るべきかといったことのヒントになることを目指した」と位置づけ、「AIエージェントによって自動化を進める『エージェンティックオートメーション』が重要なキーワードになる。AIエージェントを中心とした技術進化とともに、それらを支える周辺技術、企業体制、規制への対応が、今後の企業競争力を左右する要素になる」と語った。
では、7つのトレンドを詳しく見てみよう。
ひとつめは、「AIエージェントの時代が到来し、『思考するAI』から『行動するAI』へ進化する」ことである。
これまでのAIは、チャットボットのように、与えられた質問への回答やデータ分析を通じて、アウトプットした結果を人が活用する用途が中心であったが、AIエージェントの登場によって、AIの存在が、考えるAIから、行動を起こすAIへと進化。「RPAのような単純な自動化にとどまらず、よりビジネス価値を生み出しやすいソリューションが登場してきた。業務の効率化、収益の拡大、競争優位性の確立など、企業が求める成果を迅速に、柔軟に実現できる。自動化の世界が大きく変化する」と指摘した。
出張手配を行うAIエージェントは、利用者からリクエストがあると、社員にとって有益な情報を提供するために、人事システムにアクセスして、社員の権限情報や出張に関する社内規定情報なども入手。これにより、最適なフライトや宿泊情報を検索し、社員に提案する。手配の要求を受けると、航空会社などのサイトにアクセスし、チケットを購入するといった処理を行う。「決められたフローだけでなく、どんなアクションが必要なのかを考えて行動する。その結果、人手を減らし、社員は戦略的で、創造的な業務に集中できるようになる」と語った。
第三者機関の調査では、2023年には、ゼロだったAIエージェントへの支出が、2024年には4億ドル近くに急増。2024年には半数以上の企業がAIエージェントの活用を開始し、近い将来にはAIエージェントによるワークフローの自動化が当たり前になると回答した経営幹部は7割に達していることを示した。また、2028年には、組織内の意思決定の15%を、AIエージェントが自律的に行うと予測している。
「AIエージェントは、バズワードにとどまらない。競争戦略や成長ドライバーとしてとらえる必要がある。企業が2025年において取り組むべきテーマは、AIエージェントとエージェンティックオートメーションについて学ぶこと、エージェンティックオートメーションを活用したプロセスを少なくともひとつ開始すること、先行企業の動向を注視し、自社でどんなユースケースが適用できるかを考えることである」と提言した。
2つめは、「オーケストレーションの台頭~エージェントエコシステムの形成」である。
AIエージェントの能力を最大限に引き出すには、個別のAIエージェントを単独で使用するのではなく、複数のエージェントによる意思決定やアクションを、一貫したプロセスに統合したオーケストレーションが重要であると指摘。「効率的で、高度な自動化を実現するためには、オーケストレーションによって実現するエージェンティックオートメーションに取り組まなくてはならない。これからは、運用管理基盤となるオーケストレーションが必要不可欠な存在になり、AIエージェントとRPAがタッグを組み、複雑なシステムとアプリによるプロセスを改善し、大規模な自動化を可能にするようになる。そのためには、エージェントタスクの調整や管理、ワークフローの最適化と運用管理、データとコンテキストの適切な活用、エージェントプラットフォームとの連携、ガバナンスと透明性の確保が重要な要素になる」と指摘した。
2025年には、オーケストレーション関連ビジネスは3倍に拡大すると予測。2028年までの年平均成長率は36%で推移すると見込んでいる。また、2025年はエンタープライズグレードのエージェンティックオートメーションプラットフォームが、AIテクノロジーベンダーにより展開されることも予測した。
3つめは、「エージェントが幅広い自動化の機会に取り組み始める」としている。
コストや工数がかかったり、専門的知識が必要になったりといったことで、自動化に踏み込めなかった領域にも、AIエージェントが対応できるようになり、人手で行っていた高度な判断、調整、分析を置き換えることができるとした。
「2025年は、エージェンティックオートメーションが本格的に稼働する。これにより、RPAだけでは対応できなかった新たなユースケースを創出できるようになる。企業はより複雑で、付加価値が高いユースケースにも手が届くようになる」とした。
コールセンターでは、AIエージェントがパーソナライズした顧客対応を行ったり、営業部門やマーケティング部門では、リアルタイムのデータをもとに需要予測や行動予測を行い、個別化した施策やサービスを提供したりできる。また、人手では管理できないような膨大なストリーミングデータを、リアルタイムで監視、評価して、在庫管理や需要予測、物流計画に反映させることも可能になる。科学や創薬では、AIエージェントが実験を計画して、実行することで、実験の全体量を増やし、仮説立案の幅を広げることができるとした。
