ニュース

MetaMoJi、デジタル野帳「eYACHO」に“安全AI”を追加へ 労働災害の未然予防ソリューションへの進化を目指す

テレビ電話機能「GEMBA Talk(仮称)」も追加

 株式会社MetaMoJiは5日、建設現場などで利用するデジタル野帳「eYACHO」に、安全AIソリューションを追加。今後、ChatGPTに代表される生成AIと連携させ、労働災害の未然予防を実現するソリューションへと進化させる計画を明らかにした。また、2023年6月に完全子会社化したコトバデザインの技術を用いて開発中のテレビ電話機能「GEMBA Talk(仮称)」を、2024年3月を目標に追加する計画も発表した。

 eYACHOは、大林組との共同開発により、2015年8月に発売。建設現場で備忘録や測量結果の記録、打ち合わせのメモなどに利用される野帳(レベルブック)をデジタル化。タブレットやPCなどのデバイスを利用して、野帳の手軽さを維持しながら、デジタルによる管理性や生産性を高めることできるアプリケーションだ。

建設業界の変化に迅速に対応するMetaMoJi eYACHO

 今回発表した安全AIソリューションは、企業内に蓄積された労災報告書などのデータから、高精度な安全リスク評価のAIモデルを構築し、リスクを自動判定。職種や使用する機械、予測災害などから、独自のDynamic Checklistなどの帳票を生成し、徹底した安全対策が行える。2022年7月から試験運用を開始しており、その検証結果をもとに、今回の機能追加に至った。

 MetaMoJiの浮川初子代表取締役専務は、「約1年間に渡って、多くの現場でPoCを行い、成果を得ることができた。建設現場においては、事故に関する情報が少なく、どんなに広げても2000件程度である。これらをもとに、独自の知識AIエンジンをモデル化し、広い局面でも対応を図れるように、Dynamic Checklistを生成することができるのが特徴である。労働安全衛生総合研究所と共同研究し、実用化することができた」とする一方、「新たに生成AIエンジンを活用することで、AIをハイブリッド化し、精度を高めることができる。GEMBA Agentにより、チャットを通じた生成AIの利用も可能になる。今後は、安全管理だけでなく、品質管理、原価管理、工程管理にも広げ、安全AIから業務AIへと進化させ、施工業務全体に渡って、AIを活用することになる」と述べた。

MetaMoJi 代表取締役専務の浮川初子氏

 安全AIソリューションは、組織内外に散在している労働災害情報を、業種(I)、起因物(M)、事故の型(T)、作業その他の条件(O)、直接原因(C)の5つの要素からなるIMTOC表現によってデータベース化する「利用データ作成」、労働災害データから、自然言語処理AIがリスク予測データベースを自動構築して、データサイエンスに基づく分析からリスクを自動判定する「リスク予測データベース構築」、eYACHOやGEMBA Note上で、労災情報を登録し、Dynamic Checklistなどの帳票を生成して、徹底した安全対策を効率的に行うことができる「危険予知と安全対策の実施」で構成する。

 MetaMoJi セマンティック技術開発部ディレクターの高藤淳氏は、「災害データを分析し、災害知識モデリングを構築することで、そこから動的で、多面的なリスクへの注意喚起が可能になった。今後は、ChatGPTなどにより、未然予防につながる知識を結びつけて、未発生労働災害にも対応できるように進化させ、作業内容から危険性を察知し、表形式で事例を示し、その内容をKY(危険予知)活動表に転記できるようになる」などと述べた。

未発生労働災害への対応

 さらに、複数の現場を管理して、全体の安全性を高めるための気づきを与える「現場と管理部門との協調を実現」、現場での画像をもとにした判断や、危険性を伝えるために最適な画像を生成する「マルチモーダルAIへの展開」も進める考えを示した。

現場と管理部門との協調、マルチモーダルAIへの展開

 また業務AIへの進化については、現場からあがってくる安全巡視報告書や安全衛生検査報告書、施工プロセス報告書といった帰納的情報をデータサイエンスに分析。潜在化したノウハウや組織知を見える化し、業務ノウハウ知識モデルを構築する一方、労働安全衛生法や労働安全衛生規則、現場作業マニュアルなどの演繹的情報を、大規模言語モデルなどの生成AIを利用して業務ノウハウ生成モデルとして構築する。そして、業務ノウハウ知識モデルと業務ノウハウ生成モデルを組み合わせて、業務AIを構成することになるとした。

業務AIの基本スキーム

テレビ電話機能「GEMBA Talk」を提供へ

 一方、eYACHOに搭載する予定のテレビ電話機能である「GEMBA Talk」は、iPadやWindows PC、スマホを通じて簡単に利用ができ、複数拠点を結んだ対話が可能になるという。社内会議や遠隔臨場、ハドルミーティング、緊急対応といった用途を想定している。

