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Cloudera、Hortonworksとの合併の背景や今後の製品ロードマップなどを説明

Cloudera World Tokyo 2018レポート

 Cloudera株式会社は6日、プライベートイベント「Cloudera World Tokyo 2018」を虎ノ門ヒルズフォーラムで開催した。本社にあたる米Clouderaは10月3日(米国時間)に、米Hortonworksとの合併を発表しており、午前中の基調講演でも合併の背景や今後の製品統合ロードマップが紹介されている。

 さらに基調講演終了後、より詳細に内容を説明する記者発表会が行われ、日本法人から代表取締役の中村共喜氏、米国本社からCMOのミック・ホリソン氏、CTOのアマ―・アワダラ氏らが出席した。

Hadoopの訴求から顧客の課題解決へとビジネス方針を転換

 基調講演の冒頭、あいさつのために登壇した中村氏は「今日はClouderaの日本法人代表に就任してから1年と1日目にあたる。怒涛の1年だった」と前置き。

 「Clouderaの事業年度は2月から開始するが、今年度は事業方針を大きく転換した。これまではHadoopと、それを取り巻くエコシステムの価値訴求を中心としたビジネスを行ってきた。しかし、これからは個々のお客さまの課題を分析し、解決に導くようなビジネスを展開する。もちろんClouderaだけですべての課題を解決することはできない。お客さまやパートナーと一緒に、さまざまな課題を解決していきたい考えている」と述べた。

Cloudera株式会社 代表取締役 中村共喜氏

 中村氏は記者発表会でもClouderaの事業方針転換について説明し、先日、NECがClouderaのストラテジックパートナーに認定されたことを紹介した。

 同席したNEC AIプラットフォーム事業部長代理 森山由紀氏は、今回締結されたパートナーシップについて、「これまで基幹システムのデータ基盤は、リレーショナルデータベースが中心で、扱うデータの規模が大きくなればDWH(データウェアハウス)を構築してきた。しかし、最近は非構造化データを管理したいという要望が高まっており、これからのデータ基盤としてNECでは以前よりHadoopにフォーカスしてきた。Clouderaの製品やサポートは、非構造化データでも管理・運用できるツールが充実していたり、安定した管理・運用ができるようにするためのサポートが提供されているため、エンタープライズのお客さまには馴染(なじ)みやすい。今回ストラテジックパートナーとなったことで、販売・サポートの対応を強化していきたいと考えている」と説明している。

NEC AIプラットフォーム事業部長代理 森山由紀氏

Hortonworksとは理想的な補完関係にある

 10月に発表されたHortonworksとの合併については、基調講演でも大きなトピックとして取り上げられている。ホリソン氏は「ClouderaとHortonworksは長い期間の話し合いを経て、ようやく合意に達した。両社は理想的な補完関係にある」と説明した。現在も合併の手続きが進行中で、2019年の第1四半期に合併の完了が予定されているという。

米Cloudera CMO ミック・ホリソン氏

 両社の合併による戦略的根拠としてホリソン氏は、「明確なカテゴリリーダーとして業界標準を確立できる」「IoT、クラウド、DWH、AI/MLの革新を促進できる」「補完的な製品ラインアップを持つことができる」「エンタープライズ データ クラウドを提供できる」「コストシナジーによる財務的なメリットが得られる」の5つを挙げている。

両社の合併による5つの戦略的根拠

 これらの根拠のうち、合併後に即座に得られるのは、事業領域におけるカテゴリーリーダーの地位だ。いずれもHadoopのディストリビュータとして、エンタープライズで大きな実績を持っている。

 OSSにも多大な貢献をしており、主要なコミッターの多くはClouderaとHortonworksのエンジニアである。今後もこの事業領域に新たな企業が参入してくる可能性は十分に考えられるが、この優位性は簡単に失われることはないだろう。

 Hadoopのディストリビュータとして強力なコンペティターという関係ではあったが、ClouderaがAI(人工知能)/ML(機械学習)分野に注力してきたのに対し、HortonworksはIoT/エッジコンピューティングにフォーカスしてきた。そのため、両社の製品、顧客、パートナー、投資領域は補完的な関係にあり、この方針は合併後も継続される。

 「from the Edge to AI」、つまりHortonworksのIoT/Edgeの技術と、ClouderaのAI/MLの技術が統合されることで、データが発生するエッジから、それらのデータからアクションを起こすAIに至るまで、エンタープライズ・データ・クラウドという1つのプラットフォームで提供できるようになる。

 興味深いことに、多くのユーザー企業において、ClouderaとHortonworksの両方が採用されているという。つまり、業務や部署によって異なるディストリビューションが採用されているというのだ。

 ホリソン氏は「すでに両社の製品を導入しているお客さまには、大きなメリットになる。これからは2つの製品を管理する必要はない」と説明する。

 もちろん、このメリットは、両社のパートナーにとっても、大きな意味を持っている。これまでClouderaとHortonworksのいずれかのパートナーであれば、サービスポートフォリオが拡大することになり、すでに両社と関係しているパートナーにとっては、管理対象が1つに集約されることになる。

両社のポートフォリオは補完関係にあり、エッジからAIに至るまで1つのプラットフォームで提供できるようになる

 もちろん財務的なメリットも非常に大きい。これまでの両社の業績は非常に良好であり、合併によって新しい会社の顧客は約2500社以上となる。この中には、いわゆるラージエンタープライズとよばれる企業も多く含まれている。売上高は約7億2000万ドルあり、借金なしで5億ドルの現金を手にすることが明らかにされている。

