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ビジネス部門のコラボレーションをG Suiteでクラウド化――、YKK APの活用事例

働き方改革を実現したリクルートホールディングスの事例も

 グーグル・クラウド・ジャパン(Google Cloud)は3日、G SuiteによるDX事例のプレスセミナーを開催した。

 YKK AP株式会社と株式会社リクルートホールディングスの担当者が、ビジネス部門のコラボレーションをG Suiteでクラウド化した経緯や、COVID-19対応に伴うテレワークなどについて語っている。

YKK AP事例:運用コスト削減、クラウド化、働き方改革のためG Suiteを導入

 YKK AP株式会社の齋藤充宏氏(IT統括部 グローバルITセキュリティ&ガバナンス)は、G Suite導入の経緯や、その後のCOVID-19対応でのG Suite活用について語った。YKK APは主に、窓やドア、エクステリアなどを製造販売する会社で、従業員1万6000人超の大企業だ。

 G Suite導入の目的は3点あり、オンプレミスで運用していた現行ツールの保守切れ対応や運用リソース削減などの「運用コスト削減」と、「クラウド化」、そしてテレワークなどの「働き方改革」だった。

YKK AP株式会社の齋藤充宏氏(IT統括部 グローバルITセキュリティ&ガバナンス)
G Suite導入の目的3点

 この3つの目的に対しての導入効果はどうだったのだろうか。

 まず「運用コスト削減」については、サーバーやクライアントの運用が楽になり、メールのアーカイブ運用なども楽になったという。「クラウド化」については、社外利用時や出張時にVPNが不要になったとのこと。

 3つ目の「働き方改革」については、「外出先でメールが見られるのが、単純ながら一番喜ばれた」と齋藤氏。そのほか、メールやファイル、カレンダーなどをまとめて検索できるCloud Searchが、生産性によい効果がもたらされた。

 G Suiteの高度な活用については、eラーニングのトレーニングなどで積極的に使ってもらうよう働きかけたが、実際の変化はゆっくりだったという。「Excelファイルを共有しての会議調整という、ちょっと驚きの文化が残っていたのも、最低限Googleスプレッドシートで調整するというところまでは来ている」と齋藤氏は語る。

 齋藤氏による活用事例としては、Google Apps Scriptを使ってカレンダー情報を収集して集計し、減らしたい業務や増やしたい業務を分析して業務改善策を検討している例が紹介された。「まずまずの成果を上げている」。

導入後の評価:運用コスト削減とクラウド化
導入後の評価:働き方改革

COVID-19到来を機に「会議に頼らない情報共有」へ

 こうしてG Suiteを利用していたときに、COVID-19到来によりテレワークが必要になった。ここでもG Suiteが活躍した。

 まず、緊急対応にあたり、Googleサイトに各所の対応状況を情報集約して見える化。また各種申請をGoogleフォームで対応した。さらに、Googleスプレッドシートで出社状況などを報告し集計したのが特に効果的だったという。

 そして在宅勤務については、社内および対顧客のコミュニケーションにGoogle Meetを活用した。

 こうした対応の結果、5月に社内アンケートをとって1万人以上の回答を集めた中で、「在宅勤務で業務上一番困ったこと」が「特になし」が55%だったという。

COVID-19への対応
社内アンケート「在宅勤務で業務上一番困ったこと」

 部門別の事例も齋藤氏は紹介した。

 ケース1は、営業部門の事例だ。会社として3月に原則在宅勤務になるとともに、在宅勤務のために緊急で約1,000台のPCを配布した。

 G Suite利用ではまず、会議のGoogle Meet化。経営会議や大規模会議もGoogle Meet化したため、副次的な効果として、席数制限から解放されたという。デジタルホワイトボードのJamboardも利用している。

 次に、行動予定表をGoogleカレンダーに移行した。これにより、テレワーク対応と同時に、活動実績入力による管理の効率化も図れたという。

 そのほか、Googleスプレッドシートによる共同作業や、Googleサイトによる情報共有などもなされている。

 社外への営業においては、Google Meetを活用して新たな営業スタイルを確立することが試みられている。「“片道1時間半かけて訪問する”というような移動時間を削減でき、また10分程度の商談で接点を増やすというもオンラインであれば可能になる」と、齋藤氏は新しい営業スタイルの可能性を語った。

営業部門の対応
新しい営業方法の模索

 ケース2は、シンガポールにある設計・施工管理部門の事例だ。シンガポールはロックダウン(都市封鎖)がなされ、しかもその発表から実施までの準備時間が実質3日のみと、限られた時間の中で、G Suiteで対応したという。

 その対策としては、PCを自宅へ持ち帰って在宅勤務に対応した。データはGoogle Driveで共有。それまでファイルサーバーに置いていたファイルを全力で移し、PC 4台をフル稼働させて1週間で3.2TB以上を転送した。

 その後は、在宅勤務の定着化に向けて対応。出社と在宅勤務の両方に対応し、同じくロックダウンが実施されたベトナムにも水平展開した。

シンガポールでの事例
在宅勤務の定着化に向けた対応

 今後のG Suiteのさらなる活用についても齋藤氏は語った。ゼロトラストネットワークなどインフラのさらなるクラウド対応をするとともに、社内情報のオープン化を推進。さらに、GoogleサイトやGoogleフォーム、GASを使える人を増やすため高度な使い方をサポートしたいとのこと。

