ニュース

中堅企業のDX実現に向けて――、デルのDXコンテスト入賞企業9社が残り半年の進捗状況を説明

 デル・テクノロジーズ株式会社は13日、「中堅企業DXアクセラレーションプログラム 第二回 中間報告会」を開催した。

 2020年10月に開催したコンテストに入賞した9社が、デルと奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)支援のもと、自分たちが立てたビジネスプランをどのように具現化させているのかについて、開始から半年が経過した、プログラムの中間期間での進捗状況を紹介した。

 プログラムを推進するデル 上席執行役員 広域営業統括本部長の瀧谷貴行氏は、「1500社の中堅企業にアンケート調査を実施しているが、2020年と2021年の調査結果を比較したところ、コロナ禍以降の業績の回復動向と事業変革の相関関係は、取り組みを行っている企業の51.7%が回復傾向にあることが明らかになった」ことを指摘。2021年の施策として中堅企業のデジタル化を支援していくことをアピールし、DXを実践することの重要性を訴えた。

中堅企業のDXを支援する取り組みの一貫として実施

 デルでは日本の中堅企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために、今回の中間報告会を実施したプログラムをはじめ、実態調査を行うアンケートなど、さまざまな取り組みを行っている。

 アンケートやヒアリングから得た声をもとに中堅企業の実態を踏まえ、2021年に、デル・テクノロジーズの中堅企業向け新施策「DXコンサルティングエコシステムの構築」を策定した。

 「DXに踏み出すにはコンサルティングが必要になるが、中堅企業の皆さまから『スコープが広すぎる』『参加しにくい』という声をいただいていた。そこで中堅企業のDXに特化したプログラムとするなど、修正を行っている」(瀧谷氏)という。

 さらに、昨年も提供していた、中堅企業DXエンジニア養成講座・無償デジタル化教育を、今年も引き続き提供しており、今回のプログラムに参加する企業のメンバーも多数参加しているという。

 今回のプログラムについては、発表会が実施期間1年のちょうど半分となる、スタートから半年となった。瀧谷氏は、「各企業の皆さんのDXのスコープ、戦略の立案、実現可能性の検討が終了し、いよいよプロトタイプ開発、評価というフェーズに入ってくる。大変大切な時期であり、皆さんの発表を聞くのを楽しみにしている」と今回の中間発表を行った狙いを説明した。

CDISC-SDTM BlockchainTeam

 製薬会社やシステム会社のメンバーが集結したチームであるCDISC-SDTM BlockchainTeamは、「ブロックチェーン技術を用いた臨床データの共有プラットフォーム」に取り組んでいる。臨床データを共有し合うことで、統合解析を行い新たな医学的知見を発見することを目指しているが、その際、大きな課題となる個人情報保護について、ブロックチェーンなどの技術を活用して解決することを目指すという。

 現在進めているのが、P2Pでデータを分散管理するIPFS(Interplanetary File System)を活用し、BlockchainでIPFS上に存在するデータのロケーションおよびデータアクセス権の管理を行う方法。データアクセス権はABE暗号を組み合わせることによって構築する。

 具体的には、以下の技術検証を進めているとした。

・データオーナーがIPFSに臨床データ(SAS data)を公開鍵で暗号化して格納
・データオーナーがETHEREUMに、SAS dataのハッシュ値と暗号化SAS dataの秘密鍵をデータユーザーの公開鍵で暗号化して格納
・データユーザーがETHEREUMから暗号化されたSAS dataのハッシュ値と暗号化SAS dataの秘密鍵を取得し、自身の秘密鍵で復号
・データユーザーがハッシュ値と秘密鍵をもとにIPFSからSAS dataをダウンロード 上記が完成した後にABE暗号を用いた仕組みを検証
・技術検証を踏まえた上でより詳細なプロセス案の検討、およびその技術検証

 今後は技術検証と実用化案の検討を行う。すでに臨床データ共有に関するBlockchain適応案については、2020年に国際特許を申請しているが、新たな有用な知見が発見された場合には請求項を追加することも検討しているという。

イグス株式会社

 イグス株式会社は、「AIによるデータ精度向上及び災害対策サービス」の進捗状況を発表した。同社はドイツに本社がある日本法人で、樹脂製の機械部品の開発・製造・販売を行う。AIを用いて、英語で記載された製品名、企業名、住所の正確な日本語化に取り組んでおり、現在進めている会社名、住所の名寄せについて紹介した。

