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日本マイクロソフト、「Azure Health Data Services」を2023年上期中に日本リージョンで提供開始

 日本マイクロソフト株式会社は23日、ヘルスケア分野での取り組みに関する説明会を開催し、「Azure Health Data Services」を2023年上期中に日本リージョンでも提供開始することを明らかにした。

 Azure Health Data Servicesは、FHIR(高速ヘルスケア相互運用性リソース)に準拠した「Azure API for FHIR」の進化版で、グローバルでは2022年から提供していたものだ。異なる種類のデータをクラウドで統合するソリューションで、構造化データや非構造化データ、画像データなどをまとめて連携し、リアルタイムに把握できるという。業界標準のデータ連携を意識し、「FHIR形式のデータだけでなく、DICOM形式の画像データや、ウェアラブルデバイスから個人データを拾うIoMT(Internet of Medical Things)データとも連携可能。これらを総合的に分析し、見える化する」と、日本マイクロソフト 業務執行役員 ヘルスケア統括本部長の大山訓弘氏は説明している。

Azure Health Data Servicesについて

 同サービスは、患者個人に合わせて個別最適化された医療を提供するプレシジョン医療の実現を支援するものだという。プレシジョン医療では、病気の予測や治療の個別化、遺伝子治療などが実施されるが、大山氏は「ITという側面からは、AI、PHR(Personal Healthcare Record)、ゲノムという3つの技術がポイントになると考えており、これらを統合的に連携して分析し、プラットフォームでつないで見ていくことが重要だ」としている。

プレシジョン医療の実現に向けて

ヘルスケア領域で広がるAIの活用

 昨今急速に進んでいるAIの活用だが、注目を浴びているOpenAIの「ChatGPT」についてもヘルスケア領域での活用が進むと大山氏は話す。活用シーンのひとつとして大山氏は、患者とのコミュニケーションや文章解読での活用シナリオを挙げ、「コミュニケーションの自動化で時間の効率化が進むほか、医学研究論文の要約や、さまざまな医療情報を横断的に検索することなどにも活用できる」としている。

日本マイクロソフト 業務執行役員 ヘルスケア統括本部長 大山訓弘氏

 さらに、GPT-4からは画像が扱えるようになったことから、「すでに医療画像のAI診断支援は広がっているが、GPT-4を活用することで、診断の高度化が期待できる」という。

 また、Microsoft Researchでは生物医学分野に特化した「BioGPT」を開発し、すでにGitHubで公開している。GPT-2ベースのため英語版のみとなるが、対話型AIとして医学用語を理解しており、生物医学論文のリソースとなるPubMedから情報を収集。「従来のPubMedは検索しかできなかったが、BioGPTでは対話型で必要な情報を収集でき、専門家と同等の質問応答タスクが実現できる」という。

 3月20日には、昨年買収したNuance Communications Inc.と共同で、GPT-4を活用した医療従事者向け臨床文書の自動化アプリ「Dragon Ambient eXperience(DAX) Express」も発表。DAX Expressでは、Nuanceの会話形AIとアンビエントAI、GPT-4を組み合わせ、DAXで4時間かかっていた臨床メモの作成を数秒で完了できるとしている。「今後実用化が進むと、医師と患者が会話するだけで高度な文章が自動的に作成できる時代が来る。医療従事者は、文書作成にかかっていた時間を患者と向き合う時間に使い、より高度な患者ケアができるようになる」と大山氏は述べている。

ゲノム解析にも貢献

 大山氏は、マイクロソフトがゲノム解析の分野でも価値を提供しているとして、主に「ゲノムデータの研究と発見」「大規模な自動化と分析を可能にするプラットフォームの構築」「臨床レベルで最適化された安全な解析環境作り」という3つの領域に注力していると述べた。

 ゲノム解析業務を幅広く支援するマイクロソフトのクラウドサービスでは、「ゲノム解析の基盤を提供することで、さまざまなデータソースからデータを連携し、スケーラブルで柔軟なハイパフォーマンスコンピューティング環境における解析や、機械学習およびAIの活用による高度なデータ分析の支援、また、そのデータを一気通貫に届けるというBIも含めたプラットフォームが提供できる」と説明。このほか、解析業務以外の事務作業を支援するソリューションもまとめて提供できるとアピールした。

マイクロソフトにおけるゲノム解析

 東京大学 医科学研究所 博士の井元清哉氏は、現在利用しているゲノム解析プラットフォームを、オンプレミスからクラウドに移行する計画だと話す。「これまでは、多様な情報の解析に個別に対応し、人力で統合していたが、これからはAI技術で統合的に解析し、人が理解できる形で提示できるようになる。このAI技術による解析は非常に重要で、マイクロソフトの最先端技術にも期待している。現在がんに関するプロジェクトを進めているが、マイクロバイオームや環境データなど、健康や疾患治療に関する情報を含め、新しい情報を生成するプラットフォームとして、このような最先端技術を活用していきたい」と井元氏は語った。

東京大学 医科学研究所 博士 井元清哉氏

医療分野に欠かせないセキュリティ

 最後に大山氏は、医療情報セキュリティに対する取り組みとして、厚生労働省の委託事業である「医療情報セキュリティ研修およびサイバーセキュリティインシデント発生時初期対応支援・調査事業」に、一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)とともに参画していると述べた。

 この事業は、徳島県で発生した医療機関におけるランサムウェア事故が発端となって発動したものだ。具体的には、医療機関でのサイバーセキュリティ教育の実施や、インシデント対応手順の調査と事業継続計画の見直しに向けた調査、インシデントが発生した際の初動対応支援などを実施しており、マイクロソフトでは講師の派遣や教育コンテンツの提供を行っているという。

 大山氏は、Windowsをはじめとするマイクロソフト製品が医療情報端末としても幅広く利用されていることから、「社会的使命を果たすという意味でも、このような事業に積極的に参画し、日本全体の医療情報を安全に保つ取り組みを進めていきたい」と述べた。

医療情報セキュリティに対する取り組み