4つめが、「マシンとの仕事の共有。大規模な業務再配分が始まる」である。
人と機械が得意分野を生かしあう新たな労働モデルへと進化。人は、より創造的な業務にシフトし、機械はデータ処理や単純作業を行い、全体の生産性をあげることができるようになるとした。
「特定の作業を、最も適切に遂行できるのは、人か、マシンか、といった考え方が浸透し、業務プロセスを戦略的に再設計するようになる」
ここでは、人材管理に対しても変化を及ぼすことを指摘。経営幹部には、新しいAI運用モデルの考案や、大規模な変化の管理が求められ、人事部門は社員の再トレーニングやスキルアップ計画、評価と報酬システムの再構築を行う必要がある。また、IT部門はAIと自動化を組み込んだ職場エコシステムの構築や、エージェンティックオートメーションのためのCoEの設立が求められるとした。
「AIに仕事を奪われることはない。仕事を奪うのはAIを使う人である。AIをどう活用して、いかにパフォーマンスを発揮するかが鍵になる」と述べ、「2025年に行うべきことは、プロセスマイニングとタスクマイニングを使用し、業務を分析し、AIが最も効果を発揮する業務領域を特定し、さまざまな部門を巻き込んだ労働モデルの再設計を進めることである」と提案した。
そして、5つめは、「組込型AIが企業を幻滅の谷から救う」という動きだ。
これまでのAI導入では、成果の創出に苦戦しているケースが多かったが、ここにきて、ベンダー各社が、エンタープライズテクノロジーに生成AIを組み込んだ提案が増加。これが、生成AIが直面していた「幻滅の谷」の状況を脱却するきっかけになるとの見方を示した。
GoogleやGitHub、SAP、Salesforce、Microsoftといった企業は、それぞれにCopilotを提供。UiPathでも、Autopilotの名称で組み込み型AIを提供していることを示しながら、「組み込み型AIの登場によって、企業は自社開発の複雑なAI基盤が不要になったり、専門知識を持つ人材も不要になったりする。導入のハードルやコストが下がり、リスクも下がる。これらのAIによって、コーディング作業やテスト環境を支援でき、作業効率も飛躍的に高めることができる。トレーニングや進捗管理などにより、AIを積極的な活用できる環境も整うだろう。AIをどう使うべきかといった悩みがなくなり、実践的な価値の創造につながりやすくなる」と述べた。
6つめは、「RAGから成功へ。新しいツールで大量のデータを制御する」である。
デジタルワーカーの約半数が、仕事を効率的に遂行するために必要なデータを見つけるのに苦労していることを指摘。こうした「データ活用のジレンマ」を、生成AIやLLMが解消できるという。
「ナレッジグラフやRAGによって、ハルシネーションの課題が解決できる。また、ナレッジグラフをRAGに適用したGraphRAGにも注目が集まり、データ同士の関係性を活用して、単純なテキスト検索では実現できなかった精度での情報確認ができるようになる。さらに、特定のプロセスにフォーカスしたLLMへの関心が高まっている。企業が抱えている膨大なデータを、意味があり、活用できるものに変えていくことができる。これにより、企業はデータドリブンでの意思決定が可能になる」と語った。
最後が「規制の強化。AIの力を抑制するための措置が世界中で講じられる」という点だ。
法的な枠組みづくりが進み、著作権やコンテンツの所有権、プライバシーなどの困難な問題への取り組みが本格化。社会的合意のなかで成長するフェーズに入ってきたことを指摘した。米国では、2023年には130件だったAI関連法案の提出が、2024年には約500件に増加しており、さらに、デロイトが経営幹部を対象に行った調査では、78%がAI規制の強化を求めていることがわかった。
「企業に共通している認識は、これらの規制の増加は、AI利用の足かせになるというとらえ方ではなく、安心安全に利用でき、責任あるAIを利用できる環境づくりにつながると考えている点だ。新しい法律によって課される要件に備えるために、堅牢なデータガバナンスとセキュリティ対策を導入する必要がある。また、AIアルゴリズムの透明性と説明可能性も高めなくてはならない。そして、AIが関与した意思決定に対する明確な責任説明の構造を確立する必要がある。AIに対しては、守りの対応だけでなく、信頼や責任といった新たな価値を組み込みことでチャンスにつなげていくという攻めの姿勢を持たなくてはならない」と提案した。
さらに、UiPathの夏目部長は、「日本の企業がAIを活用する上では、体制づくりや評価の仕組みづくりに力を注ぐことが大切である。日本の企業は、業務内容や業務手順をそのままデジタル化したり、IT化したりすることが多く、業務を組みなおすことが苦手である。いわば『業務依存症』といえる状況にある。これを変えないと、新たなテクノロジーに対応した働き方ができず、効果が限定的になる。AIを生かせる人材を育てること、AIを生かした人を評価する仕組みを作ることができていないため、新たなテクノロジーを活用したがらない。ここを率先して変える必要がある」とも指摘した。