 このうち会社名については、4月19日から検証を行っている手動更新と変換CSVへ追加する検証について紹介した。9日間で更新件数は9548件、作業時間は約2.5時間から約2時間に短縮された。一見、大きな時間短縮には思えないが、稼働日数が20日になれば約10時間の削減となることから、少なくない効果だと評価しているという。今後は、抽出条件を追加して対象データを拡大し、変換可能なデータの追加、データ精度のさらなる向上を目指していく。

 住所については、資料作成と調査を行っている段階で、日本郵便のダウンロードデータとAPI活用の比較を行ったが、日本郵便のAPIはデータに不足があることから、今まで通りダウンロードデータを使用する方針だ。それ以外の開発方針決定後、現状の仕組みをPythonで作り直す計画だ。できるだけ手動作業から自動化への移行を進める。

 今回のプレゼンテーションでは、日本郵便のデータについてダウンロードCSVとAPIのデータを、さまざまな角度から比較して紹介した。

株式会社ヴィッツ

 株式会社ヴィッツは、名古屋に本社があり、組み込みソフトウェアの開発、設計などを行っている企業だ。今回、製造業のボトルネックを解消するため、同社が開発しているソフト「SF Twin」を活用したプロジェクトである「SF Twin WAND」について紹介した。

 プロジェクトは、生産設備の課題を3Dデジタルツインで解決するソリューションSF Twinの、完成形に至る道筋を構築する活動。プロジェクトに名称があると利便性が高いということでプロジェクト名を設けているが、そのSF Twin WANDの“WAND”は、「WITZ」、「Atelier」、「NAIST」、「DELLtechnologies」の各組織の頭文字をとって名付けられた。WANDという単語が、魔法使い・手品師・妖精などが使う細くてしなやかな棒、つえを意味することから、狙いに合致していることも命名の要因となった。

 このプロジェクトは、礎となっている次の5つの技術を育成していくことで完成につながるとして、スタート直後から進捗状況を公開している。現在の進捗状況は次の通りとなっている。

 ・SF Twinのプラットフォーム(名称:SF TwinPF1.0)=前回報告通り完成済み
 ・仮想工場の構築技術(名称:SF TwinSIL)=前回報告30%から進行し60%
 ・IoTデータの正確なトラッキング、Cyber-Physicalを安定、高速に接続する技術(データ収集IoTブリッジ)=前回5%から10%へ
 ・設備の安全標準、ルールからの逸脱予測技術(名称:Diagnosis and Risk Prediction)=前回の0%から今回1%に
 ・群制御(ただし、作業者(人)の動きは自由意志とする)による(名称:AIRefinement)=前回の0%から1%に

 また、デルから副賞として提供されたPowerEdge R740XDの利用を開始し、関係省庁、企業へのヒアリングも実施した。その結果、大手企業では生産効率の改善につながる革新的なアプリケーションの開発を期待していることや、中小企業や経済産業省は、中小企業でも導入できる「安価」「簡単」「今すぐ効果」のソリューションを期待していることなどが明らかになったという。

株式会社ピーチ・ジョン

 下着の製造・販売などを行っている株式会社ピーチ・ジョンは、「社内AIポータル構想」の進捗状況を報告した。組織全体にAI利用を波及させ、「数ステップで社内の誰もが簡単にAIを利用できる環境の整備」を目指している。そのためにさまざまな部署で利用できるよう、AIをポータルとして提供する。

 また、AIを活用することで製品の製造・販売を行う事業者にとっては大きな課題である「需給予測」と、「需給予測に基づいた最適な在庫数量の算出」を実現することも目標としている。「完璧な予測を行うことは現状では不可能と思うが、人が算出した値より、より論理的、かつエビデンスベースで、有効な参考値が得られれば、十分に成功と呼べると考える」ことから、実務に活用できるAIを目指している。

 2021年2月までの段階で、分析対象として扱えるデータとして購買情報、在庫情報、ECサイトの検索データがあることが明らかになっていたが、2021年5月までの間にクラスタリングとデータの分類、相互関係数の調査を行った。

 また、自然言語分析を実施し、ECサイト商品説明のベクトル化、コサイン類似度の測定も実施。さまざまな観点から需給予測を正確にするための試行錯誤を進めている。

平井精密工業株式会社

 平井精密工業株式会社sは、大阪市に本社を置くフォトエッチング加工、複合加工を行う企業。「歩留まり向上のための製造工程AI解析サービス」を行うプロジェクトを進めている。

