ニュース

キヤノンMJが新中期経営計画を発表、ITソリューションなど市場拡大領域での増収増益を目指す

2018年度連結業績は営業利益減、デジタル一眼やインクジェット機が低調

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は29日、2021年を最終年度とした「2019年~2021年中期経営計画」を発表した。2021年度(2021年1月~12月)の業績見通しは、売上高が6550億円、営業利益は335億円、経常利益は348億円、当期純利益は230億円を見込む。

 またグループITソリューションの売上高は、2018年度から年率5%の成長を計画。2021年度には2300億円(そのうち「エンタープライズ」が1414億円、「エリア」が684億円)の売上高を目指し、「2025年ごろには、3000億円の売り上げ規模を目指したい」(キヤノンMJの坂田正弘社長)とした。

キヤノンMJの坂田正弘社長(写真は過去の製品発表会より)

 同社では、毎年中期経営計画を策定するローリング方式を採用しており、前年度の中期経営計画において、2020年度には、2007年度に達成した過去最高の370億円の営業利益を上回る計画を打ち出すなど、積極的な成長戦略を描いていたものの、今回の中期経営計画ではそれを下方修正したものになった。

 キヤノンMJの坂田社長は、「これまで想定していなかった、カメラ市場の縮小も見込んでおり、消極的な数字に見えるかもしれない。またITソリューションにおいては、2020年1月のWindows 7のサポート終了以降、プロダクトの減少も見込まれる。売上計画は現実的なものとした。だが売り上げを高めていくことだけが目標になってはいけない。2021年にこの売上高を達成すれば営業利益はもっと出てくるだろう。利益優先の計画になっている」とした。

 なお、2021年度におけるセグメント別業績見通しは、エンタープライズの売上高が2100億円、営業利益が115億円。エリアの売上高が2725億円、営業利益は130億円。コンスーマの売上高が1325億円、営業利益は70億円。プロフェッショナルの売上高は600億円、営業利益は25億円を見込んでいる。

キヤノンの主力製品をしっかりとやっていく

 今回の中期経営計画における基本戦略は、

・レンズ交換式デジタルカメラ、インクジェットプリンター、MFP、レーザープリンターによる「キヤノン主要製品の収益維持」
・ITソリューションや産業機器による「ITソリューションを中心とした市場拡大領域における増収増益の実現」
・ネットワークカメラ、プロダクションプリンティング、ヘルスケアにおける「成長を期待するキヤノン事業における収益基盤の確立」

の3点を挙げ、「活力ある高収益グループを目指す」とした。

 「キヤノンの主力製品をしっかりとやっていくことが大前提である。ナンバーワンシェアの製品をさらに突き詰めていく一方で、MFPもナンバーワンになることを目指す。ITソリューションでは、大手企業向けには業種ごとのニーズを理解する一方、中堅・中小企業向けには、ITの専門家がいない部分をカバーし、人手不足を解消するソリューションを提供していく」(坂田社長)。

 キヤノン主要製品においては、ミラーレスカメラ、およびインクジェットプリンターにおけるビジネス機と大容量タンクモデルのラインアップを強化する姿勢をみせたほか、MFPでは、非対面営業の推進とCEによるリプレース活動の推進を図るという。またレーザープリンターでは特定業種向けの拡販などに取り組み、この分野にも継続的に注力する考えを示した。

 なお、コニカミノルタが進める「Workplace Hubプラットフォーム」については、「われわれの方が、ITソリューションによってサポートできる領域が広いと考えている」などとコメントしている。

 そのITソリューション事業については、「データセンター、ITセキュリティ、BPOの領域に注力していく」という。

 大手企業向けSI事業では、深い業種、業務知識を活用したサービス提供型モデルを強化。受託開発モデルからSIコア・パッケージSIの増加による生産性の向上を推進する一方、ITインフラサービスでは、構想から運用、保守までのITライフサイクル全体の対応を強化する考えで、「ITソリューションといっても、今はまだ、PC、サーバー、ソフトウェアが中心である。サービス、サポートを伸長させて、利益をしっかりと確保していきい。この分野における力をつけていくことが大切である」とした。

