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AWSジャパン、包括的クラウド移行支援「ITトランスフォーメーションパッケージ」の最新動向を説明

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)は26日、日本独自のプログラムである「ITトランスフォーメーションパッケージ(ITX)」の新たな取り組みについて説明した。

 2023年4月に日本で開催されたAWS Summit Tokyoにおいて、新たなパッケージとして、「ITXパッケージ2023ファミリー」を発表。以前から提供しているクラウド移行プロジェクト支援の「ITX for Cloud First」に加えて、クラウドならではの技術を活用して最適化を支援する「ITX for Cloud Native」、MCP(移行コンピテンシーパートナー)が持つ付加価値を生かしたプログラム群を提供する「ITX for MCP Partner」、中小規模システムを対象としたクラウド移行支援プログラムの「ITX Lite」で構成する。

ITパッケージ2023ファミリー

 AWSジャパン 執行役員 事業開発統括本部長の佐藤有紀子氏は、「これまでのITXでは、クラウドへのリフト&シフトを支援してきたが、お客さまからは、クラウドに移行するのであれば、クラウドならではの技術を活用したいといった声や、AWSのマネージドサービスを活用したいといった声が上がっていた。こうした要望にも応えることができるパッケージになっている。クラウド移行に伴うさまざまな課題を解決できるように進化させた」と語り、「お客さまのクラウドジャーニーの『現地ガイド』として、クラウド移行プロジェクトに対する最適な支援を行う」と述べた。

AWSジャパン 執行役員 事業開発統括本部長の佐藤有紀子氏

 同社では、2021年4月に、日本企業を対象にしたクラウド移行支援のための独自トータルパッケージとして、「ITトランスフォーメーションパッケージ」の提供を開始。複数の支援プログラムから構成し、状況やニーズにあわせて、必要なときに、必要なプログラムを活用できるようにした点が特徴となっていた。さらに、2022年3月には、ITX2.0に進化させ、持続可能性に対する支援と、CSM(カスタマーソリューションマネージャー)による伴走体制を強化してきた。この2年間で、170社を超えるさまざまな業種の国内企業が、ITXおよびITX2.0を利用しているという。

AWSジャパンのクラウドジャーニー支援の進化

 AWSジャパンの佐藤執行役員は、「AWSへのシステム移行を行ったり、クラウド技術を新たに活用したりする場面では、さまざまな困難を伴うことになる。技術的課題は企業各社に共通しているため回答を探しやすいが、非技術課題は個社によって異なる。そこで、AWSではそれぞれの顧客に応じたきめ細かな支援を行っている」とし、「DX推進に必要となるクラウド移行環境の整備や、モダナイゼーションを包括的に支援するパッケージとして多くのお客さまにITXを活用してもらっている。ITXによって、DXに向けた大規模で、複雑で、長期間に渡るマイグレーションプロジェクトの立ち上げや、これを軌道に乗せることに加えて、DXに必要な人材開発なども進めることができる。DXの取り組みを遠回りすることなく、ビジネス上の成果につなげられる」とした。

 「ITX for Cloud First」は、リフト&シフト移行プロジェクト支援の最新版と位置づけており、クラウド移行に伴う評価、準備、移行のそれぞれフェーズにおける取り組みを支援。サステナビリティに関するメニューも新たにそろえている。具体的には、クラウド移行によるCO2排出削減量の試算、AWSのクラウドサービスを利用することで削減できるCO2排出量の可視化、クラウド移行によって不要になるサーバーやストレージを環境に配慮した形で廃棄、リサイクルするプログラムなども用意している。

ITX for Cloud First

 「ITX for Cloud Native」では、クラウドネイティブ化に向けて、検討、評価、準備、移行の4つのフェーズにわけてプログラムを提供する。「クラウドネイティブへの道のりは、リフト&シフトを行ってから、クラウドネイティブ化に取り組む方法と、オンプレミスなどの環境から一気にクラウドネイティブ化する取り組みがある。どちらがいいということではなく、企業それぞれの環境にあわせた選択が重要であり、ITX for Cloud Nativeでは、そのいずれも支援することができる」という。

ITX for Cloud Native

 検討フェーズでは、クラウドネイティブ戦略策定(MSW:Modernization Strategy Workshop)プログラムを用意。これからモダナイゼーションを検討する企業や、迅速にモダナイゼーションの中長期戦略に道筋をつけたい企業などを対象に、「ビジネス戦略やIT戦略の課題の整理」、「システムの特性分析」、「モダナイゼーション対象システムの選定と方針作成」、「移行ロードマップ策定支援」の4つのステップで支援する。オンプレミスやすでにリフト済みのシステムに対して、モダナイゼーションの候補となるシステムの抽出や妥当性を評価。クラウドネイティブ戦略を約2カ月間で立案できるという。