 製造現場では、製品歩留まりの向上は重要なテーマとなっている。しかし、製造現場の現状では、ほとんどの製造条件は紙面に記録されているという。一部の情報のみがデータベースに記録されているが、それらを網羅して分析する必要があるため、紙からIoTを活用してデジタルデータを収集することを考案。そこからあがってくるデジタルデータを利用してAIデータ分析を行う計画だ。

 しかし、当初計画していたもののうち、パラメータ取得が困難で断念したもののあり、一部については継続的に調査を行っているものもある。現在、新たなパラメータ取得可能となる設備を導入し、影響を調査している。

 導入にあたっては、導入方法や費用等の問題点があり、現在検討を進めている段階。また、蓄積している過去数年分の歩留まりデータについては、重回帰分析などを用いて、傾向やパラメータとの関連を調査しているとした。温度、湿度のように現在取得可能なパラメータについては、今後も継続的に収集し、出来栄えにどう影響するのかを継続的に調査していく考えだ。

株式会社水上

 昭和22年に創業した株式会社水上は、大阪に本社を持つ。自社ブランドの建設材料・住宅設備などを提供するメーカーとしての事業と、商社として製品を提供する事業の両方を展開している。

 今回のプログラムは、入賞当時のテーマ「全国の幻の金物屋さんを求めて」から、「音声マイニング技術による、受注電話応対の自動化へ」に変更。2月から社内の有志によるシナリオに沿った疑似商談電話を録音し、無料サービスを利用して音声マイニングに挑戦した。

 その後、音声認識エンジンを持つAI COMUNISがプロジェクトに参加したことでプロジェクトは前進したものの、水上の社内電話からはモノラルでしか音声が取得できないことが判明した。モノラルの音声をステレオ化するには100万円単位の投資が必要となるが、PoCへの投資としては投資額が大きすぎると判断。現在はモノラルの音声を活用してプロジェクトを進めている。

 受注電話応対を自動化して営業電話に対応できる人材を増やすこと、営業担当者が社外で営業活動をする時間を増やすこと、音声を文字化して分析することにより、ニーズを顕在化して新しい市場を見つけることなどを目標として掲げ、最終的には、営業電話が受注センターとして機能していくことを目指す。

 社内の営業担当者が電話の応対に費やす時間を調査したところ、受注対応で25%、見積もり対応で20%となっているが、これを受注対応10%、見積もり対応15%とすることを目標としている。

アズワン株式会社

 アズワン株式会社は、本社を大阪に置き、研究用機器、看護用品、介護用品などの販売を行っている。今回のプロジェクトでは、「適正在庫AIモデル」の開発を進めている。

 現在は、適正在庫を算出する前提となる受注予測モデルを開発中。過去数年分の時系列データをPython上で予測し、その他の変数の取り込み可能性を検討して、インターネットチャネルのページアクセス数、自社内サイトの検索ワード推移、同業他社の四半期報告書のテキストデータ、外部経済指標などを変数として活用した。

 その結果、テストモデルとして同業他社決算資料テキストデータ利用モデル、Google Trends、時系列データ利用モデルの2種類のテストモデルが完成したという。この2つのテストデータは、メンターからのデータ期間見直し、変数の複合化といったアドバイスから生成された。

 Google Trends、時系列受注データ利用モデルは、2020年12月に社内サイトで検索されたワード一覧からTop50をGoogle Trendsでデータ取得。日次商品別受注額データから当該ワードに合致する商品群(複数商品もあるので)の受注額を利用してモデル化した。利用したアルゴリズムは、勾配ブースティングアルゴリズムの一種である、XGBoostを利用している。

 2020年12月、2021年1月データから2月の1カ月間の日次受注額を予測。決定係数は、実績と予測値との差異が少なければ1に近くなり、これを評価軸とする。決定係数0.5以上を有用とみなすと、調査50モデル中17モデルがこの方式で受注予測モデルとして利用可能となった。

 今後の拡張計画として、同業他社四半期報告書のテキストデータにはテキスト以外の決算数値データ、外部経済指標を取り込むことを予定している。Google Trends、時系列受注データ利用モデルでは、データ期間を延ばし、季節変動、ECサイトアクセス数なども取り込んでいく。

株式会社レニアス

 株式会社レニアスは、自動車のルーフ、窓、ライトカバーなどPC樹脂加工製品や輸送用機器および特殊車両の部品、セキュリティ商品の開発・製造・販売を行っている。今回のプロジェクトでは「AIを活用した需要予測、工程平準化」を進めている。

