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ファナック、製造現場を最適化するプラットフォームFIELD systemのα版をリリース
パートナー企業向けにAPIを公開
2016年8月31日 11:20
ファナック株式会社は29日、パートナー向けカンファレンスにおいて、シスコ、Rockwell Automation、Preferred Networks(PFN)と共同で開発を進めている製造・生産の最適化プラットフォーム、「FANUC Intelligent Edge Link and Drive(FIELD)system」のα版のリリースを発表し、パートナー向けに公開されたAPIの技術説明を行った。
FIELD systemは、製造機器、ロボット、センサーなど工場にあるすべての機械がネットワークによってつながり、1つの工場のみならず、すべての工場において製造・生産の全体最適化を行うことを目的とした仕組みだ。深層学習や機械学習などのAI関連技術も搭載されており、ロボットに対する作業内容の習得時間の短縮、機械故障の事前検知、機械故障時の自律的な代替動作なども可能になる。
FIELD systemは、シスコが提唱する「フォグコンピューティング」アーキテクチャに基づいて開発されている。すべてのデータをクラウドに集約して分析を実行するのではなく、各工場内で膨大なデータの処理と分析を実施し、必要な情報だけをクラウドで共有するため、よりリアルタイム性が高くなるという。
ファナック 代表取締役会長の稲葉善治氏は、夕刻に開催された懇親会にて、「IoTの発展によって、製造現場にはIT革命が起こりつつある。これまでのように個々の製造装置の自動化やロボット化を推進するのではなく、工場のすべての機器をネットワークで接続することで、1つの工場だけではなく、複数の工場やサプライヤーをネットワーク的につなぎ、巨大な生産システムとして生産現場の全体最適化を目指すようになっている」と指摘。
その上で、「FIELD systemは、ファナックが得意とする“Edge Heavy”な技術をベースに、単に工場全体を“見える化”するだけにとどまらず、機械学習などの機能により工場全体の知能化を推進する、将来の技術を先取りした仕組みだと自負している」と述べ、FIELD systemの優位性をアピールした。
さらに稲葉氏は、今回のAPIの公開について「FIELD systemは、オープンなプラットフォーム。それぞれのパートナーが自分の得意な分野で協力して欲しい」と述べた。
来賓として登壇した経済産業省 製造産業局長 糟谷敏秀氏は「第4次産業革命という波に直面し、製造業にも様々変化が起きている。あらゆるモノや情報がインターネットを通じてつながるようになったことで、設計・開発段階における時間、コスト、リスクなどの削減、製造段階での多様なニーズへの対応やリードタイムの削減、品質向上など製造効率の大幅な改善が可能になっている」と、現状を説明。
続けて、「日本の製造業の強みは“現場力”にある。技術者の高い技能水準と、それに支えられた日々の改善によって生産性は着実に向上してきた。これらの高い技術がFIELD systemによって多くの工場やマーケット、サプライヤーとつながることで、新しい価値が創造されることを期待している。もちろん期待するだけではなく、政府としてもやらなければならないことがあることは自負している」と祝辞を述べた。
民間企業のみならず、日本の経済成長戦略の視点からも、日本発のFIELD systemが注目されていると言えるだろう。
参加者を代表して懇親会で乾杯の音頭を取ったのは、日立製作所(以下、日立) 代表執行役 執行役社長兼CEO兼取締役の東原敏昭氏。「“モノの提供から価値の提供へ”、”所有することからシェアリングすることへ”、“クローズからオープンへ”、“部分最適から全体最適へ”と、デジタル化の流れに沿って世の中は大きく変革し、産業構造も大きく変革している。日立はトータルインテグレーションパートナーとして、日本発の日本発のFIELD systemをグローバルに展開していくお手伝いをしたい」と述べた。
さらに東原氏は、日立が独自に展開するIoTプラットフォーム「Lumada」にも言及し、「今回公開されたAPIをつかってLumadaとFIELD systemをつなぐことで、現場から経営までを一貫してつなぐことができる」と自社製品との接続性をアピールした。
上記の4社協業によるFIELD systemの開発が発表されたのは、2016年4月。発表からわずか4カ月で、パートナー企業はトータルインテグレーションパートナー9社をはじめ、すでに200社を超える勢いだ。
7月にファナックとNTTグループ3社(NTT、NTT Com、NTTデータ)が、FIELD systemの早期実現に向けた協業を発表したことも影響している可能性は高い。
なお、懇親会に参加していたNTT Com 取締役 第二営業本部長の菅原英宗氏からは、「NTTグループはさまざまな形でFIELD systemに関わっている。NTT Comはシステムの構築、NTTデータはアプリケーションの開発やデリバリー、より源流に近いコアな技術についてはNTTの研究所が担当している」と、7月にファナックと協業したNTTグループ3社のおおまかな役割について説明を受けた。
さらに同氏は、ネットワークインテグレータパートナーとして、「当社は、グローバルにインフラを提供しているため、海外進出を検討しているお客さまのお手伝いも可能だ」と話している。
なお、今回のカンファレンスには500人を超える参加者が集まった。その中には、エンドユーザとしてトヨタ、日産、ホンダ、スズキ、ダイハツ、ヤンマーといった大手メーカーの参加者も含まれており、FIELD systemの注目度の高さが窺えるイベントとなった。
なお、FIELD systemの正式なリリースは2016年12月を予定している。正式公開までの期間にβ版などが公開されるかどうかは不明であるが、α版の段階での注目度の高さを考えると、今後ますますパートナーや早期導入を希望するエンドユーザーが増えていくことが予想される。