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“データが既にハッキングされている”と想定して対応する必要アリ? ネットアップが2024年のIT市場動向予測を解説

データ主導型ビジネスの再構築に向けた4つの動き

 ネットアップ合同会社(以下、NetApp)は30日、2024年のIT市場動向予測を発表した。同日に行われたメディアラウンドテーブルでは、NetApp CTOオフィス、チーフ テクノロジー エヴァンジェリストの神原豊彦氏が、発表内容について詳しく解説するとともに、関連する同社の取り組みを紹介した。

ネットアップ CTOオフィス、チーフ テクノロジー エヴァンジェリストの神原豊彦氏

 今回発表したIT市場動向予測は、「2024年 企業はデータをどのように再考するか」をテーマに、人工知能(AI)、ユニファイドデータストレージ、堅牢なサイバーセキュリティ戦略を活用することで、企業はどのように業務を変革し、データ主導型の今日のビジネス環境で競争力を獲得できるようになるのかを、米NetAppのチーフエバンジェリストがまとめたもの。

 2024年に組織がデータ主導型ビジネスを再構築し、業務を変革するアプローチとして、「AIの革新においてモデルはデータに置き換えられる」、「データサイロの解消」、「『ちゃんと動く』ITにフォーカスする」、「データは“既にハッキングされている”と想定した対応を始める」の4つを予測している。

 まず、1つ目の「AIの革新においてモデルはデータに置き換えられる」について、神原氏は、「近年の大規模言語モデルとマルチモーダルAIの発展により、顧客サービスや、人間のようなアバター作成、コード生成などにAIが活用されるようになった。一方で、『既成のAIモデルでは、自社の業務目的に沿わない』ことに、多くの企業組織が気づき始めている。AIモデルは、『推論アルゴリズム』とその『パラメータ』で構成されており、それに制限されるからだ。そこで2024年は、目的に沿った『チューニング』や『モデルカスタマイズ』のために、『データパイプライン』環境の整備に注力し始めると予測している。AI活用の自社開発環境が整備されることで、さらにAIの適用範囲、ビジネスへの即応用が加速すると考えられる」と説明した。

 同社のAI分野に関する取り組みとしては、「データの流れ」に着目した業界唯一のAIプラットフォーム リファレンス アーキテクチャ「NetApp Data Pipeline」を提供している。同アーキテクチャでは、ハードウェアに加えてさまざまなソフトウェアツールセットを提供することで、データの自由な移動をシンプルかつセキュアに実現するという。また、同アーキテクチャの知見を生かし、生成AIにプライベートデータを適用した事例として、「Google Cloud NetApp Volumes with Vertex AI」と「Amazon FSx for NetApp ONTAP」を紹介した。

「NetApp Data Pipeline」アーキテクチャの概要

 2つ目の「データサイロの解消」については、「現在のシステムは、さまざまなデータサイロが乱立し、オンプレミスとクラウドにまたがった複雑な環境になっている。また、顧客、製品、サプライヤ、従業員などデータの種類ごとに別々のストリームが存在している。しかし、今後、データ駆動型やAI活用などを進めるにあたっては、ストリームを整理し、仮想的・透過的に単一化することが重要になる。そのため、あらゆるデータを統合し、一元管理できるようデータアーキテクチャを見直す企業が増えると予測している。さらに、統合されたデータプラットフォームは、データからの洞察を効率よく得るためにも、インテリジェンスを持つ必要がある」との考えを示した。

 データサイロの解消に向けて同社では、オンプレミス環境とクラウド環境にわたってデータの管理を一元化する統合コントロールプレーン「NetApp BlueXP」を提供している。また、データファブリックの取り組みとして、カスタム半導体設計で世界トップクラスの実績を持つ国内企業の導入事例を紹介。日本国内2拠点と海外2拠点、クラウドをつなぐデータファブリックを構築し、顧客との設計データの共有化を実現したという。

国内半導体設計企業のデータファブリック導入事例

 3つ目の「『ちゃんと動く』ITにフォーカスする」に関して、神原氏は、「英語の原文にある『Just works』はSEがよく使うスラングで、日本語では『ちゃんと稼働する。利用できる状態』というニュアンスになる」と前置き。

 そのうえで、「クラウドへの移行にあたりスケジュールと予算の制約で足踏みしている企業では、現実的なロードマップとして、ハイブリッドなIT環境での運用最適化が求められる。一方で、技術進化の激しいITインフラの維持やメンテナンスには、継続的にイノベーションとコストのプレッシャーが発生することになる。そのため2024年は、『最適なクラウド環境を選ぶ』ことから、『“ちゃんと動く”インテリジェントなデータ・インフラストラクチャを模索する』ことへシフトすると予測している。具体的には、ユニファイドデータストレージ、統合的な可観測性、サイバーセキュリティ対策を同時に満たした、高度なデータ・インフラストラクチャにフォーカスが当たる」と解説した。

 「『ちゃんと動く』ITにフォーカスする」に向けた同社の取り組みとしては、統合的なデータ管理を実現する「NetApp BlueXP」に加えて、ハイブリッドマルチクラウドストレージをサービスとして提供する「NetApp Keystone」を展開している。「NetApp Keystone」は、オンプレミスとクラウドの両方のデータストレージサービスを1つのサブスクリプションで提供する従量課金制のストレージサービス。クラウドストレージのエクスペリエンスをオンプレミス環境で実現するという。「NetApp Keystone」の導入事例では、医療機関および自動車会社の事例が紹介された。

「NetApp Keystone」の概要

 4つ目の「データは“既にハッキングされている”と想定した対応を始める」では、「サイバー攻撃を受けることは避けられない事態と位置付け、ビジネスの継続性を確保するためにシステムのアーキテクチャを再考する時代になる」と予測する。「攻撃の方法や対象がより巧妙になり、攻撃を防ぐことが難しくなる中で、企業はサイバー攻撃への新たな対処方法を再検討する必要がある。専門家は、2030年には2秒に1回の割合でランサムウェア攻撃が発生すると予測しており、今後は、サイバー攻撃の防御だけではなく、攻撃からの復旧方法に焦点をあてた考え方や対応策が必須になる。また、NetApp Data Complexity Reportによると、企業の経営幹部や取締役の87%がサイバー攻撃対策を最優先事項に挙げており、2024年はITセキュリティへの投資がさらに増加する」と指摘した。

 これに対する取り組みとして、同社では、サイバー攻撃からの回復にフォーカスした新たなソリューション「NetApp Cyber Resilience」の提供に向けて準備を進めている。「NetApp Cyber Resilience」では、これまで別々に展開されていたデータセキュリティとデータ保護を組み合わせ、攻撃範囲・攻撃者の検出からデータのバックアップ、リカバリまでをトータルでカバーしていくという。また、顧客への啓発活動として、「ランサムウェア対策防災訓練ワークショップ with NetApp」を実施している。このワークショップは、疑似ランサムウェアを用いて実際の感染・検出・復旧を体験するというもので、実際に京都府舞鶴市で行われたワークショップの事例が紹介された。

「NetApp Cyber Resilience」の概要