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より多くのSaaS/サブスクリプションビジネスを日本から――、Auth0、CircleCI、Stripeが支援プログラムを提供開始

 Auth0株式会社、CircleCI合同会社、ストライプジャパン株式会社の3社は3日、日本におけるSaaSビジネスおよびサブスクリプションビジネスを普及/促進するため、SaaSビジネスのローンチに必要な支援を提供する「Go_SaaS 三種の神器」プログラムを共同で展開していくことを発表した。

 支援の対象となるのは、パッケージビジネスからSaaSへの転換を図るISVや、SaaS/サブスクリプションビジネスを新規に立ち上げ中のスタートアップ。3社のインフラを支えるアマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社も、セミナー開催などを通して本プログラムに協力していく意向を示している。

SaaS/サブスクリプションビジネスを始める前のハードルを下げる

 「Go_SaaS 三種の神器」プログラムは、既存ISVや新規事業部門、スタートアップなどが、国内市場だけでなく海外市場も視野に入れたSaaS/サブスクリプションビジネスをスタートするにあたって大きな障害となる、「技術的な課題」「コスト的な課題」「組織文化的な課題」を解決するのに必要な支援を提供することを掲げている。

国内ISVおよびスタートアップがSaaSビジネスに参入する際の課題と、Go_SaaS 三種の神器プログラムが考える支援策

 ISVがパッケージビジネスからSaaS/サブスクリプションビジネスに移行するためには、オンプレミスやパッケージとは異なるID管理システムた課金システムが必要となるだけでなく、「最新バージョンが唯一のバージョン」という、パッケージビジネスにはないコンセプトを理解し、継続的な開発/リリース体制を構築する必要がある。スタートアップの場合はこれに加え、少ない開発人員やリリース期間の短期化といった課題と向き合わなければならない。

 SaaS/サブスクリプションビジネスを始める前のこれらのハードルを下げるため、ID管理のAuth0、CI/CDのCircleCI、課金管理のStripe、そしてこの3社自身のSaaSビジネスの基盤であるAmazon Web Services(AWS)が協力し、日本からより多くのSaaS/サブスクリプションビジネスを誕生させるきっかけにしたいというのが、今回のプログラムの主旨となる。

 具体的には、以下の3点が「Go_SaaS 三種の神器」プログラムの主な支援策となる。

技術オンボーディング支援

AWSジャパンと3社が共催するかたちで、SaaS/サブスクリプションビジネスに関連するナレッジや各種ツールのワークショップ、ユーザー事例紹介などを提供する教育セミナーを、東京を含む主要都市で開催。初回セミナーはAWSジャパンのオフィスにおいて7/8に開催予定。

コミュニティタッチ支援

3社が抱える2000名超のコミュニティを“伴走者”として活用できるような環境を提供し、DevOpsやCI/CDなど、SaaS/サブスクリプションビジネスを“正のフィードバックループ”で回していくための土壌となるセルフラーナーな文化を、導入相談や技術支援を通して伝えいてく。

コスト改善支援

Stripeの課金システム導入を検討するユーザーには、初回決済金額250万円分までを無料とする特別クーポンを提供、同社が標準で提供する初回決済額1億円分まで「Stripe Billing」利用料を無料とするサービスとあわせ、キャッシュフローの改善を図る。また、CI/CDを速く回したり(CircleCI)、認証環境の実装に手間と時間をかけない(Auth0)ことで、初期コストを含む大幅なコスト改善効果を提示する。

SaaSやサブスクリプションをビジネスの基盤とするには、課金やID管理など、パッケージビジネスとは異なるいくつものコンポーネントが必要であり、キャッシュフローやリリース管理に関してもコンセプトを新たに理解しなければならない。Go_SaaSプログラムではこの中でももっとも重要な3つ、「ID管理」「CI/CD」「課金管理」にフォーカスし、SaaSビジネスへの参入を支援する

 ゲストとして会見に登壇したAWSジャパン アライアンス本部本部長 阿部泰久氏は「SaaS事業にはいくつかの必要なコンポーネントが存在するが、その中でもID管理、継続的な開発/リリース管理(CI/CD)、課金管理はもっとも重要な存在。これらのコンポーネントをビジネスの立ち上げ時から利用することで、ISVは開発のリソースを自社の強みへと集中して投下でき、顧客の要望に迅速に応えることができるようになる。SaaS/サブスクリプションビジネスの“はじめの一歩”として本プログラムを活用し、日本から多くの新規ビジネスが誕生してほしい」と語っており、AWSとしても積極的に協力していく姿勢を示している。

