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AMD、L3キャッシュが3倍になった“Milan-X”こと「3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYC」を正式発表

 米AMDは3月21日(現地時間)に報道発表を行い、同社が「Milan-X」の開発コードネームで開発を続けてきた「3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCプロセッサー」(英語名:3rd Gen AMD EPYC Processors with AMD 3D V-Cache technology、以下3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYC)を正式に発表した。

 3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCは、CPUダイの上に3D方向にL3キャッシュを積層して搭載しており、L3キャッシュが、従来型の第3世代EPYCの1ソケットあたり最大256MBから、一挙に3倍の768MBに増やされていることが特徴となる。

3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCプロセッサー(英語名:3rd Gen AMD EPYC Processors with AMD 3D V-Cache technology)

第3世代EPYCにキャッシュメモリをマシマシにした3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYC

 AMDが発表した3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCは、昨年の3月にAMDが発表した「第3世代AMD EPYCプロセッサー」(以下、第3世代EPYC)の改良版にあたる製品となる。

AMD、“Milan”ことZen 3コアに進化した第3世代EPYCを発表
キャッシュ階層の改良でIPCを向上、6chメモリもサポート
Intelの第2世代Xeon SPと比較して倍以上速いと公表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1312224.html

 この第3世代EPYCの開発コード名はMilan(ミラン、イタリアのミラノのこと)と呼ばれていた製品だったが、今回発表された3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCは、開発コード名がMilan-Xとなっており、その開発コード名からも第3世代EPYCの改良版であることがわかる。

第3世代EPYCと3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCのスペック比較(AMDの資料より筆者作成)

 3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCの特徴は、その製品名の一部でもある「3D V-キャッシュ」を搭載していることにある。3D V-キャッシュとは、CPUダイの上に3D方向に積層されたSRAMダイのことで、それにより1つのパッケージ全体のL3キャッシュが増やされているのだ。

 AMD EPYCの歴史は、パッケージ実装技術の進化と言い換えてもいい。初代のEPYCでは1つ8コアのCPUダイが4つパッケージ上に実装されており、最大32コアのCPUが実現されてきた。第2世代では、CPUダイとI/Oダイ(IOD)が分離し、1つ8コアのCPUダイが最大8つパッケージ上に実装されて、1つのパッケージで64コアというCPUコア数を実現。それによって飛躍的に性能が向上した。

 そして昨年登場した第3世代EPYCでは、L3キャッシュの構造が変わった。第2世代EPYCではCPUダイ(8コア)が内部で4コア+4コアになっており、その4コアそれぞれに16MBのL3キャッシュがある形になっていた。それに対して第3世代EPYCではCPUダイの8コアが1つのブロックになっており、32MBのL3キャッシュをすべてのCPUがシェアする形になっていた。

 今回発表された3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCでは、そうした第3世代EPYCでの改良されたCPUダイ上のL3キャッシュに加えて、64MBの容量を持つSRAMダイがCPUダイの上に積載され、CPUダイあたり96MBのL3キャッシュを搭載することになる。64コアCPUではパッケージ全体で768MBとなり、従来製品の容量である256MBと比較して、L3キャッシュの容量が3倍に増えることになる。

EPYCのパッケージ内部の構造進化の歴史(筆者作成)

 L3キャッシュが増える意味は、メモリレイテンシが削減されるという点にある。メモリレイテンシとは、CPUがメモリからデータを読み込んで来るまでの待ち時間のことで、それが短ければ短いほどCPUの性能は向上する。メインメモリであるDRAMはCPUからみると非常に遅いので、それを回避するためにSRAMがキャッシュ(一時的にデータを保存しておく場所のこと)として利用されており、L3キャッシュの容量が増えれば増えるほど、一度使ったデータをそこに置いたままにしておけ、メモリへのアクセスを減らすことが可能になる。これにより、レイテンシの削減とメモリ帯域への圧迫を減らすという2つのメリットが出てくるのだ。

科学技術演算やシミュレーターなどHPCアプリケーションで大きく性能が向上とAMDは説明

CPUダイの上に積層される3D V-キャッシュ

 AMDは、こうしてL3キャッシュが増量されることで、CPU全体の性能が大きく引き上げられると説明している。64コアのEPYC 7773X/2ソケットと40コアのXeon Platinum 8380/2ソケットとの比較では、Altiar Radiossで44%、ANSYS Fluentで47%、ANSYS LS-DYNAで69%、ANSYS CFXで96%上回るというベンチマーク結果を公表した。

 また、32コアのEPYC 7573X/2ソケットと32コアのXeon Platinum 8362/2ソケットとの比較では、Altiar Radiossで23%、ANSYS Fluentで37%、ANSYS LS-DYNAで47%、ANSYS CFXで88%上回るというベンチマーク結果を公表している。今回AMDが公表したデータはいずれも科学技術演算やシミュレーションなどのツールでの結果であり、わが国の主要産業である自動車産業や製造業などで利用されているそうしたツールでの効果が大きいということが結果からも見てとれる。

 AMDによれば、第3世代EPYCには以下のSKUが用意されている。

 価格は第3世代EPYCの最上位モデルだった7763(64コア、ベース2.45GHz、ターボ時最大3.5GHz)が7,890ドルだったのに対して、3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCの最上位モデルは8,800ドルに設定されており、この1000ドル分がL3キャッシュ増えた分という価格設定になっていると考えられる。

3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCのSKU(AMDの資料より筆者作成)

 ただ下位モデルに関しては、CPUダイの数を減らすのではなく、例えば16コアでもCPUダイは8つあることになっており(つまり1つのCPUダイは2コアのみが有効にされているということだ)、L3キャッシュの量は上位モデルと同じになっている。これにより、下位モデルを選択した場合でも大容量のL3キャッシュという製品の特徴は維持されることになる。メモリレイテンシやメモリ帯域が重要視されるアプリケーションを利用するユーザーにとっては、うれしいSKU構成になっていると言えるだろう。

 AMDによれば、3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCは既に3月21日(現地時間)より提供が開始されており、Atos、Cisco、Dell Technologies、GIGABYTE、HPE、Lenovo、QCT、SupermicroなどのOEM/ODMメーカーから提供が開始されているとのこと。また、MicrosoftのパブリッククラウドサービスMicrosoft Azureでも「Azure HBv3 Virtual Machine」が3D V-キャッシュ搭載第3世代EPYCに順次アップグレードされ、Microsoftでは、HPCのワークロードで最大80%の性能向上が実現されると説明していると、AMDは言及した。