ニュース

富士通とKDDI研究所、既設光ファイバーを用いて従来比5.2倍の大容量マルチバンド波長多重伝送に成功

 富士通株式会社と株式会社KDDI総合研究所は4日、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環で、既設光ファイバーを用いた大容量マルチバンド波長多重伝送技術の開発に成功したと発表した。

 NEDOは、ポスト5G情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発・製造基盤強化を目指しており、この一環で、富士通とKDDI総合研究所は、2020年10月から2023年10月まで、ポスト5G光ネットワークを高性能化する事業に取り組んできた。

 従来の商用光ファイバー通信網では、光が光ファイバーの中心部のみを通るシングルモードファイバーを使用し、主にC帯(波長帯域:1530nm~1565nm)を光ネットワークの信号伝送帯域としてきた。しかし、通信トラフィック量の増大に伴い、C帯だけでは伝送容量の不足が予測されることから、事業ではファイバー1本あたりの伝送容量を増やすために、利用する波長帯域をC帯からL帯(1565nm~1625nm)、S帯(1460nm~1530nm)、U帯(1625nm~1675nm)、O帯(1260nm~1360nm)へと増やし、マルチバンド化することを目指した。

開発した大容量マルチバンド波長多重伝送技術を適用したシステムのイメージ
既設ファイバー1本におけるO帯、S帯、C帯、L帯、U帯を同時伝送した場合の受信光スペクトル

 富士通は、マルチバンド伝送における伝送性能の劣化要因を考慮したシミュレーションモデルを構築し、マルチバンド波長多重システムの伝送設計を可能にした。シミュレーションモデルには、商用光ファイバー特性の測定結果と、一括波長変換器/マルチバンド増幅器の実験系検証により抽出した伝送パラメーターを反映することで、実機測定との誤差を1dB以内に抑える高精度シミュレーションを実現し、バンド帯間の相互作用や伝送性能の劣化を考慮した設計を可能にした。

 従来、C帯での伝送システムの設計では、定数として扱うことで実用上問題なかったパラメーターも、S帯+C帯+L帯+U帯にわたるマルチバンド伝送では、波長帯間の伝送性能の差異が無視できなくなり、より厳密に波長依存性を考慮した設計が必要となる。例えば、非線形の劣化要因は、伝送路に入力される光パワーが高くなるほど、また、伝送距離が長くなるほど顕著となり、伝送性能の制限要因となる。特に、複数の波長による光の相互作用によって生じる誘導ラマン散乱や相互位相変調、四光波混合は、波長多重度が高い場合に顕著となるため、マルチバンド波長多重システムの伝送性能に大きく影響を及ぼす。

 このようなバンド帯間の相互作用や、伝送性能の劣化要因を考慮したシミュレーションモデルを構築し、マルチバンド波長多重システムの設計手法を確立した。また、S帯、U帯の波長分割多重(WDM)光信号は、それぞれC帯、L帯の光信号から全光信号処理技術により生成するため、S帯とU帯専用の送受信機を用いる必要はない。これらの技術を組み合わせて、S帯+C帯+L帯+U帯において、高速かつ大容量な通信が可能な、光の位相を利用するコヒーレント伝達技術によるDWDM伝送を可能とした。

 また、KDDI総合研究所は、これまで高密度波長分割多重(DWDM)伝送で活用されることがなかったO帯で、従来のC帯の2倍の周波数帯域幅の活用を可能にした。両者の技術を組み合わせ、既設の光ファイバーを用いて実際に伝送実験を行い、O帯、S帯、C帯、L帯、U帯でのマルチバンド波長多重伝送(伝送距離45km)を実証し、従来のC帯のみの伝送と比べて、波長多重度5.2倍の伝送が可能であることを示した。さらにシミュレーションでは、S帯、C帯、L帯、U帯でのマルチバンド波長多重伝送(伝送距離560km)を確認した。

 従来、コヒーレント伝送技術では、他の光信号成分に影響されてO帯伝送信号がゆがみやすく、O帯において生じやすい非線形雑音は、一般的にデジタル信号処理技術で取り除くことが難しいため、システム全体のパフォーマンスを低下させてしまう。このため、これまでO帯では、コヒーレント伝送技術の適用は難しいとされてきた。

 O帯における非線形雑音の最小化は、高密度に多重化した各波長信号に対する送信光パワーを適切に設定することで可能となった。このアプローチにより、送信機側の信号補正や受信機側での波長分散補償のプロセスを省略しても、非線形雑音の影響を最小化し、O帯の9.6THzにわたってコヒーレントDWDM伝送を実現した。ゼロ分散付近の波長帯であるO帯は、波長分散による影響が小さく、デジタル信号処理の負荷を軽減させ、エネルギー効率を向上させるという利点がある。

 今回、開発した技術を導入した光ファイバー通信網では、C帯を用いた商用光伝送と比較して5.2倍の波長多重度での伝送が期待でき、既設の光ファイバー設備を利活用することにより、経済的かつ省力的に伝送容量を拡大できると説明。さらに拡張工事が難しい都市部や密集地でも容易に伝送容量を拡大でき、サービス開始までの時間短縮やコスト削減も期待できるとしている。