 また中小企業向けSI事業では、「提案やサポートを通じて、ITコンシェルジュとしての役割を果たしていく必要がある。面として、顧客との接点を持って行く」とし、IT専任者の不在をカバーする課題解決型提案や、オフサイトとオンサイトを組み合わせた独自性のある保守・運用サービスを提供する。

 セキュリティでは、セキュリティ運用監視サービス、セキュリティコンサルティング、セキュリティ対策強化によるトータルセキュリティ提案モデルを確立するという。

 さらにBPOでは、業務特化型BPOモデルの確立を目指し、ITソリューションとBPOとの組み合わせによって、顧客課題を解決する提案スタイルを強化する。だが「BPOに関しては人材がそろっているとはいえない。人材教育や人材獲得のほか、場合によってはM&Aも考えたい」とした。

 同社では、2018年1月1日付けで、組織体制を一新し、従来のカンパニー制を廃止。市場や顧客を中心としたビジネスユニット体制へと移行している。

 キヤノンMJの坂田社長は、「顧客や市場にフィットした新たなフレームワークで、この1年間をやってきたが、今年1月には一部組織変更を行い、微調整をした。SIなどを中心に、同じビジネスユニット内の顧客基盤の相互活用が進んだほか、中小企業のIT課題全般に応える、提案型営業スタイルへの展開を加速するなどの成果があった」とした。

 コスト構造改革による徹底的な販管費の削減については、「筋肉質な体質になるために手を緩めずに取り組んできた」とし、RPAなどの先端IT技術活用による、業務プロセスの改革、コンタクトセンター統括本部の設置によるコールセンターシステムの共通基盤化と、拠点および要員の最適化、外部流出コストの内製化などを推進し、販管比率を現在の30.4%から28.8%へ引き下げる考えを示した。

営業減益は前年比4.8%減、デジタル一眼やインクジェット機が低調

 一方、2018年度(2018年1~12月)の連結業績も発表した。売上高は前年比1.7%減の6215億円、営業利益は同4.8%減の289億円、経常利益は同3.1%減の305億円、当期純利益は同0.7%増の208億円となった。年初には増収増益の計画を立てていたが、減収、営業減益の結果となった。

 ITソリューションや産業機器は成長したものの、デジタル一眼レフカメラやインクジェットプリンターが市場の想定以上に低調に推移したこと、収益性の高い商品の売り上げが減少したことが影響した。

 キヤノンMJの坂田正弘社長は、「昨年1月時点ではミラーレスの投入もあり、カメラ市場の縮小はあまり予測していなかった。それ以上に一眼レフカメラが縮小。デジカメやインクジェットプリンターなどによる収益向上領域は低調となった」と、その理由を説明する。

 一方では、「だが、独自成長領域であるITソリューションは需要が旺盛であり、業種ごとの営業活動の徹底やエンジニアのスキル向上によって、しっかりと成長できた。Windows 7サポート終了の影響もあるが、人手不足をITでカバーしていくということが、中堅・中小企業の経営者にとって共通認識になっている点が背景にある。西東京データセンターのⅠ棟は満床であり、2020年夏をめどにⅡ棟の稼働を目指す」とコメント。

 また、キヤノンMJ 取締役専務執行役員の松阪喜幸氏は、「B2Cは減収減益だが、B2Bは全体的に増収増益であり、ITソリューションがけん引した1年になった」と振り返った。

 なおPCの品不足については、「そうしたことは聞いているが、業績に大きく影響していることはない」(キヤノンMJの坂田社長)とした。

 セグメント別では、「エンタープライズ」の売上高が前年比5.7%増の1877億円、営業利益が同24.3%増の96億円。クレジットカードや証券向けで大型システムインテグレーションがけん引するとともに、生保向けの帳票設計関連ソリューション、損保向けに調査業務の効率化を図るクラウドシステムが堅調に推移。銀行向けに信託業務負荷軽減のBPO案件を新たに受注したという。

 また製造業向けでは、電機メーカー向け生産管理システム案件や化学メーカー向け大型オフィス構築案件などが業績をけん引。システム更新のためのマイグレーション案件なども好調に推移した。

 流通業向けには、航空会社向け文書管理システム案などのほか、オフィスMFPの大型案件の受注などがあった。さらに文教では、学内の情報発信や学習管理等をIT基盤システムとして提供している「inCampus」で複数の案件を受注したが、前年に大型案件があった反動があったとしている。