Modernization Strategy Workshopプログラム

 また、評価フェーズでは、アーキテクチャ検討支援(MODA:MODernization Assessment)プログラムを用意。AWSの専門チームが、特定業務システムをさまざまな観点から評価、分析し、約4週間で、モダナイゼーションのポイントを提示したり、To-Beアーキテクチャ案を提示したりする。ここでは、モダナイゼーションのポイントを見極めるために、ビジネス、アプリケーション、DevOpsの観点からヒアリングを行い、回答をもとに報告書を作成することになる。

アーキテクチャ検討支援

 ある企業では、システム子会社を通じて、メンテナンス系システムを、オンプレミスからクラウドネイティブに移行することを決定したが、1700システムの移行コストが数億円単位になることがわかり、移行プロジェクトが停止に追い込まれようとしていたという。そこでMSWやMODAなどのプログラムを活用し、移行コストを削減。インフラ費用では年間4億円弱を削減。クラウドネイティブのフル活用によって年間30億円のビジネス価値の向上が生まれることがわかったという。

 「クラウド移行は、リロケート、リホスト、クラウドネイティブの3つのステージを経由した道のりとなる。ステージが進むにつれて、ビジネスの価値は高まる。コンテナ化により一人あたりが管理可能なサーバー台数が80%向上したり、サーバーレスアーキテクチャの採用により、インフラコストを39%削減したりといったようにクラウドネイティブ化することで、ビジネス価値は加速する。だが、それに伴い、移行にかかる時間やコストがかかることになる。MSWやMODAを含めたITX for Cloud Nativeによって、それらの課題を解決できる」とした。

クラウド移行(クラウドジャーニー)の道のり

 「ITX for MCP Partner」では、MCPが提供している移行プログラムと、AWSが提供している移行モダナイゼーションプログラムを統合したオファリングとなる。

 「MCPは、クラウド移行のためのコンピテンシーを保有しているパートナーであり、MCPが持つビジネスに関する専門知識、移行ツール、モダナイゼーションツール、教育支援を活用することができる」とする。なおMCPの1社であるSCSKでは、2023年4月に、「ITトランスフォーメーションパッケージ for MCP SCSK版」を発表しており、複数の顧客と検討を開始しているという。

ITX for MCP Partner

 「ITX for Lite」は、中小規模のクラウド移行を支援するトータル支援プログラムになる。「中小規模システムのクラウド移行では、規模や人材、時間、資金の違いにより、大規模クラウド支援サービスを活用するのが難しいという実態があった。その課題を解決することができる」とする。評価、準備、移行の3つのフェーズにおいてプログラムを用意。詳細について、別途説明を行う機会を設けるとした。

ITX for Lite

ビックカメラのDX戦略

 会見では、ビックカメラのDX戦略について説明した。

 ビックカメラは、2022年6月に「ビックカメラDX宣言」を発表。AWSを全面的に採用し、店舗とオンライン販売の融合であるOMO戦略の推進や、基幹システムのクラウドネイティブへのモダナイゼーション、AWSをフル活用したシステムの内製化に取り組んでいる。

 ビックカメラ 執行役員 デジタル戦略部長の野原昌崇氏は、「家電量販店の場合は、来店機会が家電製品の買い替え時となるため、毎週のように店舗を訪れるというお客さまは少なく、毎年、テレビを買い替えるというお客さまもいない。つまり、購買履歴データベースは役に立たず、購入前の関心データベースが重要になる。だが、関心データベースの仮説はあるものの、正解はわかっていない。これを構築するにはトライ&エラーが必須である。クラウドだからこそ、新たな取り組みの仮説検証をアジャイルに推進できると考えている」としたほか、「基幹システムは、2023年秋にAWSへのリフトが完了する。今後、クラウドネイティブアーキテクチャへのシフトを進めることになる。ビックカメラDXにより、『お客様喜ばせ業』の深化を目指す」などと述べた。

“お客様喜ばせ業”の深化を目指す“ビックカメラDX宣言”
ビックカメラ 執行役員 デジタル戦略部長の野原昌崇氏

 ビックカメラでは、AWSのITXを活用。「ITXによって、経営層が疑問に考えていることに対する説明が容易になったり、心配に感じていることを解決できるようになったりする。また、今回のモダナイゼーションは、大規模システムが対象であったため、リフト&シフトの2ステップにしたが、中小規模システムであれば、最初からクラウドネイティブへの移行を検討すべきである。だが、要件定義の段階でSIerに言っても実現は難しい。計画策定の段階で、どのクラウドネイティブアーキテクチャを採用するのかといったことを明確にする必要がある。そのためには内製人材がスキルを高めなくてはならない」などと語った。

基幹システム・モダナイゼーション(23年秋 AWSリフト完了から本格スタート)