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東芝、精度99.9%で物体を追跡するLiDAR技術を開発

 株式会社東芝は26日、自動運転や社会インフラ監視に不可欠な「目」の役割を担う距離計測技術「LiDAR」において、車両や人といった物体を、世界最高精度の99.9%で追跡する技術を開発したと発表した。同技術は合わせて、LiDARの取得データのみで、精度98.9%での物体認識を実現するとともに、耐環境性能および計測範囲の柔軟性を大幅に高めることに成功しており、これらは全て世界初の技術となり、LiDARのポテンシャルを大幅に向上するとしている。

 東芝では、近年、LiDARは自動運転としての用途に加え、カメラと併用して「空間のデジタルツイン」を構築し、空間上のあらゆるモビリティの自動化や、製造や物流ラインの全体最適化など、あらゆる産業の効率化につなげる取り組みが進められていると説明。一方、カメラとLiDARの取得データの活用においては、両データの空間的・時間的なずれによる認識精度の劣化が大きな課題となっているという。

 東芝は、LiDARのみで得られる2次元データと3次元データを高精度に融合する「2D・3DフュージョンAI」を開発した。これにより、「空間のデジタルツイン」の構築において、従来必要だった大量のカメラの設置が不要になることも見込める。

 「2D・3DフュージョンAI」は、LiDARで得た2次元データと3次元データを融合(フュージョン)して、AIを適用・学習することで物体を認識・追跡できる技術。2次元データと3次元データは、LiDARの同一の画素から同一のタイミングで読み込まれたデータのため、合わせ込みが不要で認識精度が劣化する懸念がない。このAI技術により、カメラを用いず、照明のない夜間でも、車両や人といった物体を世界最高精度の98.9%で認識し、99.9%で追跡することに成功した。

従来(上)と今回(下)の2D・3DフュージョンAI

 また、LiDARは赤外レーザーを用いるが、赤外光は水分に当たると吸収・散乱される性質があり、雨・霧・雪といった視界不良な屋外環境では計測精度が低下し、検知可能距離が短くなってしまう課題があった。

 そこで東芝は、アナログデータをデジタルデータに変換するADコンバータによって、反射光強度のデジタル値を基に、水などの散乱粒子による反射光の特徴量から、雨・霧なのか、計測対象なのかを判別し、雨・霧と判断したらその波形ごと取り除くことで、雨・霧に埋もれてしまった脆弱な反射光を含めて計測対象物からの反射光を抽出するアルゴリズムを開発した。

 同アルゴリズムを適用したLiDARを用いて、実環境を模擬した実験設備で検知可能距離を計測したところ、80mm/hの猛烈な雨環境においては20mから40m、視程40mの霧環境においては17mから35mと、従来の2倍以上に向上することが確認できたという。

 さらに、設置場所に応じて、LiDARの距離と画角によって決まる計測範囲を自在に変更できる「計測範囲可変技術」を開発。同技術により、長距離計測が求められる道路や線路などのインフラ監視に加えて、広角性能が求められる工場や倉庫内のAGV(Automatic Guided Vehicle)自動運転など、空間のデジタルツインでの適用を拡大できるとしている。

 東芝は、耐環境性能のさらなる研究開発を進め、ソリッドステート式LiDARの2025年度の実用化を目指す。モビリティの自動化や高精度なインフラ監視、空間のデジタルツインの構築など、LiDARの幅広い活用を想定し、インフラレジリエンスで安心・安全な社会の構築に貢献していくとしている。