 また、COVID-19対応長期化への対応としては、情報共有の非同期化による「会議に頼らない情報共有」を推進。さらに、職場であれば気づけることがテレワークでは気づけない問題についてサポートしてくれる管理機能の提供に期待を述べた。

今後のG Suiteのさらなる活用

リクルートホールディングス事例:ツール選定ではやりたいことからコンセプトを比較

 株式会社リクルートホールディングス(RHC)の田中ライカ氏(ICT推進部 UX Expert)は、G Suiteそのものというより、導入や活用によってDX施策を根付かせるための取り組みについて語った。

 なお、今回の事例はリクルートホールディングスの事例であり、リクルートグループ全体のものではないと冒頭で注意がなされた。

 リクルートホールディングスはCOVID-19対応以前から働き方改革に取り組んできたと田中氏は紹介。同社の目指す働き方改革は「従業員の体験(EX)の向上」だと説明した。その中で氏のチームは、EXとTechの両方を重視して社内IT環境を提供しているという。

株式会社リクルートホールディングス(RHC)の田中ライカ氏(ICT推進部 UX Expert)
リクルートホールディングスの目指す働き方改革は「従業員の体験(EX)の向上」

 さて、田中氏は「Googleアカウントを作成するときの登録画面」と「会社で名刺の申請をするときのExcel申請書」を比較し、「この格差はどこから来るのか」と問題提起。その理由の一つとして、優秀なエンジニアパワーは顧客向けに使われ、コーポレートITにはあまり使われないとした。

 そしてG Suiteを選定した背景として、定型業務からデータ分析までコーポレートのスタッフでも実現できることを挙げ、「定常教務を減らし、コラボレーションを促進させ、業務イノベーションを生む土壌」だとした。

 田中氏はまた、多くの企業がツールの選定で機能比較をしてしまうが、なぜやるのか(Why)の課題をもとにコンセプトを比較するほうがよいと主張。「やりたいことを明確にすれば、どのツールがいいかわかるし、施策を根付かせやすくなる」と語った。

G Suiteを選定した背景
「定常教務を減らし、コラボレーションを促進させ、業務イノベーションを生む土壌」

EXを重視して働き方改革を根付かせる

 こうしてG Suiteを導入して働き方改革を根付かせるために実施した、「EXを重視した取り組み」4つを田中氏は紹介した。

 一つめは「施策の透明性を保つ」。例えば業務に影響があるものは3カ月前に通知してフィードバックをもらうなど、施設の背景やプロセスをユーザーに対してオープンにするという。

 2つめは「困っている人=ポテンシャルのある人」ということ。困っている人というのは、いままでのやりかたで回らなくなっている人や、チャレンジしようとしている人であるという考えから、コーポレートIT担当にとって「機会」だという。そして、きちんとサポートすることが大事だとした。

 また、困っている人への対応を、質問に回答する待ちの立場の「カスタマーサポート」と、困ったことを聞いたり情報を教えたりする攻めの「カスタマーサクセス」に分け、そして、同じ質問に回答する負荷を減らずためにFAQチャットbotを作ろうといった「ITソリューション」を提案した。

 3つめは「有益な情報を何度も何度も伝える」こと。「従業員は業務に追われている中で、一度の発信では届かないことが何度もあった」と田中氏。そこで、ナレッジのような有益な情報は、何度も何度も伝えることが必要だという。その一環としてITブログを毎日欠かさずに更新しており、定期的に発信することが重要だとした。

 4つめは「変わった先に何が待っているのか見せる」。働き方改革で変わった先にどんな未来が待っているかを見せる必要があるという。その例として先述のFAQチャットbotを作ったことを田中氏は挙げた。例えば「RHCってなんの略?」という、入ったばかりの人にはわかりづらいFAQについて(答えは「リクルートホールディングス」)、botに聞くと教えてくれるという。

①「施策の透明性を保つ」
②「困っている人=ポテンシャルのある人」による「ITソリューション」
③「有益な情報を何度も何度も伝える」
④「変わった先に何が待っているのか見せる」

 こうした取り組みの成果として「抵抗を生まない変革ができたんじゃないかと思っている」と、田中氏は報告した。

 特に、使いこなして効果を感じるように説明することが重要だと田中氏はつけ加えた。例えば、「今までExcelでした作業をそのままGoogleスプレッドシートに置き換える」というと「あまり変わらないなら昔のままがいい」という声も出る。それに対して「Googleフォームでアンケートをとり、スプレッドシートと連携させて、回答の分析をリアルタイムに行う」ということであれば効果を感じると、田中氏は語った。

 最後に田中氏は「魔法のようにすべて解決したりしない」として、ツールがすべてを解決してくれるわけではないと強調。そしてコーポレートITの仕事を「人を向き合っていく作業」として、従業員に寄り添ったEX重視の施策により、DX施策を根付かせたと語った。

取り組みの成果:抵抗を生まない変革
「魔法のようにすべて解決したりしない」