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生成AIがICT市場に与える影響とは――NRIが解説

 株式会社野村総合研究所(NRI)は19日、「NRIメディアフォーラム」を開催し、生成AIによるICT市場への影響について解説した。

 今回の内容は、同社が「ITナビゲーター2024年版」として20日に発売する書籍の一部をまとめたもの。ここでは、生成AIで変わるコンテンツ開発と、生成AI時代のデジタルマーケティングについて紹介したい。

生成AIで変わるコンテンツ開発

 まず、NRI ICT・コンテンツ産業コンサルティング部 シニアコンサルタントの本多立駒氏が、デジタルライフの未来に向けて注目すべき消費者と事業者のトレンドを解説した。

 消費者のトレンドとしては、「倍速消費」と「推し消費」が顕著であることだ。倍速消費とは、動画の再生速度を上げて短時間で大量のコンテンツを閲覧すること。推し消費とは、特定のコンテンツに深く没頭し、それが支出の増加につながっていることだ。

デジタルライフにおける消費者のトレンド

 一方、事業者のトレンドとしては、倍速消費に対応し、プラットフォーマーがビッグデータを活用してヒット作品を制作していることや、推し消費に対応し、新技術を使用した深みのあるコンテンツを誕生させていることが挙げられる。

 こうした状況の中、生成AIは創作を補助し、制作プロセスを効率化。また、対話型コンテンツの進化も促進しているという。「生成AIがプロットの元となるアイデアを提案し、人間が最終的なプロットを作成することで、コンテンツ事業者のコスト削減と供給量増加が可能になる。また、作者がAIに指示し、作画などの制作を補助できるようになることで、人件費の削減と商品数の増加が期待できる。さらには、生成AIがキャラクターのセリフを生成することで、対話型のコンテンツやゲームが登場している。これによりファンの参加が促進され、ユーザーのライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)、つまり生涯に支払う総額が向上する」(本多氏)。

デジタルライフにおける生成AIのインパクト

 その上で、2030年の未来像として本多氏は、「クリエイターと、作品やキャラクターなどの知的財産を保有するIPホルダー、そして消費者にコンテンツを流通させるプラットフォーマーの境界があいまいになり、役割が変化する。生成AIの進化により、コンテンツ制作と顧客接点の境界が崩れ、アイデアの形成が容易になるだろう」としている。

2030年のデジタルライフ

 そこで本多氏は、NRIからの提言として、「クリエイターは生成AIを活用して積極的にアイデアを提供し、業界の維持と拡大に寄与してもらいたい。また、IPホルダーは、倍速消費に対応したコンテンツの量産よりも、推し消費に対応したコンテンツを重視すること。そのようなコンテンツは、これまで蓄えてきたコンテンツ制作の知見を持つIPホルダーにしかできないことだからだ」と話す。また、プラットフォーマーに対しては、「生成AIの利用に伴うルールの整備と順守を強化し、偽情報や盗用コンテンツの拡散を防いでもらいたい」と述べた。

デジタルライフの未来に向けたNRIからの提言

生成AI時代のデジタルマーケティング

 デジタルマーケティングに関しては、NRI ICT・コンテンツ産業コンサルティング部 シニアコンサルタントの四元正太郎氏と、同コンサルタントの松本周子氏が解説。まず松本氏は、広告市場のトレンドとして、「この市場はさまざまな要因によって変動するが、コロナ後は好調な状態が続いており、2022年には過去最高の広告市場規模を更新した。また、広告市場に占める大企業の割合が減少し、中小・零細企業の影響が高まっている。つまり、広告市場のロングテール化が進んでいる」とした。

広告市場のトレンド

 生成AIが市場に与えるインパクトについては、「生成AIによって内製化のハードルが下がっている。特にプロモーションのフローにおいては、クリエイティブ以外の領域が内製可能となり、広告費用が抑えられている」と四元氏。また、パーソナライゼーションと最適化が進んでいるとし、「生成AIを用いて大量の広告クリエイティブを作成し、その配信結果を比較して改善することで、顧客ごとに最も効率的な広告を導き出し、効率的な運用が可能になっている」という。

生成AIでパーソナライゼーションと最適化の精度が向上

 ただし四元氏は、効率性をやみくもに追求することには危険が伴うと警告する。ネット広告の印象を調査したところ、70~80%前後の消費者が「ほとんど印象にない」「不快に感じる」と回答しているためだ。これを「短期的成果を追い求めた結果ではないか」と四元氏は推測し、「中長期的な観点で生活者との関係性を検討すべきだ」としている。

ネット広告の印象

 デジタルマーケティングの2030年については、「顧客との中長期的な関係の構築が重要視され、AIと人の共創を実現できるかが分水嶺(れい)になる」と四元氏は予測。「顧客との中長期的な関係構築には、感性を刺激するストーリーと、AIによるパーソナライゼーションおよび最適化のバランスが必要だ。これを企業活動の中で実現する必要がある」と述べた。

 その上で、NRIからの提言として四元氏は「SPOT-LIGHTモデル」を紹介。これは、S:Story-telling、P:Personalization、O:Optimization(最適化)、T:Trustworthiness(信頼性)、L:Long-term strategy(長期的な視野での経営戦略)、I:Innovation、G:data Gathering、H:Harmonization(協調)、T:Tracking(効果の見える化)の略。前半の「SPOT」の部分が望ましいマーケティング戦略の要素で、後半の「LIGHT」の部分がその戦略を実行する上で考慮すべき要素だという。

SPOT-LIGHTモデル

 「このSPOT-LIGHTモデルを使用して、企業は自らのマーケティング戦略を見直し、バランスの取れたアプローチを模索してもらいたい」と四元氏は述べた。