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コロナ禍で加速するメガトレンドを踏まえ事業を推進――、日本HPが2021年度の事業戦略を説明
2021年1月21日 12:09
株式会社日本HPは20日、2021年度の事業戦略について発表した。
日本HPの岡隆史社長は、まず「セキュリティとサステナビリティを製品づくりやサービスづくり、事業戦略の軸にして、その上で製品分野ごとにソリューションを積みあげていくことになる。これを、パートナーとともに、お客さまに届けていく。ニーズが異なり、ITリテラシーも異なるさまざまなお客さまに対して、最新で最適なテクノロジーや製品・サービスによってサポートしていくことが、日本HPのミッションである」と述べた。
そして、昨今の情勢を踏まえた戦略については、「コロナ禍においてもHPの戦略は変わらない。HPは10年後、20年後に世の中がどう変化するのかといったメガトレンドをもとに、求められる製品、サービス、テクノロジーを考え、投資をしてきた。そのトレンドの動きが速くなっただけであり、スピードを上げ、スケールを上げ、もっと身近に使ってもらえるようにすることに力を注ぐ」との考えを示している。
さらに、「ステイホームにより、会社でやっていたことを自宅できるようにしなくてはいけないというニーズが高まり、家庭内においても、子どもを含めて1人1台のパソコンが求められるようになった。これにより、家庭への浸透率は倍近い規模になっていくだろう。プリンティングも、会社のなかで大量に印刷するといった使い方から、家庭のなかに小型のA4プリンターを設置し、必要なものだけとをプリントするという動きに変わってきた。非接触というニーズのなかで、AIやVR、自動化といったテクノロジーを取り込む動きも加速した」と、コロナ禍によって家庭内利用の比重が高まった点に言及。
「PCが1人1台になってくると、これまでPCを使いこなしていなかった人が利用するようになり、自然とITリテラシーが高まる。また、動画や音声を利用したコミュニケーションが活性化し、自己表現したいという気持ちが高まり、クリエイティブな使い方も増え、コンテンツがリッチになり、スマートフォンから移行してくる。それに伴い、個人が自分にとって一番心地よい環境を実現したいという要望が高まることになる。これは、自分に適したデバイスやツールを選ぶことにつながるだろう。そして、パーソナライズ、オンデマンドといったニーズが高まることになる。これらがビジネス上のキーワードであり、こうした環境変化のなかで、日本HPはビジネスを進めていくことになる」との見方を示した。
一方で、「コロナ禍においてHP社内でキーとなったメッセージは、創業者の一人であるビル・ヒューレットによる『最大の競争優位は、本当に大変なときに正しい行いをすること』という言葉であった。基本に戻って、事業運営を進めることが大切である」との考え方を示し、その姿勢を忘れずにビジネスを進めるとしている。
また、同社2020年度(2019年11月~2020年10月)の業績も振り返った。
HPの全世界で売上高は、前年比2%減の約5兆9000億円、利益は約4200億円、フリーキャッシュフローは約4000億円となり、「コロナの影響による中国のサプライチェーンの問題などもあり、前半は大幅な減少となったが、後半はそれをカバーし、利益やフリーキャッシュフローは前年並となった。個人向けおよび企業向けのPCやプリンターのほか、商業および産業デジタル印刷、3Dプリンターなど、広範な事業ポートフォリオによって安定的な実績を達成した」と総括した。
また日本においては、「リモートワークへの対応では、セキュリティを意識した企業向けPCのラインアップを拡大。中小企業が導入しやすい環境をパッケージ化したHP BUSINESS BOOSTの提供、プロフェッショナルから個人向けまでのクリエイター向けPCを13機種投入した。オンデマンドのニーズに対応した次世代デジタル印刷機も10機種を一気に投入している」などと、2020年度の成果を振り返った。
2021年はPCが必要不可欠なツールになる
続いて、日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ事業統括の九嶋俊一氏は、パソコン事業について説明。「2021年はPCが必要不可欠なツールになり、デジタルワークプレイスと呼ばれる、将来のオフィスや、ホームのための足場固めの支援を行う1年になる」とし、「あらゆる働き方や暮らし方を支える幅広い製品およびサービスポートフォリオによって、パソコン事業を推進していく」と述べた。
使いやすさを向上した製品のほか、中堅・中小企業が導入したり、運用したりできる提供形態を推進。さらには、コラボレーションに集中できるカンファレンスPC、ゼロトラストを前提としたセキュリティソリューションなどを投入するとともに、新しいサポート体験も提供する考えを示した。
2021年において注目されるのは、DaaS(Device as a Service)への取り組みだ。