 ホリソン氏は「おそらく2020年には10億ドル規模の売り上げを持つ企業となる。今後はAmazon、Microsoft、Googleといった巨大な企業とも競争していくことができるようになるだろう」と述べている。

財務的なメリットも非常に大きい。合併後は約2500社以上の顧客を持ち、約7億2000万ドルの売上高を持つ企業が誕生する

すべての機能が統合された製品は2020年後半以降に登場

 合併後には、両社の製品を統合したプラットフォーム“Unity”の開発がスタートする。

 ホリソン氏は「OSSをベースにした両社のコードの70%は同じものであり、両社が差別化のために開発したコードは30%程度にすぎない。ソフトウェア企業の合併と、それに伴うコードの統合として非常にまれなことではあるが、非常にスムーズな統合が可能」と説明した。

 なお、“Unity”は統合という意味のコードネームであり、製品名ではないと説明されており、統合プラットフォームの正式な呼称は未定とのこと。

 ユーザー企業がもっとも重要視する既存製品のサポートについて、ホリソン氏は「ClouderaのCDH、HortonworksのHDPおよびHDFについては、合併完了から3年間(2022年第1四半期)までサポートを継続する」と明言している。

 Unityは段階的に優先度の高い機能からクロスポート(移植)されていくため、最初にリリースされる「Unity 1.0」の段階では、すべての機能が統合されるわけではない。

 すべての機能が統合が完了するのは「Unity 2.0」となる予定で、2020年後半から2021年にリリースされる見込みであるという。

 もちろん1.0から2.0の間には、段階的に1.xのバージョンがリリースされることになるので、既存のユーザーは適切なタイミング(自分たちが使いたい機能が実装された時点)でUnityに移行することができる。なお、Unity 1.0のリリース時期については、まだ明確にされていない。

合併後は統合プラットフォーム“Unity”を開発しつつ、既存製品のサポートも3年間継続する。サポート対象ユーザーは、Unityにアップグレードできる

 また合併後の社名は「Cloudera」となることが明らかにされ、ホリソン氏はClouderaの既存ユーザーに対して「これまでと何も変わらない」と述べている。

 もちろんHortonworksのユーザーにとっても、既存製品のサポートが保証されていることや、Unityによる機能統合が行われることで、失われるものは何もなく、逆に得られるメリットの方が大きい。

 このことはユーザーやパートナーも理解しており、日本市場での反応について質問された中村氏は「ネガティブな反応は見られない。むしろ歓迎されている」と述べている。

 さらにアワダラ氏も「グローバルでも全く同じ反応。多くのユーザーが両社の合併を歓迎している」と述べた。

AI分野には今後も投資を続けていく

 アワダラ氏はClouderaの創業メンバーの1人であり、現在はCTOを務めている人物だ。そんな同氏が2008年に創業したClouderaの10年を振り返り、「最初の5年間のミッションはビッグデータだった。柔軟性や拡張性を持ったDWHの開発に取り組み、創業者のフィルタを通してではあるものの、最高のDWHを作り上げることができたと自負している。そして次の5年でAIやMLに力を注いできた」と述べた。

 「AIやMLはメディアの報道のせいで、誇大広告気味になっている」と指摘したアワダラ氏は、「今後は当たり前のものになっていく」と述べ、その具体的例としてメールのスパムフィルタを挙げる。

 「多くのユーザーは、AIによって迷惑メールが排除されていることを意識せずに、メールを使っている」と述べ、今後は多くの企業がビジネスにAIを取り入れ、さまざまな製品やサービスがAIによって実現していくが、ユーザーはAIであることを意識せず当たり前のように存在するテクノロジーとなっていくという見解を示した。

 しかしその一方、「ビジネスにAIを活用するまでの時間がかかり過ぎている」という課題があるとアワダラ氏は指摘している。アワダラ氏は基調講演でも、「AIを活用するために何カ月、場合によっては何年もかかることがある。しかし、その期間もテクノロジーはどんどん進化し、導入したテクノロジーが古いものになってしまうこともある」と述べており、この課題を解決するのもClouderaのミッションの1つであると述べている。

米Cloudera CTO アマ―・アワダラ氏。基調講演ではAI活用について説明した

 AIの活用についてアワダラ氏は「いきなりAIをやろうとしても失敗する。AIを活用するには、“ビッグデータ”や“分析”を行う土台となるプラットフォームが重要。このプラットフォーム上でデータサイエンスやMLに取り組み、AIを活用できるようになる」と説明した。

 Clouderaは、ビッグデータを扱うことのできるデータプラットフォームに加え、データサイエンスツール「Cloudera Data Science Workbench」や、エキスパートによるガイダンスやトレーニングなども提供している。

AI活用にはデータを活用するための土台が重要

 さらにアワダラ氏は、最近提供を開始したインテリジェントなワークロード体験管理クラウドサービス「Cloudera Workload XM」を紹介した。XMの“X”は「Experience(体験)」、“M”は「Management(管理)」を意味しており、既存のワークロードをリスクにさらすことなく、データマートとウェアハウスを統合し、アナリティクス体験を提供できるという。

 なお、これまでClouderaとHortonworksがフォーカスしてきた分野への投資は今後も継続されることが発表されており、ClouderaがフォーカスしてきたAIやMLの分野においても、ますます機能やサービスが拡充していく予定であるという。