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日本IBM、「デジタル変革のためのAIソリューション」を発表――AIファースト企業の増加を目指す

 日本IBM株式会社は8日、顧客のAI活用を加速する包括的なフレームワークとなる「デジタル変革のためのAIソリューション」を発表した。同ソリューションは、3月に発表した「IT変革のためのAIソリューション」を拡張したもので、IT変革に加えてビジネス変革も含んだ全社的なデジタル変革におけるAIの実用化を加速するものだ。

 日本IBM 執行役員 コンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長 兼 最高情報セキュリティー責任者の川上結子氏は、「生成AIはもはや一過性のトレンドではなく、投資対効果が急速に向上し、企業価値を左右するまでになってきた。IBM Institute for Business Value(IBV)による経営層への調査でも、生成AIに対する期待が去年までの懐疑的な状況から2024年は確信へと変わっており、他社に後れを取らないためにも導入する必要があると回答した人が77%にのぼっている」と語る。

生成AIは本格活用段階へ

 こうした状況の中、川上氏はAIの本格活用に向けたポイントのひとつとして、AIスキルの獲得を促進し、テクノロジやノウハウが全社的に行き渡る仕組みや環境を整備する必要があることを挙げる。今回発表したソリューションは、この点を支援するものだという。

日本IBM 執行役員 コンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長 兼 最高情報セキュリティー責任者 川上結子氏

 デジタル変革のためのAIソリューションは、3月に発表した「IT変革のためのAI」に加え、「AI活用プラットフォーム」「AI戦略策定とガバナンス」「ビジネス変革のためのAI」の4つのコンポーネントで構成されている。

 それぞれのコンポーネントは、「Red Hat OpenShiftや、IBM watsonxをはじめとするIBM製品、IBM Consultingのアセット、そしてIBMの戦略パートナーとの協業によるソリューションなどを組み合わせたものだ」と、日本IBM IBMフェロー コンサルティング事業本部ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部 最高技術責任者の倉島菜つ美氏は説明した。

デジタル変革のためのAIソリューション

AI活用プラットフォーム

 AI活用プラットフォームには、さまざまな大規模言語モデル(LLM)が利用できるAIプラットフォームや、AI活用に必要なデータプラットフォーム、AIガバナンスのためのガバナンス機能、AIアプリケーションを構築するアプリケーションプラットフォームなど、AI活用の基盤となるオープンなプラットフォームが用意されている。

 倉島氏は、IBVによる調査から、「生成AIの成否は、テクノロジそのものよりも社員がスムーズに受け入れるかにかかっていると、64%のCEOが答えている」と述べ、「AI活用プラットフォームにより、社員が生成AIを安全に実験できる環境を整備する」とした。

AI活用プラットフォーム

 また倉島氏は、AI活用プラットフォームのソリューションのひとつとして「IBM Consulting Advantage」を紹介。これは、AI活用ソリューションをIBMと顧客が共創する際の基盤となるもので、他社製のLLMを含む幅広いAI活用ソリューションを統合して利用できるという。

 その価値について倉島氏は、「IBM Consulting Advantageは、将来的な利用拡大を見据えて全社AIプラットフォームにふさわしいスケーラビリティを担保し、ユーザー認証やデータ保護などセキュリティに考慮した安全な環境を提供する」と話す。すでにIBMでは、このプラットフォーム上で稼働する生成AIアシスタント「IBM Consulting Assistants」を構築しており、同社のコンサルタントが資料作成や議事録の要約などに活用しているという。

IBM Consulting Advantage

AI戦略策定とガバナンス

 AI戦略策定とガバナンスでは、全社的なビジネス価値の創出に向けたAI戦略とガバナンスの実現を支援する。IBMでグローバルに蓄積された業界や業務のAI知見を活用し、部門横断的な事業価値の創出につながる重点領域を特定。技術進化を見据えたAI活用の方針を策定し、本格活用におけるリスクを統制するガバナンス体制を確立するなど、攻めと守りの両面における戦略と、備えるべき組織やプロセス、人材を考案して変革を推進する。

AI戦略策定とガバナンス

 日本IBM パートナー コンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部 戦略コンサルティングの田村昌也氏は、実際にIBMがこの分野で活用しているツールを紹介、「AI活用組織成熟度アセスメントで現状を可視化しているほか、各業界・業務にわたる生成AIの事例データベースを備える業務分析ツール『CBM.ai』を活用している」と話す。また、IBMの実践に基づくAIガバナンスを開発や活用のプロセスに組み込み、「顧客とともに事業価値につながるようなAIの使い方を支援する」としている。

日本IBM パートナー コンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部 戦略コンサルティング 田村昌也氏

ビジネス変革のためのAI

 ビジネス変革のためのAIでは、業界固有のプロセスに特化したAIソリューションのほか、製品やサービス、顧客接点、ビジネスプロセス最適化、人材管理、サプライチェーンなどのユースケースにあわせたAIソリューションを提供する。

 田村氏は、すでにこの分野で支援している顧客が複数存在するとして、その事例を紹介した。

 「宮崎銀行では、日本IBMが開発した生成AIアセットによる融資稟議(りんぎ)書作成アプリケーションにより、俗人的で業務負荷の高かった融資稟議書の作成時間を95%削減し、作業を標準化した。京都大学大学院とは、難病情報照会AIアプリケーションを共同開発し、信頼性の高い難病情報を照会できるようにしたほか、専門医へつなげることで、これまで時間がかかっていた難病の診断や治療の早期化を支援している。パナソニックグループでは、当社と共同開発したワンストップ人事サービスにより問い合わせ窓口を集約し、生成AIで事業者ごとの規定にあわせた自動回答や申請が会話形式でできるようになった」(田村氏)。

ビジネス変革のためのAIで複数の事例を公開

専門組織がAIの実用化と本格活用をサポート

 デジタル変革のためのAIソリューションは、専門組織とビジネス変革チームが共同で推進し、AIの実用化と本格活用を支援するという。

 専門組織のひとつとなるのが、2023年6月にグローバルで設立した「Center of Excellence (CoE) for Generative AI」だ。「世界2万1000人のデータサイエンティストとAIコンサルタントが所属しており、4万件以上の顧客プロジェクトを支援してきた実績がある」と川上氏。日本でも8月1日にCoE for Generative AIチームを正式に発足したという。

 各ビジネス変革領域にも専門チームが存在しており、「3年前から各ビジネス領域で生成AI活用に向けた包括的支援ができるような組織体制にしている」と川上氏。

 さらには、AIを前提に業務全体を再設計し、AIを活用した自動化や業務の高度化を推進するAI First BPOサービスを、IBM地域DXセンターの那覇、北九州、札幌にて拡充しているという。

 川上氏は、今回発表したソリューションにより、「AIを本格活用するAIファースト企業を日本でも増やしたい。これにより、日本の企業価値を上げ、国力を高められるよう支援していきたい」としている。