九嶋専務執行役員は、「2021年においてはDaaSが重要な取り組みになる」として、「製品、サービス、月額支払いのファイナンスをセットにした仕組みをスタートしているが、今後は、デバイスの利用状況を収集したり、事前にトラブルが起こらないように管理できるソフトウェアを組み込んだサービスに力を注いだりしていくことになる。ここでは、ファイナンスをオプションの扱いとして、月額支払いなどを選択できるようにする。テレメトリデータを活用したサービスの拡張など、内容は幅広くしていきたいと考えている。また、大企業や公共分野向けといった重要インフラを対象に、セキュリティ対策を強化したDaaSの提案も加速したい」とした。
一方、2020年の取り組みを振り返り、「2020年はクリエイターPCやセキュアPC、学習用PCなど、利用目的ごとに新たなコンピューティング体験を提供すること、使いやすさを追求したり、環境性能を追求したりすることでの顧客生涯価値の最大化、セキュリティ管理やデバイス管理などの提供によるサービス&ソリューションの加速という、3本柱で事業を行ってきた」と説明。
「コロナ禍でPCの役割が変化し、個人用PCと学習用PCが成長。Webによる販売が増加したり、セキュリティと管理の需要が顕在化したりしてきた。また、2020年はChromebookが大きく成長した1年であり、今後、企業や個人の需要にも影響してくるだろう。さらに、AIの用途をはじめとして、スケールアウト型で高度なGPU計算をするためのセンタライズワークステーションも投入し、新たな環境の実現を支援する提案も行った。これも、今年以降、成長していくと考えている。セキュリティでは、米国防総省などで採用されている封じ込め技術であるHP Proactive Securityを、日本市場向けに投入した。2021年は大きなビジネスに成長する」とした。
特にクリエイターPCでは、「特定の人だけでなく、パソコンを使う人すべての人がクリエイターという認識でいる。プロフェッショナル、プロシューマ、カジュアルという3つの領域で提案をしていく」という。
さらに、同社が行ったユーザーの意識変化調査の結果も示し、コロナ禍以前より生産的であるとの回答が44%に達していること、80%のクリエイターおよびパワーユーザーが在宅勤務の継続を望んでいること、バーチャルミーティングを好むユーザーが41%に達していることを紹介。
日本を対象にした調査では、2020年に在宅勤務用のために追加のPCを購入した人が58%、2021年のIT予算を増加もしくは前年並とした企業が86%に達していることを示しながら、「新型コロナウイルスによって後戻りができない体験が生まれ、PCが必要不可欠なツールになっている。また、マネジメントとセキュリティに対する関心も高まっている。ユーザーにとっては、デジタルリテラシーを定着させる1年となり、IT部門は緊急対応から恒久対策へとシフトすることになる。また事業部門は、本格的な変革を始める契機を迎えている。こうしたニーズに対して、日本HPは、健康的、生産的なデジタルワークプレイスの提供、ゼロトラストおよびモダンマネジメントの実現、AIやRPAの活用による自動化、無人化の提案を行っていく」と話した。
なお九嶋専務執行役員はPC事業において、製造、使用、梱包(こんぽう)・使用後という観点から、持続可能な社会に向けた取り組みを行っていることにも言及。世界初のオーシャンバウンドプラスチックを採用したノートPCやChromebook、ディスプレイを発売しているほか、アクセサリでは、リサイクル材料を使用したノートPC用スリーブを発売したり、梱包材では、プラスチックからパルプモールドに移行したりといった事例を示し、「サステナビリティは大切な取り組みである。HPは、世界で最も持続可能なPCポートフォリオを実現していくことになる」と強調している。
コロナ禍でデジタル印刷機の必要性が表面化
商業および産業デジタル印刷の取り組みについては、日本HP 常務執行役員 デジタルプレスビジネス事業本部の岡戸伸樹本部長が説明した。
「コロナ禍でデジタル印刷機の必要性が表面化した。社会、個人、企業が置かれた環境の急激な変化により、デジタル印刷需要が増加傾向にある」と切り出し、ラベル印刷およびパッケージ印刷量が2けた成長していること、HP PageWide WebPressの累計印刷量が5000億ページを達成し、成長率が市場のほぼ2倍の伸びになっていること、PrintOSのマーケットプレイスの売り上げが前年比約2倍になっていることを示し、「日本HPのデジタル印刷機のビジネスも大きく成長している。日本HPが印刷業界のDXを推進していくことになる」とした。
デジタルプレス事業は、顧客起点の印刷DXによってアナログからデジタルへの移行促進による「成長戦略」と、印刷物の価値向上により持続可能社会への貢献やセキュリティ対応を図る「付加価値戦略」の2つの柱で推進。「2020年はコロナ禍ではあったものの、史上最多となる10製品を新たにリリースした。米国では最新機種の大型契約も進んでいる」と述べた。
