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東芝、機器の稼働音を解析して劣化の兆候を捉える「音響劣化推定AI」技術を開発

 株式会社東芝は16日、機器の稼働音を解析し、劣化の兆候を高精度に捉える音響劣化推定AI「VAE-DE(Variational AutoEncoder-based Deterioration Estimation)」を開発したと発表した。

 東芝では、稼働音による機器の状態監視においては、AIを用いた監視技術の開発が進んでいるが、実際の現場では、周りにある他の機器や空調設備などのノイズが入り込み、AIがこうしたノイズを異常として誤検知してしまう課題があると説明。特に、長期稼働する機器は一般的に数年の時間をかけて徐々に劣化が進行し、劣化の初期段階に稼働音に現れる異常は微弱であるため、従来のAI技術では、劣化を早期に検知しようとすると周囲のノイズに対しても感度が高くなるため、誤検知の増加につながっており、状態基準保全の分野においては、「劣化傾向の早期検知」と「ノイズによる誤検知低減」の両立が求められているという。

 そこで東芝は、「機器の正常な稼働音」と「劣化傾向にある稼働音」の違いを識別しやすくするため、人間の脳の仕組みを模したAIの計算モデルであるニューラルネットワークを用いて機器の稼働音の特徴を学習することで、劣化傾向にある微小な稼働音の変化を検知する性能と、周囲のノイズに影響されない頑健性を両立するAI技術「VAE-DE」を開発した。

 開発したAIは、データの特徴を自動で見つけ学習する「深層学習」の手法の1つである「変分オートエンコーダ(VAE)」のネットワークを用いて、正常音と劣化傾向音を離すように設計された独自の基準を用いて学習する。従来のVAEは、正常音にノイズが混ざった場合でも誤検知を起こすことが少ない一方、微弱な劣化傾向音も正常音として見逃してしまうリスクがあった。開発したAIでは、ノイズに対して誤検知を起こしにくいVAEの手法をベースにしながら、新たに正常音と劣化傾向音を分離する独自の基準を用いて学習することで、微弱な劣化傾向音のみを正常音の範囲外として検知できる。

提案手法の概略
提案手法による微弱な劣化傾向検知のイメージ

 東芝は、開発したAIの有効性を、冷却ファンを用いて検証した。冷却ファンは多くの機器に搭載されており、機器本体の正常な動作に不可欠で、ファンは常に高速で回転していることから機器本体よりも早く劣化することが多く、その劣化速度はファンの個体差や機器の利用状況によって大きく異なることから、冷却ファンが故障停止する前に交換できるよう状態基準保全が望まれている。

 東芝はまず、実際に電力設備にて数年間使用された冷却ファンの稼働音を収集・分析し、劣化傾向が、人には認識できない「高周波非可聴音」の微小な上昇として確率的に発生することを確認した。次に、この劣化傾向音と電力設備内に発生する電気的なノイズを再現したシミュレーションデータに対してAIを評価したところ、稼働音から機器の劣化状態を推定した値である「劣化推定値」と実際の機器の劣化状況を示す「劣化傾向」の相関について、相関係数が0.144から、非常に高い相関を示す0.905に大きく向上した。これにより、開発したAIを用いることで、従来は困難であったノイズによる誤検知を抑制した高精度な劣化の推定が可能となることを確認したという。

評価結果である劣化度合いと推定値の関係。エラーバーは推定値のばらつきを示す

 開発したAIは、周囲のノイズによる誤検知を抑えながら、早期に機器の異常や劣化の兆候を捉え、機器ごとに異なる劣化の開始のタイミングでの状態基準保全の実現に貢献するとしている。

 東芝は、今回開発したAI技術を、電源設備の冷却ファン向けに早期に適用することを目指すと説明。さらに今後、社内外の工場やIT設備において、長期間連続で稼働する冷却ファン以外の機器などへの適用拡大を目指し、高精度な状態基準保全の実現に貢献していくとしている。