 現段階では、各工程のプログラム、需要予測については未着手。並び替えプログラム作成については、HC工程並び替えプログラムが完成している。全体平準化プログラムも80%程度完成し、パラメータ調整、バグ取りが行われている段階とのこと。

 同社の行程表作りは、現在はExcelを使い、1週間分の行程表作りに1人の担当者が2日間かけて取り組んでいる。これをHC行程並び替えで改善することを進めている。全行程の中で最も制約条件が複雑で、時間がかかることから、最初に取り組むこととなった。

 制約条件としては、前行程が4月1日に終わった場合、後工程は翌日から取りかかり、終了日が4月10日であれば、その前日である4月9日までには新たな行程作りを行う必要がある。また、行程の途中に温度変化があると、約1時間半の待ち時間が必要となることから、なるべく同じ温度で作業が行えるよう配慮する必要がある。製品をつるすハンガーの数が限られていること、製品の厚みによって利用するハンガーを変えるといった条件もあるという。

 実際にHC行程並び替えを行うと、日付情報しかないデータを時間で並び替え、さらに前後行程の日程にあわせることに苦労が多かった。ハンガーは慢性的に足りない状況であったことから、配慮を行うとさらに段取り時間が増えるといった悪循環に陥るなど、さまざまな苦労があったという。

 行程平準化プログラムは、今年3月売上は過去最高となるものの生産が追いつかない状況となるなど、今後の目標である年商100億円実現には必須となるという。生産を前倒しとすることで、3月のような、生産が間に合わない状況は回避できるのではないかと見込んでいる。

 同社では、受注データから納期を取得、最終製品が出来上がるまでの行程と段取りにかかる時間の取得、最終製品の出荷日で合計時間を取得、設定値になるように前倒しを実施する計画だ。生産管理システムと受注テーブルをもとに、平準化プログラムと前倒しデータ作成を行い、生産管理システムと生産計画テーブルにフィードバックする。ただし明確な正解があるわけではないことから、感覚で正解を導き出していかなければならないとのこと。

 今後はさらに、パラメータ設定、各工程の並び替えプログラム、正確な需給予測を進めていく計画だ。

株式会社ユーネットランス

 株式会社ユーネットランスは、愛知県豊田市に本社を置く運送を行う企業。「最適運行ダイヤ作成システム(仮称)構築」をプロジェクトとして進めている。

 2月から4月までの期間は、DX活動全体のロードマップを作成し、メンバーのベクトルあわせを行った。月度計画データをベースに、協力してくれる顧客に対して車載シミュレーションを実施したほか、効率化・最適化評価スキームを作成し、検討を行ったという。

 5月からは第2フェーズとして、サブツールの試用、シミュレーション、導入準備を進めることとなった。同時に顧客への理解を得るための活動、効率化・最適化評価スキームの検討・構築も進めている。サブツールは、実際の荷量データを使って、最適なパレタイズイメージと車載イメージを出力するもの。顧客に理解を得るための活動はなかなか容易ではない。顧客からは、「日々荷量データを提供するメリットが思い浮かばない」、「担当者が日々データ出力、加工をしなければならない」、「データを出力するシステムの処理が遅い」といった声が挙がっているという。顧客への理解を得ることは難しく、顧客側でも先端で働く人のDXが進んでいないこともうかがえるようだ。

 今後は、実際のデータを用いた効率化、最適化シミュレーションを実施し、評価スキームのテスト運用を進めるとともに、日々の荷量データを事前に提供してくれるように顧客への呼びかけを続けていく。それと共にサブツールの試用、本格導入を実現する準備を進める。スタート時点からの目標である最適運行ダイヤ作成システムを利用するためのAI、最適化エンジンの導入検討も進めていく。

*****

 9社の報告を受け、メンターである奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の平田俊貴氏は、「前回よりもさらに具体的な施策、現実的な取り組みが多くなっていると感じた。今回の中間発表の達成目標として掲げていたのは、前回の中間発表で策定できたおおよそのDX戦略に基づき、PoC検証を行い、段階的にビジネス効果がうまれるのかを測るという段階だった」と前置き。

 「今回の発表を聞いて、定性的、定量的に検証が進んでいることを感じ取ることができた。今回がちょうどこのプログラムの中間地点で、残り半年、各社のビジネス領域にどんな効果がもたらされるのか定量的に示す必要があるし、カスタマーエクスペリエンス、要するにDX化の価値を享受する人がどう価値を感じるのかを定義して、その価値を最大化する取り組みを行っていく必要がある。デルとプログラムに参加する皆さんと一緒に、これを進めて行ければと思っている」と中間発表を総括した。