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NEC、Beyond 5G/6Gの光ファイバー無線(RoF)伝送を高品質化する歪補償技術のリアルタイム実証実験に成功

 日本電気株式会社(以下、NEC)は22日、Beyond 5G/6Gの高速化・大容量化を実現する光ファイバー無線伝送の一つであるデジタルシグマRoF(RoF; Radio over Fiber)に、NECが開発した無線信号の信号品質を改善する歪補償技術を適用したリアルタイムの実証実験を行い、世界で初めて成功したと発表した。

 Beyond 5G/6Gにおいては、無線通信のさらなる高速化・大容量化が必須で、現在の5Gよりもさらに周波数が高いミリ波帯やサブテラヘルツ帯を移動通信に活用することが検討されている。しかし、高い周波数帯の電波は遮蔽物によってすぐに弱まってしまう課題があるため、多数のアンテナを無線基地局から延ばすように配置し、移動する端末に複数の方向から電波を送る分散MIMOシステムが有力な解決手段の一つと考えられている。

 そして分散MIMOシステムでは、基地局からの距離が数kmと遠く離れた場所に設置されたアンテナにも無線信号を送れるように、長距離伝送に適した光ファイバーを使うRoF技術が注目されている。

 NECが今回行った実証実験では、従来のRoF技術に対して、基地局やアンテナなどの装置の低コスト化、小型化が見込めるデジタルシグマRoFを採用した。

分散MIMOシステムの光ファイバ無線(RoF)伝送

 RoF技術の一つであるデルタシグマRoFは、一般に流通している安価な光トランシーバーを利用可能で、高価な高性能デジタル・アナログ変換器が不要という特徴があり、従来のRoF技術に対して、基地局装置やアンテナの低コスト化、アンテナの小型化が見込める。

 デルタシグマRoFは、基地局で無線信号をデルタシグマ変調により2値 (0と1) のパルスの列に変換し、このパルス列を基地局からアンテナに光伝送した後、アンテナでパルス列から無線信号に戻す技術。パルス列から復元された無線信号は、アンテナから空間に送出され、端末に送られる。

 しかし、デルタシグマRoFには、基地局が生成したパルス列の波形が光伝送により歪むことにより、アンテナで復元された無線信号の信号品質が低下し、256QAMのような高度な変調方式が使えなくなり、通信速度が遅くなってしまうという課題がある。

 こうした課題に対し、NECは、光伝送後のパルス列に生じる波形歪を再現する回路を基地局装置に埋め込むことにより、デルタシグマRoFにより伝送された無線信号の信号品質を改善する歪補償技術を開発した。

 この歪補償技術では、基地局装置が波形歪を考慮したパルス列を生成することで、アンテナで無線信号に戻したときに、光伝送後の波形歪を補償でき、無線信号の信号品質を改善できる。

 NECは、歪補償技術を組み込んだ回路を実装したFPGAを用いて、帯域幅400MHzのOFDM信号の信号品質をリアルタイムに評価した。無線信号のスペクトルを評価した結果、光伝送後の信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を、28dBから36dBに8dB改善できることを確認した。

歪補償技術の有無による信号スペクトルの比較

 このSNRの改善により、QPSK(多値数2)、16QAM(多値数4)、64QAM(多値数6)に加えて、さらに高度な変調方式である256QAM(多値数8)も使用できるようになり、通信速度を1.33倍以上に高速化できたという。

 NECでは、デルタシグマRoFに今回開発した歪補償技術を適用することにより、無線機器を小型化・低コスト化しながら、さらに高速化も可能になったことから、Beyond 5G/6Gの早期実現に大きく貢献すると説明。今後もBeyond 5G/6Gによる新しいテレコミュニケーションが実現された社会を目指して、高速化・大容量化に適した高周波数帯を活用する技術の研究開発を進めていくとしている。