AWSジャパン アライアンス本部本部長 阿部泰久氏

 なお、現時点では、既存ISVがパッケージビジネスからSaaS/サブスクリプションビジネスへと移行するための支援が中心で、まずはオンプレミスからクラウドへとライセンスを移行することを最初のステップとし、次にビジネス領域を拡大するシングルテナント型SaaS、さらに競争力強化を図るマルチテナント型SaaSへと段階を踏んで移行できるようにサポートしていくという。

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 世界的なSaaS/サブスクリプションビジネスの隆盛に付随するように、日本でもSaaS市場は確実に拡大している。「サブスクリプションビジネスを世界で最も知る人物」とも言われる米Zuoraのティエン・ツォ(Tien Zuo)CEOは筆者とのインタビューで、「日本市場は世界でも1、2を争うサブスクリプションビジネスの可能性に満ちた市場。市場の伸び率も非常に高く、ユーザーの新しいサービスへの関心も高い。必ずもっと大きな波が来る」と語っていたが、事実、国内ISVにおいても、収益全体でSaaS/サブスクリプションビジネスが占める割合や粗利率が大きく向上しているという調査結果もある。

 一方で、自社サービスのSaaS化にあたってはこれまでとはまったく異なる開発/運用体制が求められることになる。「Go_SaaS 三種の神器」プログラムは、その中でも特に実装の難易度が高いとされている3つのコンポーネントを、それそれを得意とする3社が提供することで、ISVやスタートアップがSaaS/サブスクリプションビジネスに参入するハードルを下げる役割を果たすとされている。

 だが技術的な課題とは別に、日本のSaaS/サブスクリプションビジネスの拡大を妨げる大きな要因となりうるのが、国内企業のマルチテナントに対するアレルギーだ。海外企業と比較しても、国内企業のシングルテナント指向は非常に強く、私見ではあるがマルチテナントの利用が広がらないかぎり、国内でのSaaS/サブスクリプションビジネスが飛躍的に伸びる未来は期待しにくい。

 この点について各社の代表に質問したところ、「大きなコストをかけて固有の環境を維持するよりも、標準を使ったほうが効率がよいことを呼びかけていきたい。これまでAWSがやってきたように大手の顧客の声を地道に集め、マルチテナントのメリットを伝えていく」(AWSジャパン 阿部氏)、「最近ではクラシックな大企業でもSlackなどを使うようになっており、少しずつ(マルチテナントの)波が来ていると実感している」(ストライプジャパン 代表取締役社長 ダニエル・ヘフナン氏)、「クラウドでサービスを提供しなければジリ貧になるという危機感は多くの企業がもっており、確実に変化を感じている。マルチテナントへの関心も高まってくるのでは」(CircleCI カントリーマネージャ 森本健介氏)、「われわれ自信がマルチテナントで成功いていく姿を見せていきたい。シンプルな手法だが、繰り返し繰り返し(マルチテナントの)良さを伝え、嫌悪感を取り除いていくことにつなげていく」(Auth0 カントリーマネージャ 藤田純氏)といった回答を得た。

ストライプジャパン 代表取締役社長 ダニエル・ヘフナン氏
CircleCI カントリーマネージャ 森本健介氏
Auth0 カントリーマネージャ 藤田純氏

 かつてAWSが、セキュリティなどにまつわるクラウドへの抵抗感を、フィードバックループとユーザー事例を地道に積み重ねていくことで拭い去っていったように、「Go_SaaS 三種の神器」プログラムの活動を通して地道に普及活動を繰り返し、マルチテナントを含むSaaS/サブスクリプションビジネスへの各ハードルを下げていく意向だ。

 本プログラムでは、今後2年間で約100社がSaaS/サブスクリプションビジネスにオンボードすることを目指している。2年後、日本のSaaS/サブスクリプションビジネス市場がどう変わっているかに期待したい。

記者会見では、記念撮影も行われた