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キンドリルジャパン、2024年の「7つのテックトレンド予測」を基に注目すべき「3つの示唆」を提言
2024年2月13日 06:00
キンドリルジャパン株式会社は9日、2024年における「7つのテックトレンド予測」を発表するととも、それを反映して、日本の企業が2024年に注目すべき「3つの示唆」を提言した。
キンドリルジャパン 専務執行役 チーフ・ストラテジー・オフィサー ストラテジック・サービス本部長の工藤晶氏は、「2024年を対象にしたテックトレンド予測であり、新しいトレンドというよりも、いま起きていることが対象になる。今回は日本の状況をとらえながら予測をした」と述べた。
2024年における「7つのテックトレンド」は、キンドリルが前年に続き、グローバルで発表したもので、2023年12月に公表していた。
テックトレンドのひとつめが、「新しい働き方が企業文化やテクノロジー、ワークプレイスの変革を促進」である。
企業が必要とする人材が不足しており、人が潜在能力を最大限にするためのシステムやツールに投資すること、有能な働き手は多様性を尊重し、キャリア形成に自ら主導権を持っている企業文化がある職場を求めていること、AIやクラウドなどのテクノロジーを社員中心にした戦略のなかに統合する必要があることを指摘。ビジネスプロセスや社内の摩擦、仕事の満足度に関する調査を行い、指針となるフィードバックを得ること、ID&Eの取り組みを加速すること、AI対応ソリューションによるハイブリッドワークプレイスへの投資を進めることを提言した。
2つめが、「AI導入の重要な要素としてデータガバナンスが浮上」である。ここでは、「全速で走る電車のスピードを維持するには線路が欠かせないのと同様に、AIを実行するには適切に整理されたデータの整備が必要である」と比喩。「企業は、データを整理し、強力なデータガバナンスプログラムを確立し、AIを使用してビジネス価値を提供する可能性に備えるようになるだろう。生成AIをうまく活用するには、包括的なデータ戦略とデータガバナンスの確立が重要になる」と述べた。
また、「CIOの多くが生成AIを実験的には使用することには前向きであるものの、生成AIが使えないとの声が多く出ているのも事実である。可能性の芸術(Art of Possible)ととらえることができるかどうかが、AI活用の勝者と敗者を決定する」と語った。
3つめに、「よりスマートなクラウド戦略により、企業はコスト上昇に対応」を挙げた。
クラウドはコスト削減が実現できると見込まれていたものの、管理工数が多く、コスト削減にはつながりにくいこと、マルチクラウドにおけるデータ管理の複雑さなどもあり、一部には、オンプレミス回帰などの動きがあったことを指摘しながらも、ITワークロードをどこに置くべきか、どのアーキテクチャーが最適なのかといったことに立ち返って、検討する動きが、2024年は顕著になると指摘し、クラウドの成長は確実に続くと予測した。
ここでは、スマートクラウドの実現に向けて、クラウドCoEなどを通じて、社内でのスキルを高めるための体制を強化することが重要であるとも提言した。
4つめが「メインフレームはハイブリッド環境の一部として、今後も価値を維持する」である。数年前には、メインフレームから脱却し、クラウドに完全移行するといった議論があったものの、現在では、プラットフォームを適切に、バランスを持って活用するという動きが中心となり、キンドリルの調査では、完全にメインフレームから脱却するという企業は1%にとどまっていることを報告。95%の企業が部分的にクラウドに移行し、37%のワークロードがクラウドに移行済みであるとしながらも90%の企業が、失敗が許されない要求に対応できる唯一のプラットフォームとして、メインフレームの重要性は変わらないと回答していることを示した。だが、課題がないわけではない。47%の企業では、専門家が退職し、スキルが失われていると認識しており、ここに大きなリスクがあることが浮き彫りになっているという。
工藤専務執行役は、「メインフレームの信頼性とパフォーマンスのメリットを継続するには、最新技術を活用するメインフレーム上でのモダナイズ、メインフレームのデータをクラウドと接続して、リアルタイムで分析するといった他プラットフォームとの統合、必ずしもメインフレームの能力を必要としないアプリケーションはメインフレームから移行するといった3つの取り組みのバランスが重要である」と述べたほか、「メインフレームのモダナイゼーションによって約10%のコストダウンが実現できた例もある一方で、専門家不足は依然として大きな課題である。生成AIによって、COBOLの書き換えを行うといった動きもあるが、それを実現するには、まだ時間がかかるだろう」と指摘した。
5つめとして挙げたのが「AI活用によるデバイスの急増に伴い重要性を増すデータ保護とレイテンシー低減」である。
ネットワークの重要性が高まる一方で、ネットワークセキュリティの課題や、ネットワークの分断、世代が異なる技術の混在といった課題が顕在化していることに触れながら、「まずはネットワークのモダナイゼーションが重要である。これにより、ネットワークにおけるデータ保護とレイテンシーの低減を実現できる。一方で、生成AIの広がりとともに、エッジコンピューティングが増加していく。クラウドとエッジのバランスが重要になる」とした。