 なお、同セグメントに含まれるキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、データセンターサービスや、ESETなどのセキュリティ、車載組み込みソフトビジネスが堅調に推移。売上高は前年比5.7%増の895億円、営業利益は同36.2%増の74億円となった。

 「エリア」の売上高は、前年比0.8%減の2559億円、営業利益が同14.0%増の130億円。生産性向上や働き方改革などを切り口に、ビジネスPCの入れ替えが進んだことなどにより、ITプロダクトが増加。各種IT導入支援や保守サービスなどが好調だった。

 また、中小企業向けIT支援クラウドサービス「HOME」や、ウイルス対策ソフト「ESET」も順調に推移。ITソリューションビジネスの売り上げが増加した。

 その一方で、オフィスMFPやレーザープリンターなどの主力ハードウェアの出荷が低調に推移。営業利益は、レーザープリンター向けカートリッジなどの粗利が高い製品の売り上げが伸びたことに加え、販管費の削減などで増益となった。

 なお、連結子会社のキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の売上高は前年比1.3%減の1173億円、営業利益は同13.2%増の38億円となった。

 またグループITソリューションの売上高は、前年比8.6%増の1977億円。そのうち、グループITセキュリティの売上高は前年比2%増になったという。

 「コンスーマ」は、売上高が前年比9.6%減の1502億円、営業利益が同42.1%減の73億円。Kissブランド初のミラーレスカメラ「EOS KissM」がシェアNo.1を獲得したほか、同社初のフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」の発売により、ミラーレスカメラの売り上げが増加した。一方でデジタル一眼レフカメラが低調に推移し、レンズ交換式デジタルカメラ全体の売り上げは減少している。

 コンパクトデジタルカメラも売り上げが減少。インクジェットプリンターは、ビジネスインクジェットプリンターが好調に推移したものの、年賀状の減少などに伴う市場の低迷によって減収。インクカートリッジも本体稼働台数低下に伴うプリントボリュームの縮小によって、売り上げは減少した。ITプロダクトは、ゲーミングPCやモバイルバッテリーなどが順調に推移したという。

 「プロフェッショナル」の売上高は前年比3.1%減の524億円、営業損失は前年の18億円の赤字から回復したものの、9億円の赤字となった。

 そのうちプロダクションプリンティングは、高速カットシートプリンターや高速連帳プリンターが低調。産業機器は半導体製造装置や検査計測装置、産業用コンポーネントなどが堅調に推移したが、非半導体分野で海外取引先との販売代理店契約が終了したことが影響。ヘルスケアは、医療情報システムや眼科機器などは伸長したが、病院向けモダリティ案件などが低調に推移した。映像ソリューションは、放送事業者向け4K/8K衛星放送の開始の影響を受けて需要増となったが、ネットワークカメラが減少した。

2019年度は増収増益を見込む

 なお、2019年度(2019年1月~12月)の業績見通しは、売上高が前年比0.1%増の6220億円、営業利益が同1.9%増の295億円、経常利益が同0.6%増の307億円、当期純利益が同0.4%増の209億円と増収増益を見込む。

 消費税率の引き上げや通商問題の動向、海外経済の不確実性、金融資本市場の変動の影響などにより、先行き不透明な状況が続くものと見込んでいる。

 2019年度のセグメント別業績見通しは、エンタープライズの売上高が前年比1.0%増の1900億円、営業利益が同11.5%増の97億円。エリアの売上高が同2.1%増の2629億円、営業利益は前年並みの121億円。コンスーマの売上高が前年比7.6%減の1388億円、営業利益は同5.5%減の69億円。プロフェッショナルの売上高は小津5.0%増の487億円、営業利益は同22.1%増の11億円を見込んでいる。

 エンタープライズは、主要なハードウェアなどで減少となるが、金融業や製造業向けソリューション、SIやデータセンターサービス、セキュリティなどのビジネスが引き続く増加。エリアは、オフィスMFPの新製品による販売増、ITソリューションの売上拡大などを見込む。また、IT保守などの収益性が高いビジネスが増加するものの、前年と比べて稼働日が減少することで、消耗品ビジネスに影響が出るとしている。