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「400人のエバンジェリストを任命して社内へ浸透」――、J. フロント リテイリングのG Suite導入事例

 大丸や松坂屋、パルコといった百貨店などを束ねるJ. フロント リテイリング株式会社が14日、Googleのプレスセミナーに登場。GmailやGoogleドキュメントなどのオフィスソフトウェアの企業向けSaaS「G Suite」導入にあたり、組織変革の手法である「チェンジマネジメント」を取り入れた事例を紹介した。

紙や口頭での情報伝達が課題

 J. フロント リテイリングでは、「業務効率化(スピードアップ)」「組織生産性UP(コラボレーション)」「発明体質(イノベーション)」の3点で働き方改革を進めていると、同社の土屋真弓氏(グループデジタル戦略部 あたらしい幸せ発明部 インフラ企画担当)は説明。「そのための武器をみんなに与えるためにG Suiteを導入した」と語った。

 いくつかの課題の中でも大きかったのが、紙や口頭で伝達するという形態だ。毎日の通達は紙で配布され、開店前に読み上げられる。シフト表も紙で作るので作業量が多く、時間をとられてしまう。さらに、店舗から本部に生の情報が上がってこず、横の情報共有がされないため、各店長は孤軍奮闘となるという。

 これを解決するために、2017年7月からG Suiteの導入を開始した。「私もかつて店頭で販売員をしていたが、その目線で便利だと思った」と土屋氏。「それまでシステムにあまり投資してこなかったので、G Suiteを全部使ってやろうと考えた」。

 ただし、会社の働き方改革につなげるには、ツールを入れるだけではなく、社内に浸透させる必要がある。そこで、チェンジマネジメントをサポートしているGoogleのチームの助けを借りた。

J. フロント リテイリング株式会社の土屋真弓氏(グループデジタル戦略部 あたらしい幸せ発明部 インフラ企画担当)
J. フロント リテイリングの目指す働き方改革
働き方改革に向けた課題。特に、紙や口頭での情報伝達が問題となっていた

チェンジマネジメントの4つの柱

 そのGoogleの山田理禾氏(Google Cloud JAPAC Change and Transformation Manager)は、企業の変化に対する社員のよくある反応として、「とにかく反発する評論家」「パニックに陥る被害者」「見て見ぬふりをする傍観者」「前向きなナビゲーター」の4つを挙げる。そして、「チェンジマネジメントの1つのゴールは、1人でも多くナビゲーターにすること。これにうまく対応するのがチェンジマネジメント」と語った。

 チェンジマネジメントには、「関係者を巻き込む」「組織分析」「コミュニケーション」「教育」の4つの柱がある。

 「関係者を巻き込む」は、トップ(社長等)、部課長(ミドルマネジメント)、エバンジェリスト(現場の社員でボランティアとして参加してもらう人)の3つの関係者に先導してもらう。

 「組織分析」では、社員にどのような影響があるかを分析し、業務プロセスへの影響を現場の社員に考えてもらい、成功指標を定義する。

 「コミュニケーション」では、変化が起きていることやベネフィットを全社員に伝え、さらにフィードバックを集める。

 「教育」では、社員に教育プログラムを実施する。「教育は実装を完了した時点で終わりというわけではなく、継続して教育していく必要がある。そのため、人事研修部門で取り入れてもらう」と山田氏は語った。

Googleの山田理禾氏(Google Cloud JAPAC Change and Transformation Manager)
4つの柱①:関係者を巻き込む
4つの柱②:組織分析
4つの柱③:コミュニケーション
4つの柱④:教育

「社内から選抜した400人のエバンジェリストがいちばん効いた」

 この4つの柱について、J. フロント リテイリングの土屋氏は「言われたことは全部やっていこうと思った」という。

 「関係者を巻き込む」では、まず社長のメッセージを浸透させるべく、DVDに出演してもらい、研修時に流しているという。また役員からまず変えるということで、役員会議の資料を紙からデジタルにしてGoogleドライブに置き、iPadで見てペンで書き込めるようにした。

 「役員の方は、自分で資料を作るというより資料を見て判断する立場なので、PCよりiPadが向いていると考えた」(土屋氏)。

 さらに重要なのが、推進役として、社内の全1万2000人の社員から400人のエバンジェリストを選抜し、全体に浸透させる役割を担ってもらったことだ。「大変だったが、これがいちばん効いた」と土屋氏。

 先行トライアルを実施し、「使い尽くしてください、皆さんにはあなたから伝えるんですよ」と伝えたことにより、「主役は私」というモチベーションアップにつなげた。その結果、「すごく機能してくれた」(土屋氏)という。

役員会議をGoogleドライブ+iPadでペーパーレス化して模範を示す
400人のエバンジェリストに推進役になってもらったのがいちばん効いた

 G Suiteの導入にあたっては、一度にすべて導入してパンクしてしまわないよう、フェイズを分けて段階的に進めている。

 フェイズ1(2017年7月~同年下期)は個人の活用促進による「スピードアップ」。Googleハングアウトによる社内コミュニケーションや、Googleサイトによる情報一元化、Gカレンダーによる会議予約を導入した。

 続くフェイズ2(2018年上期)はチームの活用促進による「コラボレーション」。Google+で社内コミュニティを促進し、Googleドライブの容量無制限プランで資料を共有し、Googleドキュメントでシフト表や企画資料を共同編集した。

 そのほか、G Suiteを使ってもらうために、社内新聞「G Suiteマガジン」を発行し、「こう使われている」という姿を紹介して、劇的に変わったことをアピールしている。

 また、4つの柱の1つである「教育」については、「使ってもらって便利さを気付いてもらうため、浸透するまで教育し続ける」という。

 これからの展開については、全社員が使えるようになったところから、取引先とのコミュニケーションにつなげたい考えだ。「1万2000人の社員がエバンジェリストになって取引先に浸透させる」と土屋氏。「なんでもかんでもマネージャーを通していたのを、取引先に開放することで、直接連絡できて負担の軽減につながる」。

 もう1つの展開としては、社内のリテラシーギャップをなくすことがある。各地に広がる百貨店の場合は、集合教育をやりづらいため、動画を導入する考えだという。

G Suiteの導入は、フェイズを分けて段階的に進めた
社内新聞「G Suiteマガジン」を発行して「こう使われている」という姿を紹介