GEMBA Talkのコンセプト

 MetaMoJi ネットワークサービス開発部部長の藤巻祐介氏は、「eYACHOによる業務の延長線上で、スムーズにテレビ電話機能を利用できる。要望が高かった機能であり、コトバデザインの技術を融合することで開発期間を短縮することができた」とする。

 また、「サーバーでは通話の内容を録画し、そのデータをもとに業務フローを最適化することで、生産性と働きやすさを大幅に向上させることができる。現場でのモバイル通信環境が悪くても、解像度優先モードで通信や録画を行ったり、電話のような呼び出し音で相手を呼び出したり、会議中に図面や帳票を切り替えて表示したりといった使い方も可能になる。緊急事態が発生した場合も、1分以内に複数拠点をつないで、対応策を協議できる環境が提供できる」と、そのメリットを説明した。

 なおMetaMoJiは、2023年6月に、コトバデザインを完全子会社化。同社が持つ自然言語処理技術や音声処理技術、ネットワーク技術を、MetaMoJiのeYACHOやGEMBA Noteなどの現場DXソリューションに統合する考えを示している。

 具体的には、独自対話AIエンジンを用いたAPIサービス「COTOBA Agent」や、同技術を活用して、低遅延で、映像付きグループ通話が行えるコミュニケーションサービス「COTOBA Talk」などを展開してきたノウハウをGEMBA Talkなどに生かすことになる。

 MetaMoJiの浮川和宣社長は、「コトバデザインの買収は、先方からの申し入れがあり、快く引き受けた。AIを活用して人に寄り添い、人の考える力を支援するアプリケーションを、より早く、より高度に提供できる企業である」とした。

MetaMoJi 代表取締役社長の浮川和宣氏

今後のeYACHOの進化について

 さらに次期eYACHOでは、施工管理業務メニューを追加し、企業や現場における業務プロセスの標準化を支援する考えも示した。図面では、工事写真管理や電子小黒板機能、点検では検査指摘管理や電子納品機能、承認では通知機能や開発管理機能を提供することになるという。

 また、eYACHOをBIM/CIMに対応させることにも触れ、MetaMoJi 徳島R&Dセンター センター長の宮田正順氏は、「eYACHOに、BIM/CIMの必要なデータを取り込み、可搬性を維持しながら、3D空間を再現できるようになる。BIM/CIMデータを活用した設計レビューや、施主との打ち合わせ記録および伝達、完成後のメンテナンス記録など、一貫したモデル利用が可能になる」とした。

eYACHOを使ったBIM/CIM活用のユースケース

 そのほか、eYACHOによるIoT連携の強化にも乗り出しており、ディジ・テックのDKA-102や、リコーのTHETAなどの接続を実現していることを紹介。さらに、データ連携オプションやSalesforce連携オプションにより、外部からのデータ取り組みの効率化も実現しているという。

eYACHOとデバイスとの接続

 MetaMoJiでは、今回発表した業務AIや施工管理業務メニュー、BIM/CIM活用、GEMBA Talkに関して、β版を用いた先行試用企業を募集する。また、IoT連携や検査機器連携、ソリューションに関するソリューションパートナーを募集。いずれも2023年10月30日を締め切りとしている。

 浮川専務は、「建設業界に利用を広げていくためには、ユーザーやパートナーが持つ知見を活用する必要がある。eYACHOに透かしては、充実した開発環境を提供することができ、パートナーのビジネス拡大にもつなげることができる」と述べた。

 MetaMoJiの浮川社長は、「人類が文化を発展させることができたのは、考える力が備わっていたためである。コンピュータは、人間が考えることを支援する役割を担い、さらにAIは創造的な価値を生み出し、人間が持つ可能性を拡大することができる。MetaMoJiは新たなアプリケーション開発に向けて、全速力で走っている」と述べる。

 一方、「AIは奥が深いものであり、まだ始まったばかりである。だが、自分がやりたいことを質問したら、それに対して意見を言ってくれる時代がすでに訪れている。生成AIによって、ゴリゴリとプログラミングをしたり、ゴリゴリと使い倒したりという時代ではなく、より楽しく使える世界がやってくる。使う側がワクワクする時代がやってくる」と発言。

 また浮川専務は、「生成AIによるさまざまな可能性に期待している。さまざまな人が簡単に試すことができる点も生成AIの特徴である。大きなパラダイムシフトであり、いまは次世代AIの入り口に立っているところだ。将来のMetaMoJi Noteにも生成AIを活用したり、製品に関する問い合わせに生成AIを利用したりといったことも考えている」と語った。

eYACHO 中期ビジョン

 なお、同社では、7月5日~7日までの3日間、オンライン年次イベント「MetaMoJi Days 2023」を開催し、今回の新製品などについて発表した。さらに、製造業や建設業、医療、自治体、教育分野などにおける現場DXソリューションの事例などを紹介している。事前登録制で、無料で参加できる。