日本においては、デジタル印刷を活用し新たなビジネスを創造した事例について説明。2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が、化学を志したきっかけになった本として「ロウソクの科学」を挙げたが、出版元のKADOKAWAでは、デジタル印刷を活用して、10営業日かかる納品スケジュールを短縮し、わずか2営業日で製造・出荷。累計10万8000部の増版を達成したことを示した。またAmazonでは、サトーや凸版印刷との協業により、偽造品撲滅を目的とした可変二次元バーコードラベルをデジタル印刷。これを貼付して、オンライン販売における信用を担保することに成功したという。
さらに、オンラインを活用したデジタル印刷の訴求活動についても説明。HP TechおよびDevice TVでは、30番組に2000人が参加したオンラインライブ配信のほか、最新テクノロジーを紹介するHPカレッジでは、14セッションに600人が参加。ユーザー会であるDscoopオンラインミーティングでは、全世界50セッションに4000人が参加したという。
「コロナ禍でも、いち早くコミュニケーションをデジタル化し、安全な形で事業の継続を推進した」という。
3Dプリンティング事業の取り組みについては、日本HP 3Dプリンティング事業部の秋山仁事業部長が説明。「新型コロナウイルスは、3Dプリンティングの対象となる製造業に大きなインパクトをもたらした。既存のモノづくりの工法や、既存のサプライチェーンが有効に機能しなくなるなかで、この仕組みのままでは生き残れないことを実感する企業が多かった。だが、この脅威を機会としてとらえ、いまだからこそ、3Dプリンティングを活用したデジタルマニュファクチャリングの実現と、それをベースとした新たなサプライチェーンの構築に取り組む企業が、国内外ともに増えている。日本HPの3Dプリンティング事業も大きな成長を遂げている。装置導入の増加とともに、HP JET FUSIONを活用した造形量も過去最高になった」と語った。
コロナ禍において、HPでは、HPパートナーとともに、フェイスシールドやマスク、ドアオープナーなどの感染症対策部品の設計データファイルを公開。累計400万点以上の部品を製造し、生産リードタイムを大幅に短縮し、求めている医療現場に迅速に部品を提供するという新たなサプライチェーンを実現したという。
「この取り組みが製造業に認知された。3Dプリンターは設計製造ツールのひとつというのが以前の考え方であり、主に試作領域で活用、自社内での材料開発などの要素開発を実施することにとどまっていた。だが、医療現場で利用できる感染症対策部品を3Dプリンティングで作れるのであれば、治具や量産にも活用できるということが理解された。用途(アプリケーション)開発に集中したり、積極的に協業したりといった動きが出てきた」とする。
実際、それを裏づけるデータも出ている。同社の調査によると、デジタルマニュファクチャリング技術は経済成長につながると回答した企業は99%となり、現在、新たな生産やサプライチェーンモデルを調査している企業は90%、アディティブマニュファクチャリングや3Dプリンティングへの投資を検討する企業が85%に達しているという。自動車や、工業、医療などを中心に、アディティブマニュファクチャリングや、3Dプリンティングへの適用の準備が進んでいることも浮き彫りになったとのこと。
秋山事業部長は、「HP JET FUSIONは、製造業において重要な役割を果たす。その価値をしっかりと理解してもらうことが必要である。設計やデザインプロセスの革新、サプライチェーンの革新、ビジネスモデルの革新を後押ししたい」と述べた。
具体的な事例として、HP自らが、Jet Fusion 5200に搭載する部品を3Dプリンティングで生産していることを紹介。従来は12個の部品を20個のネジで組みつけていたが、これを一体造形し、組み立てを一切無くすことに成功。原価削減とパフォーマンスの最適化を両立したという。その後も、軽量化などのさらなる改善を進めているという。
また、サスティナブルな梱包資材として注目されるパルプモールドの製造課題を解決するためにJet Fusionを活用。同社独自のPA11材料は植物油脂由来で、環境にやさしい材料として活用できるほか、再利用率を高めることもできるという。
さらに、開発中の金属材料が使用できるHP Metal Jetの先行活用事例としては、CobraGolfが、世界初の3Dプリンティングを使用したパター「KING SUPERSPORT 35パター」を、日本を含めて限定発売。ほかの技術で実現できなかった複雑な格子構造で製造するとともに、パターヘッドの重量配分を最適化し、芯を外した場合でも信頼できる距離感を実現できたという。また、設計、開発、製造プロセスのすべてにおいて大幅なスピード向上も図れたという。
さらに、国内では、サンリーブが、HP Jet Fusion 5200 を活用したサングラス「iSPIC」を、HPの認定製造パートナーであるSOLIZEの協力により開発。射出成型では実現が困難なループヒンジを実現するとともに、10万回の開閉耐久試験もクリア。「3Dプリンティングのノウハウがない企業でも、製造バートナーとの協業でモノつくりが可能になることを示した」と述べた。
また、八十島プロシードとともに、Jet Fusion 5200向け新材料PP(ポリプロピレン)の共同技術検証を実施。フィードバックを反映し、造形パラメーターの最適化を進行させ、国内の多くのユーザーに利用してもらえる環境を実現することができるとしている。