6つめが、「さらに増加し、巧妙になっているサイバー攻撃」だ。セキュリティについては、コロナ禍において、古いテクノロジー上で、新たなテクノロジーへの投資が見られたものの、「ヴェネツィアの崩壊した建築の上に立てられているようなもの」と例え、「費用はかかるが、レジリエンスを高めるには、レガシー資産の複雑さと老朽化を評価し、対処する必要がある」と述べた。特に日本では、「保守切れとなっていたり、保守期間がぎりぎりになっていたりするIT機器を使用している割合が、世界平均の2倍となっている。日本ではサードパーティーから最新の保守サービスがしっかりと提供されているのかも疑問である」と警鐘を鳴らした。
具体的な対策として、時代遅れとなっているレガシーインフラの近代化、防御と回復の両輪を実現するためのサイバーレジリエント思考の導入、多様性な人が参加することによる意識変革によるサイバー攻撃への対応の3点を挙げた。
7つめが「サステナブルなテクノロジーが最優先」である。テクノロジー自体が大きなエネルギーを使用していること、サステナブルに関する情報を見える化する上ではITが不可欠なことをあげ、「自社がサステナブルへの取り組みにおいて、どの段階にあるかを把握することが大切であるが、データに基づいて分析している企業は16%であり、事業のKPIと結びついている企業は30%にとどまっている。テクノロジーを使いこなし、サステナブルの取り組み状況を把握し、それをスコープ3に進めることが大切である」と述べた。
7つのテックトレンドを受けた“3つの示唆”
7つのテックトレンドを受けて、キンドリルジャパンでは、3つの示唆として、「ミッションクリティカルなシステムを簡素化」、「データの卓越性によってAIの成功を促進」、「回復力のある強力なIT資産を最適化」の3点を、日本の企業が注目すべき点に挙げた。
ひとつめの示唆「ミッションクリティカルなシステムを簡素化」では、メインフレームやプライベートクラウド、パブリッククラウド、SaaSといった稼働環境が多岐に渡るなかで、管理が複雑化していることを指摘。キンドリルジャパン 技術戦略部長の大津浩司氏は、「統合管理コントロールプレーンを活用し、分散した環境の資産状況や保守情報、監視情報を統合し、システムの健全性やセキュリティの健全性、ユーザーデバイスの接続性などを管理していくことが大切である」とした。
2つめは、「データの卓越性によってAIの成功を促進」とし、AI活用の広がりへの対応が不可欠であるとしながら、ユーザーにとって価値があること、IT部門にとって確信が持ていることが、AIの活用においては重要な要素になると述べた。その上で、「ユースケースを導き出し、どんなエンジンを使うのかといったときに、データの精度が重要になる。これによって、IT部門にとって安心ができるAO、経営者にとって信頼できるAI活用が可能になる。そして、責任あるAIの実現につながる」と語った。
示唆の3つめには「回復力のある強力なIT資産を最適化」を挙げた。ここでは、企業の回復力を網羅的に見ていく必要があると述べ、「企業はデジタル変革とセキュリティの強化を追求し、最新のネットワーク技術を活用してビジネスの効率性と回復力を向上させることを目指す必要がある。全体のアーキテクチャーのなかに、レジリエンスを入れることが、日本市場の成長と、日本の企業にとっての重要なキーワードになる」としたほか、「回復力では、データ保全と回復性設計の2つのアプローチで考える必要がある。また、障害の回避が目的ではなく、業務停止やデータ損失を回避すべくデザインをする必要がある。回復力を持つことは、ユーザーの信頼性を失わないことにもつながる」とした。
これらの3つの示唆を通じて、大津氏は「日本の企業は、保守切れの機器を凍結したまま使用しているケースが多い。グローバルでは、凍結した時点で会社の成長を止めると経営者は判断しており、既存資産をモダナイズすることに力を注いでいる。デジタル変革とビジネスの進化は同義であり、企業はAIの導入、ワークロード処理のバランス、IT資産の最新化、スキル不足の対策などのITトレンドに注目しながら、戦略を再調整する必要がある。2024年に、日本の企業が3つの示唆について考えはじめることで、2025年以降のさらなる進化につなげることができる」と提案した。
また、キンドリルジャパンの工藤専務執行役は、IMD世界デジタル競争力ランキングで、日本が32位となったことに触れ、中でも企業の意思決定の迅速さや、ビッグデータとアナリティクスの活用、テクノロジースキル、ケイパビリティを活用などにおいては、調査対象となった64カ国中で最下位あるいはそれに近い順位にあることを指摘。
「インクルーシブで、アジャイルなカルチャーへの変革については、キンドリル自らの変革をもとに貢献ができる。また、デジタルへのリスキルと最新テクノロジーとデータの利活用における貢献も可能である。日本の企業に対するグローバルケイパビリティの活用も提案できる。キンドリルジャパンは、2024年は、日本において、この3点に取り組み、社会成長の生命線としての役割を果たし、日本の企業の基盤となるべく事業を推進していく」と述べた。