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アクセンチュア、SAP、ANFの3者、会津の中小製造業にERP共同導入 25%の効率化目指す

 アクセンチュア株式会社、SAPジャパン株式会社、会津若松市の企業間連携などを進めている会津産業ネットワークフォーラム(ANF)の3者は9日、中小製造業が利用できる共通プラットフォーム「コネクテッドマニファクチャリングエンタープライゼス(CMEs)」を構築。第一号ユーザーとして、ANFの会員企業であるマツモトプレシジョン株式会社が2021年4月から利用を始めた。

 CMEsはSAPのクラウドベースのERPだが、「1つのものを多くの中小企業が共同で利用することを想定しており、ANFを本社とすれば会員各社をその下の事業部と考え、共同で一つのシステムを利用するイメージ」(アクセンチュア イノベーションセンター 福島センター 共同統括マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏)。

アクセンチュア イノベーションセンター 福島センター 共同統括マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏

 コストを抑えるために基本的にカスタマイズは行わずに導入する。中小企業であっても低コストで導入することを目指し、欧米各国に比べ低いとされる日本企業の生産性向上を狙う。試算では25%の生産性向上が可能としており、会津若松市での成功をベースに、同様のシステムの全国展開を目指していく。

 記者会見には会津若松市の室井照平市長も参加し、「幅広い業種が集積している会津だが、主要産業である製造業が共通で利用するプラットフォームが導入され、産業の活性化、業務効率化が進むことに期待する」と期待のことばを述べた。

会津若松市の室井照平市長

 今回のプロジェクトの前段として、アクセンチュアは2011年に会津若松市、会津大学と連携協定を締結し、2015年には地域再生計画認定を受け、スマートシティ作りを推進してきた。

 「地方都市が抱える問題として、災害による被害を受けた後の復興、地方創生をどう実現するのか、IT活用がうまくいかないために低生産性が続く地方企業を再生するための再生、ポスト・コロナでの地域作りをどう進めるのかなどがある。解決策としてデータ活用、IoT活用などがあり、複数の中小企業をITで結び活用していくことが必要ではないかと検討したことが、今回のプロジェクトのきっかけとなっている」(アクセンチュア 代表取締役社長の江川昌史氏)。

 スマートシティを実現するためには、地域に存在する中小企業を活性化することが必要というのがアクセンチュアの指摘だ。

 「スマートシティと聞いて、自動運転車、ドローンといったものを思い浮かべるだろうが、それよりもまず地方企業の生産性を上げることが重要。日本企業は世界各国の中で生産性が低いという調査結果が出ているが、なんとか米国には追いつけるよう日本企業の生産性を上げていきたい。米国にできて日本にできないわけがない」(アクセンチュアの中村氏)と、スマートシティプロジェクトの延長で、現実として必要な地元企業の生産性をあげるという方向性を打ち出した。

 日本企業の生産性を上げるために、まず日本に多い中小製造業にフォーカス。日本の中小製造業はIT投資のコストが限られていること、運用を行うにあたってもコスト・体制に限りがあることから、複数企業が共同プラットフォームを採用するシェアード型のITサービスを活用することが最適と判断した。

 プラットフォームの核となる部分はSAPと協力することで実現。SAP S/4をベースに、業務の余日を比較して検討できる機能、物作りの原材料を供給するサプライヤポータル部分を2020年度に開発済みで、2021年度には事業の予実を分析する機能を搭載。ERPを中心に、MES・サプライヤポータルとも連携し、業務の循環を高度化するものとなっている。

 「プラットフォームを利用することで、生産性25%改善を実現」の根拠としては、実地調査に基づいて業務改善を実施したことによるボトムアップで個社単体の効果を概算し、企業間連携による効果については仮説で概算を行ったという。

プラットフォームの範囲
「コネクテッド・インダストリーズ」実現に向けたロードマップ

 SAPは2019年にSAPイノベーションフィールド福島を開設し、企業の生産性向上、インダストリー4.0実現支援、デジタル人材育成といった地域への貢献といった活動を行ってきた。「日本企業の労働生産性向上は、日本社会が抱える課題のひとつ。今回の共通プラットフォームによって、中小の製造業の生産性向上を実現に寄与できるとしたら、こんなに喜ばしいことはない」(SAPジャパン 代表取締役会長 内田士郎氏)。

SAPジャパン 代表取締役会長 内田士郎氏

 アクセンチュアはSAPのERPを多くの大企業に導入した実績を持つことから、そこで構築したテンプレートを活用することもできる。

 また、SAPはドイツで製造業のスマート化を実現したインダストリー4.0を推進しており、製造業がデジタル化によって転身するためのノウハウを活用することも可能だという。

 こうして策定された共通業務システムプラットフォーム「コネクテッドマニファクチャリングエンタープライゼス(CMEs)」は、第一号ユーザーとして福島県喜多方市に本社を置き、機械精密部品加工を業務としているマツモトプレシジョンが2021年4月から利用を開始した。マツモトプレシジョン 代表取締役社長の松本敏忠氏は、「使い始めたばかりで具体的な成果はまだ出ていない段階。この1年、きっちり生産性があがるか見ていきたい」と話している。

 なお、ユーザーに近い場所でシステムサポートを行う企業が必要となることから、福島県でシステムインテグレーション事業を展開するエフコムが協力。マツモトプレシジョンをはじめ、CMEsを利用する企業をサポートしていく。

 CMEsの利用料金は明らかにしていないが、サブスクリプションモデルで、「中小企業であっても導入可能な料金としている」(アクセンチュア・中村氏)と説明している。